娘の成長



※娘3歳ぐらい


ドタドタと家の中を駆け巡っていたかと思えば、スンと座りこんでひーくんに買ってもらった自分のリュックに何かを詰め始める。


「蓮ね!にいのとこいってくるっ!」
「あ?今日はパパと遊ぶんじゃねェの…?」


蓮の横にしゃがんで、背中を丸めてあの大きな体は何処へやら。燐はせっせと準備をする蓮の顔を覗き込んでいる。あの君主様であり、Crazy:Bのリーダーとみんなから一目集めているはずの燐も可愛い我が子の前では頭の上がらないパパの姿がそこにある。



「うん!蓮はね、にいのとこにいってくるのっ!」


蓮はもうそればっかりだった。あたしの位置から燐の表情が見えないから何とも言えないけれど、背中から察するにとても動揺しているのがわかるから、あたしは思わずクスッと笑ってしまう。



「蓮、ニキはこの前も遊んだっしょ?」
「にいとこ、いくの…!」
「蓮、パパと遊ぼう…な?」
「にいとこにいくのっ!!!」



燐がどう説得しようと聞く耳をもたない蓮。ドタドタと足踏みをして頑固にも折れない。これはもうどうするべきか決まっている。

























故郷の人たちやCrazy:Bのファンの人たちが見たらどう思うんだろう。今やすっかり娘に振り回されるパパだ。現に今も蓮とのやりとりが尾を引いて、思いっきり凹んでいるんだから。


「パーパ」


ソファーに力無く沈み込むように座り込んでいる燐の元へ。隣のスペースに腰掛けて燐の顔を覗き込んで見るが、表情は無。生気もあまり感じられない、顔の目の前で手をひらひらと動かしてみるがぼーっとしていることに変わりはない。


「燐」
「…優希」


全く、普段の頼もしいパパは不在。あたしが横に座るなり、すぐに抱きついてきてぎゅってしてくるから大きい子供みたい。蓮ができてから、昼間にこんな2人の時間ができることの方が珍しい。まるで昔に戻ったみたいに、でも今でもこんなふうにできるのも嬉しかったりもして、ちょっとだけ燐には悪いけれど蓮には感謝してる。



「子どもの成長って早いよなァ」
「そうだね、母さまたちがよく言ってたけど、あの時はまーた言ってるなぐらいにしか思ってなかったのにね」



よく自分達が言われていた言葉。思い返せば、大人がよく口にする「子供の成長は早い」「もう大きくなっちゃったね」とよく言われていて、自分達からすれば何だろうって思ってたのに。いざ、大人になって親になってみればあの時の母さまの気持ちが理解できる。



「よりによってパパよりニキかよ…」
「そのうちニキくんよりもっと好きな人ができるかもね」
「なっ」



燐的には、蓮といっぱい過ごすつもりだったろうに、出鼻くじかれて思いっきり蓮に振られて傷心状態。呟いてから思ったけれど、これはそんな燐に更なる塩を塗りたくる言葉だったかも。現に言葉に詰まった声がしたし、あたしに回された腕の力が少しだけ強くなる。



「俺っち、蓮に好かれてねェのかな…」
「えっ、なんで。そんなことないよ」
「…せっかく時間できたってーのに…ニキの方取ったじゃねェか」
「蓮、ニキくん大好きだからね」



多分今何言っても燐の傷を抉る気しかしない。と、いうよりは燐が自分から傷を抉ってる気もする。うーん、これはどうしたものか。



「蓮はいないけど、せっかくの2人きりだよ」
「ん…」
「あたしと2人っきりは嫌…?」
「やじゃねェ…」



ちょっと意識を背けようと話を振ってみたけど、これはダメだ。燐の中で悶々としているらしく、「けどよォ…」と呟いた。



「いつまで経っても子どもにべったりすンなってことか」
「いつかは子離れ、親離れしなきゃいけないってことだからね」
「水城は優希と離れた時、もっと怖かったんだろうな」
「…うん、そうかもね」



頭ではわかっているつもりでも、気持ちがついて行かない。燐が今悶々としているおかげで、あたしの方が冷静にいるだけであって。燐に言われて振り返るのはあたしが故郷を出た時のこと。あぁ、あの頃自分自身も無我夢中だったからそんな余裕もなかったけど、今思えば母さまもすごく辛くて苦しかっただろうなって今ならわかる。



「蓮にはいっぱい笑って…大きくなってほしいね」



燐にくっついて、目を閉じれば思い出す愛おしい我が子の姿。いつだって喜怒哀楽が豊かで気持ちの変化も行動も全部が大忙し。予想外のことも仕出かすからまだまだ落ち着けないし、目も離せないけれど。蓮の花のように何があっても蓮には乗り越えられる強い子になって欲しい。




