娘とわんこ



※大神視点


毎日の日課であるレオンとの散歩に俺様は行っていた。

レオンは今一点を見つめて動かない。

そのレオンを見て俺も今動けずにいる。


なぜなら、



レオンをガン見して動かねぇ赤毛のガキがいるからだ。




いつ此処にやってきたかわかんねぇ。気づいたらいたそのガキはあからさまにレオンを見つめている。自分の胸元あたりの服をギュッと握ってジーッと見つめているだけ。なんなら、微動だなすらしねぇでいるから、スゲェ集中力。うんともすんとも言わないガキにつられてなのか、レオンもジッと動かずガキを見つめ返して数分。体感では俺様が落ち着かなくなってしまうほどだが、実際にはそんなに経っていない気もする。それでも何の進展もない現状に俺様だけがもどかしさを感じ始めてきた。



ジッとレオンを見つめて、何か意を決したのか。

ガキは恐る恐るその小さな手を伸ばす。

瞬きもせず、レオンへの視線も外さず伸ばした手はゆっくりとレオンへと近づいてきて、あと少しで触れられるタイミングでレオンが一度だけワンと吠える。吠えたと言っても、威嚇ではなく深い意味もないだろう。それでもガキがびくりと体を震わせて、一時停止するには充分。予想外のことにビビらせてしまったかと思ったけれど、案外平気だったようで一旦は止まった動きも気付けば再開しており、伸ばした手がやっとのことでレオンの頭に触れる。



「ほわ…っ」



どんな声だよって思った。目をキラキラと輝かせてすっげぇ嬉しそうにパァッと表情が変わって、レオンを撫でる小さな手。レオンも嫌がんねぇから、安心したのか慣れたのか、さっきよりも距離を詰めて撫で始める。



「わんわん、いーこいーこ」



なんだ、喋れんのかよ…。本人なりに優しくゆっくりと意識してレオンを撫でているみたいで、その配慮はレオンにも伝わってるらしい。気持ち良さそうに身を捩って受け身の姿勢でいるレオンに気分を良くしたのか、次はその小さな体でレオンをギュッと抱きしめた。



「わんわんっ、んぅ〜」



気持ちよさそうに頬擦りをして幸せそうに表情を緩ませる。悪意はない、むしろ好意しかないその行動にレオンはただ受け入れてガキの好きなようにさせていた。




「なぁ、」



だけど、ずっとそのままで良いわけではない。年齢的に一人でいるわけにもいかないはず、つまりは何処かに親か保護者がいるはずなのだが、今コイツは一人でいるわけで。レオンと戯れている今だって親は探してるかもしれないし、俺様もずっとここにいるわけにはいかない。だからこそ、好き勝手させてみてたけれど、そろそろと思って声をかけてみれば、ガキは俺様を見るなりぴたりと動きを止めてしまう。


レオンをギュッと抱きしめたまま、硬直だ。レオンは抱きしめられながら、律儀にジッとしてるし、これじゃまるで俺様がビビらせてるみてぇなんだけどよ。



「あ〜!蓮見つけたぞ〜!」
「んぅううう」
「蓮!どうした!いじめられてたのか?!ぐるるるるる!」
「落ち着けっ!月永先輩!!!」
「ってなーんだ!レオンと飼い主のひとじゃん!」




ここでやってきたのは意外な人物だった。大きな声で多分このガキの名前を呼んでいたであろう月永先輩。様子的に顔見知りみたいだったけど、ガキの方が完全にびっくりしちまって、レオンにギュッと抱きついてしまう。その様子を見た月永先輩が何故か勘違いして俺を威嚇しやがって…、くっそなんなんだ…。



「蓮、おれだぞ〜?」
「んぅ…れおく」
「そうそう!蓮はレオンともお友だちだったのか〜?」



月永先輩はガキの目線に合わせてしゃがんで話しかける。名前は蓮、というらしい。蓮はまだ不安そうにしっかりとレオンを抱きしめながら月永先輩の言葉に耳を傾けているが、多分まだテンパってんだろうな。少し不思議そうな顔してやがる。



「レオンって名前なんだ」



俺がガキの名前が蓮と知らないように、蓮もまたレオンの名前を知らなかったはず。これ以上ビビらせたいわけでもねぇ俺は月永先輩みたいにしゃがんで、レオンの紹介をしてやった。蓮は最初こそ、俺の言葉に関しては微動だにせずだったが、少しだけ時間を置いてから視線をレオンに移して「れおん?」と呟く。するとレオンは蓮に名前を呼ばれてピクリと耳が反応した。




「れーおんっ」



レオンの反応がどう理解できたかわかんねぇ。もしかしたらわかってないかもしれねぇけど、蓮はレオンの名前を改めて知って嬉しそうにまたギュッと抱きしめる。ったく、本当に嬉しそうな表情すんなぁ。



「で、月永先輩はこのガキの、蓮の知り合いなのかよ」
「うん。蓮は優希の子どもだぞ」
「あ?ってことは」



あの天城センパイのガキってことか。月永先輩も「そうそう〜」なんて言ってるし、これで合点一致した。



「蓮は似てねぇな」
「見た目はパパ似だぞ」
「中身がちげぇだろ」
「わはは!今から似てたら困るな!」



大声で笑う月永先輩の言う通り。蓮は見た目こそ言われれば似てると思うけど、中身があまりにも似てなさすぎる。つまりは一彩が叔父ってことなんだろけど、こっちとも似てねぇな。…いや、好奇心旺盛そうな目は似てっかもしれねぇ。けど、やっぱガキだからな。まだいろんな性格が構築される前とだけあって、素直で純粋さが滲み出てるおかげで父親がパッと出てこなかったのもそうだし、知った今だって素直に納得というよりは、マジか…って気持ちの方が大きい。



「蓮は犬が好きなのか?」
「…ん」



一応返事はしてくれた、一応はって感じでまだ俺は完全に気を許されていないらしい。最初にビビられたせいか、話しかければ一瞬にして表情が強張ってしまう。こんなにもすぐに切り替えちまうから、逆に笑えてきたけどよ。



「じゃあレオンと会った時は一緒に遊んでくれよな」
「!うんっ」
「よかったな〜!」



蓮がすげぇレオンを気に入ってくれたのは素直に嬉しいもんだ。多分また会う機会もあるだろう。だから、改めて俺からも歩み寄ってみて、やっとここで蓮の緊張も取れたのか俺様にも笑ってくれたことにホッとする。


結局この後、月永先輩が蓮と一緒にいた時に突然いつもの作曲を始めちまったらしく、目を話した隙に蓮が俺たちのところに現れたらしい。人の子供放置して作曲すんなよ…とも思ったが、何事もなくやってきたのが俺様たちのところで良かったと安心するしかない。




「やあ!!!れおん!!!」
「蓮〜そろそろ戻らないとママが心配するぞ〜?」
「んぅううううう」



レオンが相当お気に召したらしく、蓮に帰ろうと伝えた途端。完全に駄々こねてしまう。さすがに駄々をこねたガキの扱いは俺様も困るが、レオンと離れたくないという蓮に珍しく手を焼く様子の月永先輩が見れたのは新鮮だったのでつい笑ってしまった。


ちなみに後日会った時、誰に吹き込まれたか知らねぇけど、蓮と再び会った時「れおん!わんわん!!」って言ってきやがった。


誰だ!俺様をわんわんって教えたやつ!!!

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