娘と謎のお友達



※白鳥視点


今日はこはくっちとの約束の日。すごい楽しみにしていた日のはずなのに、おれの中でモヤモヤとしたものがある。



「こはくっち」
「どないしたん?ラブはん」



メニューを見て、適当にオーダーを済ませた後、こはくっちの名前を口にする。こはくっちは何も知らないからこそ、キョトンとした表情でおれを見てくる。右、左、また右を見渡して周りに不審な人がいないか確認をした上で、テーブルに身を乗り出してなるべく他の人たちに聞かれないよう小さな声で呟いた。



「蓮ちゃんに最近、会った?」
「蓮ちゃん?」



小さな声に手を添えてヒソヒソ話。こはくっちはおれから蓮ちゃんの話を持ちかけたのが予想外だったようで目をパチクリさせながらおれの言葉を復唱する。



「そう…、ちょっとおれェ…気になってることがあって…」



こはくっちの反応とは裏腹におれが抱える感情はマイナスの色、今思い出しても不安などの負の感情しか生まれない。自然と視線を下ろして
身を乗り出した体を支える手のひらを見つめて、ずっとおれが抱えていたものを言葉にする。そう、あれは蓮ちゃんと久々に会った時のこと。





「蓮ちゃんだよっ!」
「わぁ!蓮ちゃん!こんにちは!」



久々に見かけた蓮ちゃんは前に会ったことをしっかりと覚えてくれてたみたいで今回は最初っから寄ってきてくれたんだよね。初めましても2回目ましても泣かれてたり逃げられたりしたから、めちゃくちゃ嬉しいよぉ〜!!!



「蓮ちゃんおっきくなったねぇ〜」
「蓮ちゃんだよ〜」



パタパタとおれの前を動き回る蓮ちゃん。何度も自分の名前を呟く姿はとっても可愛らしい。おれは蓮ちゃんの目線の高さに合わせるため、しゃがんでみたら蓮ちゃんが立ち止まって不思議そうな表情でおれを見つめる。



「おれの名前覚えてるかな〜?」
「んぅ?」
「あー、だよ」
「あー」


前に会ったのはALKALOIDのみんなでいた時だったから、そこから少し間も空いてるしね。そう思っておれの名前を一文字ずつ声に出せば、蓮ちゃんも一緒に復唱してくれる。



「あーい、」
「あいちゃ!」
「そうだよ〜!」



ホントにかわいい…!!元気よくおれの名前を口にしてぴょんって飛んだんだけど〜?!?!ニッコニコに笑った顔もめちゃくちゃ天使…!!!



「蓮ちゃんの持ってるお人形さんもかわいいね、パパとママに買ってもらったのかな〜?」


そう、実は蓮ちゃんの腕の中には一体のお人形さんがいる。可愛らしいお洋服を着た女の子のお人形でさっきから蓮ちゃんが飛び跳ねたり移動する度に、お人形の髪が振動につられて靡く。



「んーん!おちちゃんよ!」
「え…?」
「おちちゃ!おっちゃ!」


蓮ちゃん、何で言った?おれの耳にはおっちゃんって聞こえるんだけど…おじちゃんって言ってるのかなぁ…。えっ、これ親からじゃないとしてもヒロくんでもないってことだよね?蓮ちゃん、いつのまにもらったの?!優希さんたち知ってるの?!?!



「藍良!どうしたんだい?」
「ヒロくん…!!!蓮ちゃんのお人形なんだけど、」
「あぁ、なんか知らないうちにもらってたらしいんだよね」
「し、らないうちに…?」



もう、おれビックリしちゃったよ。おれと蓮ちゃんのところにやってきたヒロくんに確認しなきゃ!って思ったけど!!!ヒロくんも知らないってどういうこと?この時ばっかりは能天気なヒロくんにイラッとしちゃったよねェ…。呑気に笑ってるし、なんなら蓮ちゃんと一緒にわちゃわちゃし始めてるし。

蓮ちゃん、そのうち拐われたりしない?