「蓮が笑って過ごせるってことだから、俺もクヨクヨしてちゃいけねェか」




燐もそれは同じ気持ちを抱えてくれている。あんだけ悶々としていたのに、どうやら気持ちの整理もできたようでとりあえず一安心かな。それならせっかくだから、そう思ってあたしは冷蔵庫からあるものを取り出した。











うーん、逆効果だったかな。

あたしはちょっと頭を抱えていた。


「蓮〜」


ソファーの前のテーブルに散乱しているビールの空き缶。
蓮がいないし、せっかくだからということで昼間から一緒に乾杯することにしたのは良いのだけれど、燐が珍しく悪酔いしてしまったようだ。結局蓮のことを嘆くという振り出しに戻ってしまって困った。再びくっつき虫になった燐の背中を摩りながら、あたしは何をしているんだろうと思ってしまう。ちなみに何であたしが酔っていないかって?それはビールを一緒に開けたけれど、そんなに飲んでいないからだったりする。



「…蓮」
「んぅ?まま、ぱぱどーしたの?」
「うーん、どうしたんだろうね」


燐からは見えない位置でパパを不思議そうに見つめる蓮。首を傾げてあたしとパパを交互に見る表情はひーくんみたいで可愛い。



「ないちゃった?」
「パパは蓮がいなくて寂しいんだわ…」
「じゃあ、いーこいーこする!!!」
「蓮、いーこいーこしてくれンの…?」
「うん!!」



そう言って燐をヨシヨシする蓮。燐も燐で頭を下げて蓮の触れ易い位置にしてあげて、されるがまま。もうこれがまたおかしくて吹き出しそうになるのを堪えながら見ていれば、途中で燐がハッとして顔を勢いよくあげた。



「は!?蓮…?!」
「蓮ちゃんだよっ!!!」



やっと気づいてくれた。燐、どんだけ周りが見えてなかったんだろう…。そう、気づけば家に蓮がいつものようにいるのだ。パパに名前を呼ばれて大きく手を上げて「はーい!」なんてするから素直で良い子すぎる。



「蓮、ニキんとこ行ってたんじゃねェの?」
「蓮ちゃん、にいのとこいったよっ!」
「そうっすよ、蓮ちゃんは僕と一緒に作ったんすもんね!
「ねー!」



ちゃっかりニキくんも出てきていよいよ燐は表情から汲み取れるぐらいの大混乱。ニキくんと蓮の2人だけ話が通じているから余計だろうな。もうそろそろ良いかな、ネタバラシ。



「蓮は何作ってきたのかな?」
「蓮ね!にいとぴざつくったのよ!!!」
「ピザ…?」


ニキくんが持ってきてくれた大皿。その上にはこんがりと焼けたチーズに色とりどりの具材が乗っているピザだ。色とりどり、と言えば聞こえはいいが、よく見ればわかる。具材の乗り方がとても個性的。たんまりと乗せられた具材は食べにくそうだし、配置のバランスも独特。それでもそのピザを蓮は嬉しそうに指出して説明してくれる。



「これ!これね、蓮がおいたの!!!」
「ぜーんぶ、蓮ちゃん監修で作ったっす!」



テーブルに手をついてぴょんぴょんするぐらいには興奮している蓮を何とか落ち着かせつつ、嬉しそうに話す蓮は相当楽しかったのが見てとれる。



「蓮がね、パパの誕生日にニキくんと一緒に作る!って言って作って来たんだよ」
「ぱぱ!蓮つくったの!!」



そう、蓮はパパへのプレゼントとしてパパの好物のピザを作ってきたのだ。ちなみに、蓮が朝からニキくんのところに行くと聞かなかったのもそれが理由だったりする。ちなみに、あたしもグルなので燐にはちょっと申し訳なさはあったけど、大目に見てほしい。燐を驚かせたくって、ニキくんにも協力してもらって。蓮はニキくんのところに行くことにして、あたしは燐を引き留めて時間を稼ぐ係。燐はポカンと口を開け、状況を理解した頃には嬉しそうに表情を綻ばせた。



「ぱぱ、蓮すごい?」
「ハハっ、蓮はすげェな〜、パパすっげェ嬉しいわ」



蓮をギュッと抱きしめる燐はすごく嬉しそう。そんなパパの表情が嬉しかった蓮もご満悦。



「兄さん!姉さん!蓮!お邪魔するよっ!!!」
「ひーろ!!!!きたーーー!!!」
「ふふっ、みんなで蓮の作ったピザ食べよっか」
「うん!!!!」




はっぴーばーすでー!ぱぱ!
(2022.05.18)

[ ]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -