娘と節分



※椎名視点


右手と左手にビニール袋をぶら下げて通い慣れた道を歩く。夕方なのに季節的な理由もあって辺りは既に暗く風も底冷えの冷たさだ。縮こまりたくなる空気に僕は足速で目的地へと足を進めた。

目的地に着いた僕はまず持っていたビニール袋を置いて、中身を漁り一つのお面をつける。目元に穴が開いているので視界は良好。これで準備万端。今日は僕のために鍵を開けてあるって言ってたんで、こっそりとお邪魔しまーす!


「お邪魔するっすよ〜!」


扉を開けて、玄関に改めて持ってきたビニール袋を置いて靴を脱ぐ。廊下に僕の声が響いたことにより、奥から「にい!」と蓮ちゃんの声が聞こえてくる。多分、今日も待っててくれたんだろうな。ドタバタと奥から足音を鳴らして僕の元へとやってきてくれた。


「に…!」


いつもみたいに嬉しそうに来てくれる蓮ちゃん。


「蓮ちゃん〜」


ちょっとだけ驚かせられたら良いなと思ってお面をつけていたんだけど、


「…い」


蓮ちゃんはピタリと足を止めてしまい、立ち止まって僕を凝視する。なはは〜!成功っすかね?って思ってたら、蓮の表情がみるみるうちに歪んできて、これはヤバいって思った時には手遅れ。



「あ"あ"あ"あ"っや"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"っ」



蓮ちゃんがギャン泣きしちゃったっす…!!!



「蓮!どうしたんだい?!」
「びぢゃ"ぁ"あ"あ"あ"あ"っっ」
「むっ!鬼にいじめられたのかな?!」
「ちょっと待って、待ってほしいっす!僕っすよ!!!!」




まるでこの世の終わりのように泣き叫ぶ蓮ちゃん。どうやら先に来ていたらしい弟さんが速攻駆け寄ってきて、蓮ちゃんは泣き叫びながら縋って助けを求めてた。弟さんも僕を見るなり、僕と言うことを認識しないで構えるから本来の目的以外で僕が外に追い出されそうだったっす…!こんなふうに僕に向かって泣いたところ見たことなかったんで、正直ちょっとだけ悲しいっすけど怖がらせちゃったのも僕のせいなので反省するっす。



「ぐすっ、んぅ」
「蓮ちゃん、ごめんなさいっすよ〜」



お面を外してもまだ落ち着かないのか、グズグズする蓮ちゃんを抱っこして背中を撫でながらあやしてあげる。鬼と僕がイコールじゃなかったみたいで、今は僕に抱きつきながら大人しくしてるからちょっと一安心。



「蓮が、んなに泣いたの鳩のときみてぇだったな」
「あの時も蓮は凄いびっくりしてたね!」
「一彩のやつが完全に蓮の救世主になってたもんな」
「ニキくん、ごめんね」
「いやいや、僕の方がいけないんすよ」



燐音くんから話は聞いてたけど、鳩に囲まれた時も大泣きしちゃったらしくって、同等ぐらいの泣きっぷりらしい。その時は弟さんが助けてあげて事なき終えたとか。そんな話を繰り広げる燐音くんは他人事のように笑ってるし、逆に優希ちゃんは申し訳なさそうに笑っているけど、これは全部自業自得なんで仕方ないっす。


「も〜、蓮ちゃんが鬼怖いなら教えてほしかったっすよ!燐音くん!!!」
「知らなかったんだから、仕方ねェっしょ」


うぅ、本当にごめんっすよ〜。

申し訳なさで元気なくなってきたっす。

だから気分を変えてご飯食べるしかないっすよね。そう、だって今日は節分なんすよ!




「ほーら!お寿司作ろう〜」
「うむ!」




今日はみんなで手巻き寿司っす!僕がさっき買ってきた食材と優希ちゃんが準備してくれてたご飯たちをテーブルに並べていざ手巻き寿司タイム!手巻き寿司用の海苔にご飯を乗せて卵やきゅうり、かんぴょう、カニカマ!キレイに並べてクルクルと回せば恵方巻きの完成っす!ふふん、普通に手巻き寿司も楽しむつもりっすけど、節分っすからね。



「蓮ちゃん!」
「んぅ?」
「これを食べてる間はしーっすよ!」
「しーっ!」
「そうそう!しーってしながら食べましょうね!」



まずは恵方巻きから作ったんすよ。今年は北北西。なので、これから方角向いて食べるんすけど、ちゃーんと蓮ちゃんにも静かに食べること教えたら、蓮ちゃんも「しー!」って人差し指立ててマネしてくれたっす!



「はい、蓮の分」
「あい!」



蓮ちゃん用に優希ちゃんが小さな小さな一口サイズの細巻き作ってあげる。蓮ちゃんは大きいと喉に詰まっちゃったりしたら危ないっすもんね。



「僕もできたよ!」
「じゃあ、みんなで静かに食べるっすよ〜!」



もぐもぐもぐもぐ、


もぐもぐもぐもぐ、


多分側から見たらスゴいシュールな光景だと思うんすよね。



3人で並んで北北西向いて、もぐもぐ。ちなみに燐音くんはお酒飲みながらこっち見て笑ってるし、優希ちゃんはスマホでカシャっと写真撮ったり、蓮ちゃんの様子見守ってたり。




「にーい!たべたー?」


あ、蓮 ちゃん食べ終わったみたいっすね。食べ終わっちゃった蓮ちゃんが僕の顔覗きながら、頭を右や左にゆらゆらしている。


「おいち?んぅ?」


蓮ちゃんごめん…もう少し待ってほしいっす…!


「にーい!」
「蓮!食べ終わったよ!」
「にーい?」
「蓮、椎名さんはまだ食べてるからね、しーっだよ!」
「しーっ!」



僕より先に食べ終わった弟さんが蓮ちゃんの相手してくれる。二人で顔見合わせて、またしーって言い合いっこしてるし、微笑ましいっすね。ほらほら、燐音くんなんてすっごい嬉しそうな顔してるっすよ〜。まあ、僕は恵方巻き残り半分食べてるんで言えないんすけど!




蓮ちゃんが泣いちゃうから豆まきは中止。結局みんなでやろうと思って買ってきた豆まき用の豆は燐音くんのおつまみと僕たちのおやつになったんで良かったんすけどね!

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