娘とあそび部



※ゆうた視点


今日は久しぶりに懐かしいメンツで顔合わせ。
少し違うと言えば、このメンバーで集まる時には昔には見ない顔が一つあることかな。


「そらくん!」
「はいです、蓮ちゃん!」


モコモコの上着を着ている春川くんとモコモコの上着にモコモコの手袋をつけている蓮ちゃん。二人は顔を見合わせてお互いの名前を呼び合っている、その表情はすごくキラキラと楽しそう。


「しろいよっ!!」
「HaHa〜!一面雪だな〜!」



蓮ちゃんは歩きにくそうに覚束ない足取りでズボズボと踏み込む。それを見て春川くんは楽しそうに目の前の景色を言葉に言い表した。


「蓮ちゃん楽しそうでござるな!」


そう言う忍くんも楽しそう。俺たちの目の前に広がる一面の銀世界。普段は見慣れた景色も昨日降った雪が見事に積もって世界の景色を変えていた。


「蓮ちゃんと前に遊んだのも雪の日だったね」


そう思い出すのはまだ蓮ちゃんが今よりも小さかった頃。




あの日も燐音先輩に呼び出されてたんだよね。



めちゃくちゃ雪が降った翌日。俺たちは防寒をして手袋もした上で何故か大きなスコップを手にしていた。


「なんで俺たちが雪掻きしてるんだろ…」
「仕方ないでござる!こんな雪では歩行者も危ないし、雪を集めればあそび部でのあそびもできるから一石二鳥!」
「第一、集合かけた燐音先輩が来てないし!」



一緒に雪かきしていた忍くんが本当に真っ直ぐすぎてびっくりしちゃう。笑顔で言った言葉に雪かきをそんなポジティブに捉えられちゃう?って思っちゃった。まあ、それもこれも全部言い出しっぺは今ここにいない燐音先輩なんだけど。



「すごいいっぱいの雪な〜!山盛りです!」
「こんなにいっぱいあったら、大きな雪だるまもかまくらも作れそうでござるよ!」


春川くんも楽しそうに俺たちが今まで集めた雪山を眺めている。建物の壁に沿うようにかき集められた雪はそこそこの高さになっていて春川くんの言う通り遊ぶ手段が色々と見出せそうだ。


「そういえば、漣先輩は何処行ったの?」
「ジュンちゃん先輩は何か呼ばれていっちゃったな〜」


気づけば漣先輩もいなくなってて、あの人がバックれるなんてないから珍しいと思ってたら、春川くん曰くお呼び出しをくらったらしい。すぐ戻ってくるって言い残したらしいから、多分そんな大したことじゃないんだろう。



「おうおう、すっげぇ雪集めたな」
「燐音殿!」



漣先輩いつ戻ってくるのかな、なんて思っていたらやってきたのは待ってなかった方の人。呼び出しといて社長出勤だし、言い出しっぺなのに雪かきもせず、俺たちが集めた雪を見て感心するだけで正直イラッとしないわけがない。



「ちょっと燐音先輩、自分で言い出しといて今来るとかどうなんですか」
「ユタくん、そんな怒んなよなァ。しゃーねぇだろうが、連れてくンのに手間取っちまったんだからよぉ」
「んぅしょっ」
「蓮ちゃんだな〜!!!」
「そあく、!」
「HaHa〜!こんにちは!」



燐音先輩に文句の一つや二つ、三つや四つでもいっぱい言ってやろうと思ってたのに、燐音先輩がいつもと変わらず余裕ぶった表情で笑って自分の足元に視線を移す。つられて俺も視線を下げてみれば、理由は一目瞭然でこればっかりは何も言えなくなってしまった。燐音先輩の足元で覚束ない足取りで一歩一歩踏み締めて歩く小さな女の子。燐音先輩に手を引かれて、自分の足元を必死に見ながら歩いているその子の瞳は俺たちの方を向いていない。だけど、その女の子を見た春川くんが名前を呼べば、足をやっぱり慣れない足取りで動かしながらも顔を上げてくれた。舌足らずな滑舌で春川くんの名前を呼んで、精一杯動く彼女は多分喜んでるんだろうなってのは見てわかった。



「今日はママと一緒じゃないんだな〜?」
「ん!ぱぱよ!」
「今日はパパと一緒に来たンだよなァ」



春川くんと仲良さそうに話すその子は燐音先輩の一人娘の蓮ちゃんだ。前に写真で見せてもらったことがあるけど、それはもっと小さくて赤ちゃんだった。優希さんに抱っこされているものだったり、寝てる姿だったり。兄貴と一緒に見せてもらった記憶がある。だけど今目の前にいる蓮ちゃんは俺の知ってる時と違って立つようになってたし、燐音先輩に手を引かれてだけどちゃんと歩いているし喋ってる。



「そあく!あしょ…!」
「宙たちと一緒に遊びましょ〜!」


燐音先輩の手を引っ張りながらも春川くんの元に必死に歩み寄ろうとしていて、一緒に遊びたいと訴えてるようだ。だから、春川くんも嬉しそうに笑って蓮ちゃんを受け入れていて、燐音先輩の考えてたことが少しだけ分かった気がして、こればっかりは仕方ないと沸々湧き上がっていたイライラも一気に鎮火させられる。