「ってことがあってね…、こはくっちは蓮ちゃんの交友関係とか知らないかな…」


おれは優希さんと会う機会も燐音先輩と会う機会もある訳じゃないから聞くに聞けなくて。そんな時にちょうどこはくっちとの約束があったから、まずこはくっちに聞いてみようと思ったんだよね。こはくっちは、燐音先輩と同じユニットだしおれより全然知ってることも多いと思うから。それでもわからなかったら、やっぱり優希さんに言おう。根拠も何もないことだけど、やっぱり心配だもん。





「ん〜わしが知ってるのは、そうやなぁ…」


約束した時は、めちゃくちゃ楽しみにしてるね!なんて言ってたラブはんが今日会った時から浮かない表情浮かべとってどないしたんかと思ったわ。具合悪いんやろか?思ったったけど、わしに言ってきたのが蓮ちゃんのことで豆鉄砲食らった気分や。

せやけど、話を聞いたら確かに心配になるのもわかるっち話や。蓮ちゃん、ごっつ可愛らしいもんな。わしも詳しいとちゃうけど、最近の蓮ちゃんを思い出してみよか。



「みぃちゃ?」


そやな、あれはコズプロの事務所に行った時の話や。蓮ちゃんがコズプロの事務所にあるデスクの下のを覗きながら誰かの名前を呟いている。


「んぅ?いないない」



どうやら、御目当てのものはなかったようで、蓮ちゃんは首を横に振って次のデスクをまた覗く。なんや、おもちゃでも落としたんかな。



「蓮ちゃん、どないしてん?」
「こはくちゃ!」
「コッコッコッ、蓮ちゃん今日も元気やな」



デスクの下を覗いたり、潜ったり、小さい子ならではのことやっとって、微笑ましいんやけど、一応ここは事務所やからな。燐音はんの娘っちやけど、何しても良い訳とちゃう。近くに燐音はんの姿もなさそうやけ、とりあえず蓮ちゃんに声かけてみたら、元気よく名前呼んでくれたわ。



「蓮ちゃん、何か落としたんかな?」
「こはくちゃ!みぃちゃんいないいない?」



デスクから這って出てきた蓮ちゃんは、んしょって立ち上がってわしと目線を合わせてくれる。せやから、落とし物があって届かへんのやったら、取ってあげよう思ったら、予想外の名前言われてしもうたわ。



「みぃちゃん…」



コズプロでは耳慣れない名前やわ。子役の子の名前とかなんかなぁ、もしくは誰かのペットとか?ジュンはんみたいに。基本蓮ちゃんがコズプロに来る方が珍しいもんなぁ。坊の話聞いてると、優希はんがニューディに連れてってるっぽいし。せやから、蓮ちゃんの交友関係はさっぱりやわ。



「蓮ちゃん、みぃちゃんってお友だちなん?」
「うん!おとっだち!」
「そなんやね、遊ぶ約束してるんかな」
「蓮ちゃんとあそぶの…!」



わからへん、約束してるのかも全くわからんわ。蓮ちゃん力強く遊ぶって言ってくれたけど、それだけじゃはっきりせんな。しゃあない、燐音はん探そか。そう思った矢先、ニキはんが来よったんよね。そんで、「にい!!!あそぶ!!!」って蓮ちゃんが一気にニキはんに突っ込んでなぁ。そっから全部の興味も意識もニキはんに行ってしもうて、終わったんやっけ。




「蓮ちゃんにみぃちゃんゆうたお友達がおるみたい」
「みぃちゃんってふつーに女の子だよね、それ」
「さよけ。せやから、そのおじちゃんはわしも知らへんな」
「そっかぁ…」



そう言いながら、がっくりとテーブルに項垂れるラブはん。ここお店やからね、あんま行儀よくあらへんよ、と思いつつやんわりと言葉をかける。せやけど、確かに引っかかるなぁ。




こはくっちとのせっかくのカフェも結局心から楽しめず。美味しいスイーツ、めちゃくちゃ映えだったからちゃーんと写真にも残したけど!もう!モヤモヤしちゃうよぉ〜!!!美味しいもの食べて癒されるはずの時間が…絶対リベンジしようと決めてお店を後にした。

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