天城家のバレンタイン



生地を作って型抜きをする。トレーの上に綺麗に並べて、オーブンへ。数分後、オーブンから取り出したそれらは綺麗な焼き色を纏っている。


「蓮〜」


リビングで遊んでいた蓮 に声をかければ待っていましたと言わんばかりにバタバタと駆け足でやってくる。よいしょっと椅子の上に乗せてあげれば、椅子の上に立ちながらテーブルの上のものを嬉しそうに見つめている。その瞳はもうキラキラとしていて、ワクワクの感情が溢れ出ているほどだ。



「じゃあ、一緒に可愛く作ろうね」
「うん!」



さてここから仕上げといきますか。





「きらきら!」
「すごいすごい」
「ぴーんく!」



小皿に分けたアラザンやカラースプレーを自分なりにデコレーションしていく。キラキラしているアラザンを摘み上げてはマジマジと見つめたり、カラースプレーをちゃっかり自分の口に入れていたり。こらこら!と思うようなこともやりつつ、蓮は自分の思うがまま、発想を形にしていく。




「甘い匂いすんじゃん」
「お菓子作ってるからね」



別の部屋にいた燐も匂いにつられてなのか、こちらへやってきてテーブルに並んだそれらを見渡す。甘い匂いがする理由も何を目的に作ってるのかもわかっているから、今の発言だってただ感じたことを言いたかっただけだろう。そんな燐が蓮の作品を視界に入れた瞬間、堪えるように笑ったのは気のせいじゃないはず。



「蓮、何作ってんの?」
「おかち」
「蓮は今何食ってんの?」
「んぅ?」



蓮と目線の高さを合わせた燐が質問を繰り返す。最初こそお菓子とちゃんと言えた蓮だったけれど、何を食べてるのかと聞かれてすっとぼけるのは、ちゃっかりしすぎだろう。トッピング用のチョコをもぐもぐしてるのはバレてるんだからね、口の端にチョコついてるんだから。



「蓮、パパにちょーだい」
「…あい」
「いや、トッピングチョコじゃなくって、蓮の作ったお菓子」



燐がおねだりしてみるも、手に持っていた粒チョコを渡そうとしている。そのチョコは手の体温で溶け始めていて、正直見た目が良くない。さすがの燐も困り眉で笑うしかないのだが、自分の作ったお菓子をちょうだいと言われた蓮は首を振る。



「パパにくれねェの?」
「うん!」



はっきり曇りなき眼で肯定した蓮にさすがの燐もどうしたものか。一瞬動きを止めた後に手で目元を抑え始める。



「パパ、蓮のお菓子ほしいのになァ〜かなしいなァ〜」



わざとらしい、わざとらしすぎる燐の嘘泣き。チラリとたまに蓮の様子を見ようと手で隠していた目元をさりげなく出して蓮の様子を伺っているが、あたしからすればバレバレの演技で燐ならもっと上手にやるのに相手だから蓮だからなぁ…とあたしは二人のやりとりを眺めている。蓮と言えば、さっきまでチョコを食べてたせいで口に手を突っ込んだままジーッとパパを見つめて動かない。うーん、さすがに蓮は騙されないかな。



「ぱぱ、あげる…」



蓮は子供だった、どんなに私生活で驚かされることがあってもこういう一面を見ちゃうと年相応だなって実感させられる。現に今も燐のわざとらしすぎる泣きの演技にまんまと騙されて、自分が今さっき作り上げたお菓子を一つ掴んで燐に差し出してるんだから。びちゃびちゃの手で。



「…蓮、パパにくれンのかァ?」
「ん!ぱぱにあげる…!」



燐は蓮の行動を見るなり、すぐに泣き真似をやめて恐る恐る(の演技)でまた蓮に確認を取る。蓮ははっきりと燐を見つめて、再びあげると口にした。



「パパは嬉しいなァ〜」



燐のこれはウソではない、本心で本当に嬉しそうに笑っている。つい、こっちまで頬が綻んでしまうほどに、だ。



「蓮、パパにアーンして」
「あー」



蓮は気づかないまま、完全にパパに流れを持っていかれて言われるがままの行動を取る。だから、パパにアーンして欲しいと言われ蓮は言葉の通りパパに手にしていたお菓子を食べさせてあげる。口元に運んでもらったお菓子、もといチョコ菓子を口に含んで咀嚼して。パパはこれまた嬉しそうに表情を緩ませた。



「蓮、すっげェ美味しいの作ったなァ!」
「おいち?」
「うん、美味しいよ。蓮は上手だな」



燐が蓮を褒めて蓮は嬉しそうにこちらを見てくるから、良かったねと伝えれば気分を良くして興奮した様子。それを察した燐が蓮に抱きつけば、キャアキャアと声を上げてじゃれ合い始める。



「蓮しゅごい?」
「すごいぞ、みんなにも見せてあげてェな」
「ん!これね、にいでね、めるめる、こはくちゃ!」
「一彩はねェの?」
「ひーろはこれ!」




気づけば蓮のひーくんへの呼び方も喋りが達者になってきた頃には一彩呼びが戻ってしまっていた。仕方ない、パパが一彩と呼ぶんだから真似してしまうか。真似するならあたしの真似してくれたらよかったんだけどね。ひーくんも燐も怒らないのであれば、それで良いのかな。




「ヤッベ」
「んぅ?」



二人で仲良く話していたはずなのに、燐が珍しく表情を一変させる。こんなにもマズイと言わんばかりの顔はかなり珍しい。突然の変化に蓮も不思議そうな表情で燐を見つめる。



「蓮のお菓子…写真撮ってねェ」



どうやら、写真を撮らずに食べてしまったことに気づいたらしい。燐はさっきの泣き真似の時にもこのぐらいやれば良いのにと思うほど、涙はないにしても誰が見てもわかるほど落胆している。困ったパパだなぁ、もう。



「作ってる途中の動画と写真ならあるし、残ったもの今からでも撮ろう」



あと、顔についたベッタベタのお顔もね、と伝えれば燐がここでやっと自分の顔やら服にチョコがついていることに気づいた様子。蓮の手についたチョコがあっちこっち触ったから。ずっと気づかなかったのがまたおかしくて笑ってしまった。可愛い娘の粗相だから許しちゃうんだけどね。



ふと、視線をスマホに戻してチェックする。さっき撮った蓮の手作りお菓子をSNSに載せておけば、既にたくさんの反応が。みんながかわいい!すごい!などとコメントもしてくれていて、親として喜ばしいもの。我が子の作品を見て欲しくて載せた写真、あたしもなかなかに親バカだなと実感させられる。



「なァ、」
「んー?」
「ママからはねェの?」



あまりにもあたしが何も触れなかったから痺れを切らしたのか、思い出したのか。燐の問いかけ、それに主語はないけど何を指しているのかはすぐわかる。じっとこちらを見つめる瞳と目が合って、それをあたしも見つめ返した。



「蓮の一緒に作ってたから。あとでゆっくりね」


脳裏に浮かぶのは冷蔵庫に入れてあるあたしが作ったお菓子。ちゃんと燐のために作ったものだから。燐もその言葉を聞いて安心したのか、あたしの頬に口づけを一つ落とす。




「なので、みんなで作ったケーキ食べよう〜!」
「けーき!!!」


蓮にも食べれるように、とみんなで食べるために作ったケーキを並べ出す。なんでこれもあって別にもお菓子があるかって思われそうだけれど、これはパパとママとして一緒に食べる用。


だって、せっかくなら二人っきりの時に優希として燐にあげたいからね。


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