「春川くんはお友達でござるか?」
「はい!宙と蓮ちゃんはお友達です!いつも、優希ママと一緒に事務所に来てくれるな〜!」



唯一、話がとんとんで進む春川くんはどうやら蓮ちゃんと割と頻繁に顔を合わせていたらしい。それもそのはず、蓮ちゃんのお母さんは優希さんだから、仕事の内容によっては蓮ちゃんを連れて出勤もよくある話なんだろう。ってことは同じ事務所の春川くんたちとも会う機会が俺たちよりも多いのは明確だ。




「初めましてでござる!仙石忍でござるよ〜!」
「んぅ…?」
「しのぶでござる」
「…ちのぶ」



忍くんが蓮ちゃんに自己紹介をしてみる。最初こそ、不思議そうな表情を浮かべていたけど、おずおずとした様子で忍くんの名前を呟く姿は燐音先輩に全然似てなくて可愛いものだった。



「蓮ちゃん、こっちはゆうたくんでござる!」
「こんにちは、ゆうたっていいます」
「ゆたく」
「そうそう、ユタくん」
「ちょっと燐音先輩…!間違えたこと覚えさせないでください…!」



まだまだ発音も滑舌も未熟な蓮ちゃんの精一杯の呟きで俺も名前を呼んでもらえて、雪かきで寒い空気に包まれてるはずなのに気持ちがポカポカ、表情が自然と緩むのがわかった。燐音先輩の余計な言葉がなければもっとよかったけど。



「今日は蓮と一緒にみんなで雪遊びしようぜ」



燐音先輩はズルい人だけど、この人も1人のパパになったんだなって実感させられる。
娘のために言い出した言葉、こんなに可愛い娘がいるから甘やかしたくなるのも何かをしてあげたいという気持ちも少しだけ理解できた気がした。











雪かきした雪をあれから慣らして、足場も整えて不格好ながらも雪でできた滑り台を作り上げた。途中、漣先輩も戻ってきたのだけれど、手には真っ赤なソリ。どうやら、何処からか借りてきたらしいそれも燐音先輩の言い出しにより借りてきたとのこと。

早速それに乗って遊んでみることに。

俺からすれば、目線より少し低いぐらいの高さだから、そんなに急でもなくすぐに終わっちゃうぐらいの距離感だけれど、それでも雪で作ったソリで滑るには充分テンションの上がるもの。忍くんも春川くんも1人でしか乗れないから、ソリを持って雪の山に登って滑り落ちる。「わーい!」って声を上げて滑るから、蓮ちゃんもその様子に好奇心が勝って目はそれに釘付け。



「ほあ…!」
「蓮ちゃんも乗れますかね〜?」
「蓮はパパと一緒に滑ろうな」



蓮ちゃんを抱えたまま、ソリも持って雪の上を登って座ってっていうのは危なっかしすぎて一気にはできない。だから、燐音先輩はソリだけ持ってまず自分だけ雪に登る。

そしてソリをセッティングしてその上に座って、滑り落ちないように足で踏ん張って蓮ちゃんを渡すよう漣先輩に頼んでた。


「蓮ちゃん、はい抱っこしますよ」


漣先輩に両脇から抱えられて燐音先輩に手渡ししてソリに乗せる。



ズボッ


「「「あっ」」」



…そういう予定で行くはずだった。



「ッ蓮?!?!」



俺たちは全員見ていた。漣先輩から燐音先輩に受け渡される瞬間、上手く手渡しが出来ずに2人の手の隙間から蓮ちゃんが落下してそのまま、ズボッと…顔から雪山にズボッと…。



「…んぅ…?」



燐音先輩の焦った様子は今思えば新鮮だった。それぐらい燐音先輩はギョッとした表情で慌てて蓮ちゃんを雪から救出。ガバッと拾い上げて蓮ちゃんを見るがケロッとした表情。どうやら当の本人は何が起きていたのか理解してなかったようで、目をパチパチさせて不思議そうにしている。



「蓮ごめんなっ?!」
「あ〜い!」


それでも燐音先輩は必死に謝ってるし、返事した蓮ちゃんは多分、意味を理解してないと思うけど。あんだけ周りを振り回していた燐音先輩のこういう必死そうな表情と割とケロッとしていた蓮ちゃんと突然のハプニングが面白すぎて俺たちは笑ってしまった。



「蓮ちゃん、すんません…!!!」
「んぅ?」
「大丈夫でした…?」
「もかい!のうよ!」



あの後燐音先輩と一緒に滑ったソリが、見事ハマったらしい蓮ちゃん。一回目を滑り終えた蓮ちゃんに漣先輩が謝りに行ったけど、やっぱり何のこと状態でむしろもう一回と言い出す始末。

その漣先輩が蓮ちゃんに謝ってる姿がちょっとおかしくてちゃっかり写真をスマホで撮っておいたのをあそび部のグループLINEに載せておいた。

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