浅葱色の男の子





大きく広がった芝生。犬が喜んで駆け回れそうなぐらいの緑が広がった公園にいた。


天気は良くて、肌を掠めるほどの風はこの天気と気温に合っていて心地よく感じさせられる。そばには燐がいて、外なのに二人で過ごせる貴重な時間。人が周りにいないことを良いことに、あたしたちは二人で寄り添いながら芝生に座ってまったりとしていた。



まるで故郷にいた頃を思い出す、自然の多さと心地よさ。燐に寄りかかっているからこそ、より故郷を思い出してしまうのかもしれない。目を閉じて、風を感じて、今自分がここにいることが何よりも幸せだと実感させられる。こんな時間がずっと続いてくれたら、





「っぐす、」




そう思っても、いつだってそう上手くはいかない。聞き慣れない声がして、しかも悲しそうな声に閉じていた目蓋を上げて辺りを見渡せば、ポツンと一人蹲っている子供が目に止まる。


まるでいつかの出掛けた日のように。


こんな風に一人で泣いている子供と遭遇する縁でもあるのだろうか。そんなことをぼんやりと考えつつも、小さい子が泣いているのを見てほっとくような精神を持ち合わせてもいないので、あたしはすぐさま駆け寄った。




「どうしたのかな、」



男の子だった。その子は一人で蹲って俯いて泣いていて、声をかけたら澄んだ浅葱色の瞳と目が合う。男の子の瞳にあたしの心臓が一度だけ大きく高鳴る。なんでそうなったかはわからないまま、なるべく表に出さないように困惑していたら男の子がぎゅっとあたしのお腹に抱き付く。初めてなのに、根は人懐っこいのか、もしくは不安に駆られて誰かに安心を求めてなのだろうか。どちらにせよ、この子が何故ここに一人でいるのかが問題だ。一緒に解決してあげないと。




「周り、見てきたけど誰も親っぽいヤツいなかったな」



燐はこの子の親を探しに行ってくれてたみたい。この子に歩み寄ったあと、しばらく姿を見ていなかった燐が少しだけ困ったような表情で戻って来てくれた。そっか…、どうしようかな、と思いつつこの子が少しでも落ち着くようにと思って、背中をさする。ぎゅっと力を込められた腕は緩む気配はないからこそ、今の燐の言葉を聞いて更に不安になったのかもしれない。




「っぐ、す、おねーちゃッ、」




聞き間違えじゃなければ、おねえちゃんと言ったはず。抱きつかれて泣き止まず、ぐぐもった声だったからはっきりと聞こえたわけではないけれど、確かにそう聞こえた。



「おねえちゃん、と一緒だったのかな」
「おねっ、ちゃっ…」



聞き間違えではなかったみたい。男の子に聞いたら男の子の声が更に震えてしまった。泣かしたいわけではないけれど、今のあたしたちは手詰まり状態。彼から何かを聞き出して情報を得なければならないから、なんて声をかけるべきか悩ましい。



「パパとママは?一緒じゃねぇの?」



あたしたちを見ていた燐がしゃがんで男の子に目線を合わせるようにして優しく声をかける。諭すように、なるべく男の子が取り乱さないよう配慮して。男の子に振る話題としては、一か八か。燐の質問に男の子は少しだけ身を捩って、あたしのお腹から顔を少しだけ覗かせる。



「…ん、おねーちゃ…っ」



これは肯定なのか否定なのか。また改めてぎゅってするから、何とも言えない。



「おね、ちゃ…いっしょ、いるっていったっ」



この子はひたすらおねえちゃんにこだわっている。やっと言葉らしい言葉を紡ぎ始めたこともあり、この子が喋りやすいようにとあたしはそっと耳を傾けていれば、嗚咽をしながらも必死に話してくれた。聞いた感じからするに、男の子はおねえちゃんと一緒にいたのだろう。すごく仲が良いようだ。それが何らかの理由で離れてしまったと思われる。

一緒にいるって言ってたのに、いなくなられたら…そう、不安だよね。



「おねえちゃんもきっと探してるだろうから、一緒におねえちゃんのところ行こうか」




燐の場合、まるで自分とひーくんを重ねてるみたい。おねえちゃんの方の気持ちを察して男の子に声をかける姿を見て、少しだけほっこりさせられる。男の子もその一言に少しだけ安心させられたのだろう。涙ぐみながらも、静かに頷いた。












「名前は何て言うのかな」
「ん…ぅ」
「じゃあ、何歳かな」



燐に抱っこされて一緒に歩きながら、男の子に話しかけてみるけど、困ってしまった。どれも言葉を詰まらせ何も答えてくれない。親が知らない人に名前を言うなと教育しているのかも。それだったら、しっかり躾けていてえらいと思うけど、ここまで会話が続かないのも困ったものだ。




「優希、んな表情したら不安にさせるだろ」
「だって…、燐に懐いてる気がする」
「さっき優希にもくっついてたじゃん」
「そうだけど」




さっきまであたしにくっついていたはずなのに、燐に抱っこしてもらってからは燐にぴったりだ。燐のお兄ちゃん的な安心感に心を許したのだろう。良かったと思う反面、ここまで一気に懐かれてしまうとちょっとばかり寂しさもある。



「んぅ」



男の子は燐にくっついて抱っこされて、安心した表情はまるでひーくんを思い出す。昔故郷にいた頃、本当に幼い頃の話だ。次期君主様として日々の稽古などに励む燐が年相応な男の子に戻れた機会の一つだった。ひーくんと一緒にいる時は、本当に優しく面倒見るお兄ちゃんだったのをあたしは知っている。


兄弟かぁ…羨ましいなってよく思ったものだ。




「んぅ、あっ」



突然だった。男の子は突然、ハッとして燐の腕の中で動き出す。あたしだったら絶対抱えていられないほど、容赦なく暴れるかの如く動き出した男の子にあたしも燐もびっくり。燐は何とか落とさないように抱えるも、男の子がどうやら降りたそうにしていたらしい。落ち着きのない男の子を気をつけながらもしゃがんで下ろせば男の子は一目散に駆け出した。



「おねーちゃんっ!!!」



男の子は迷うことなく走り出して、無我夢中。今まで一緒にいたあたしたちには目もくれずに。



走り出して、そして男の子は、
























「ん…あ、れ」



目を開けた時、そこは見慣れた寝室だった。

カーテンは閉めてあり、隙間から日差しが木漏れていて、今が朝だと言うことを告げる。視線をずらせば、あたしの横に気持ちよさそうに眠る燐の姿。




「…夢か」





ぼーっとする意識。夢を見たという感じではなかったから、寝起きも相まって思考回路が働かない。状態を起こして、ん〜、っと背伸びしてあくびを噛み締めて。時間的にはそんなに遅い時間じゃないはず、たぶん。体感的には焦らなくても良い時間のはずだ。だって、燐も横で気持ちよさそうに寝ているから。そう思いつつ、時間を確認しようと思ってベッドサイドに置いておいたスマホに手を伸ばそうとすれば、突然廊下がドタバタと音を立てる。



「まま〜!!」



ガチャリと開けて現れたのは蓮。これで完全にあたしの意識ははっきり覚醒してしまう。それもそのはず、蓮がこんな時間に起きていたことに驚いてしまった。タタタッと現れた蓮は最初こそ、何か嫌な夢でも見て目が覚めたのか、突然何か不安になったり寂しくなってしまったのではと思ったけれど、違うらしい。表情は悪くない、むしろ機嫌は良さそう。勢いよくベッドの上にいるあたしの元へダイブするから、ベッドが少しだけ上下に跳ねた。



「おはよう、蓮。今日は早いね〜」
「んぅ〜!」



ぎゅぅうっとお腹のところに抱きついてきて、幸せそうにハニカム蓮を見ながら、夢の中の男の子を思い出したりして。そういえば、あの子はちゃんとおねえちゃんに会えたのかな、そうだと良いなと思いながら、柔らかい蓮の髪の毛をそっと撫でる。



「…んぅ?」



蓮が突然静かになった。あたしのお腹を見つめてジッとして。どうしたんだろう、何かあったっけ。と思ってあたしも釣られてお腹の辺りに視線を落とすけど、別に寝巻きが肌蹴てもいなければ、いつも通りのはず。



「いーこいいーこ」



いつも通りのはずなんだけど。蓮は何を思ったんだろう。あたしのお腹を撫で始めた。いい子いい子って言いながら。子供は親の予想していないことを仕出かすのはわかっているし、何度も体験してきたけれどこれもやっぱり理解ができず、あたしはされるがまま。




「蓮だよ〜っ」



うん?



「蓮だなァ…朝から元気じゃん」
「ぱぱ!どーんっ!!」
「おわっ!蓮っ、突然はアブねぇっしょ!!!」



不可解な蓮の行動は燐のお目覚めで強制終了。パパが起きたことにより、蓮はさっきあたしに抱きついてきた勢いよりも更に激しくベッドに乗り上がって、そのバネを利用して思いっきりパパに飛び乗った。寝起きにこれは辛いし危ないけれど、さすが燐。上手く蓮を受け止めてベッドの上でわちゃわちゃ。朝から元気な二人を見て、ついあたしも笑ってしまう。


今日は何が起きるかな、

いいことがあると良いなと思いながら、カーテンを開ければ夢で見たような青空が広がっていた。

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