娘と一彩BD



洗濯を終えたあたしはベランダの扉の側でウサギのぬいぐるみと遊んでいる蓮に視線を移す。


「うちゃ〜、ぅ〜?んぅ!」


リビングでテレビをつけてもいたけれど、何故か蓮はここで遊んでいた。まあ、目につく位置にいてくれた方がこちらとしても助かる。


「蓮、ママ洗濯終わったよ」
「うちゃよ、まっまね」


蓮はウサギのぬいぐるみを子どものように扱っていて自分をママと言っている。なので話しかけても気づいていないぐらい自分の世界に入り込んでいた。だけど、そんな蓮の最近のお気に入りは別にある。


「蓮、ほら」


色とりどりのクレヨン。


これを差し出せば蓮はどんなに集中して遊んでいようとも関係ない。

一瞬だけ、目をぱちくりと瞬きしたかと思えば、ずっと座り込んで遊んでいたのも話しかけても聞こえてなかったのも嘘のように勢いよく立ち上がった。


そこからの蓮は早いものだ。


「ぶぅぶぅ」


レオくんの所構わず作曲するのと同じぐらい。クレヨンさえあれば、何処だって描き始めてしまうから、場所と時を見極めて紙と一緒に手渡すかが大切になる。紙も一緒に与えればすぐに何かを描き始めるのが最近の蓮だった。


「んーぅ!」


今だって蓮は楽しそうに真っ白な紙をどんどん彩りを入れていく。正直、画伯過ぎて何を描いているのかさっぱりなのだけれど。


「まま!みーて!」
「んーと、蓮は何を描いたのかな〜?」
「まっま!」
「ママ描いてくれたのー?すごいなぁ、蓮ありがとう」



蓮の渡してくれた紙には、グルグルと丸い何か。どうやらこれはあたしらしい。蓮はありがとうやすごいと言ってもらえるのが良いことであり、喜ばしいということを覚えたことにより、この言葉を伝えればとても嬉しそうに笑ってくれる。パタパタと足踏みをしてまた新しい紙に何かを生み出す画伯となるのだ。さて、蓮は次何を描くのかな。















「ひーちゃひちゃひちゃ」


蓮は歩いていた。紙を大切に両手で抱えながら。紙は絶対自分で持っていくと言い張っているため、あたしの横をぽてぽてと自分のペースで歩く。蓮は両手が塞がっており、手を繋ぐことはできない。つまりいつも一緒にいるウサギのぬいぐるみも持っていけないというのに、蓮はちゃっかりしているため、置いていくという選択肢はなかった。


「まっま!うちゃもてて!!」
「うん、持ってるよ〜」
「ぎゅ!って!もて!」


ウサギのぬいぐるみはあたしが持っている。ちゃんと持ってるつもりなんだけど、どうやら蓮は持ち方も気にするらしい。こうよ!って持ち方の指導が入るんだけど、蓮…、持ってる紙がグチャってなってるよ、グチャって。


「あ!!!!」


あたしのより蓮の持ち方の訂正をしようと思って声をかけようと思っていたら、蓮が突然声を上げて走り出す。なのであたしは「あ…」と声を漏らして蓮の動向を見てるだけ。蓮はタタタタッて走り出して何処にいくのかと思えば、この後びっくり。


「ひちゃ!えいっ!」
「おっとッ、蓮!」
「えっ、ヒロくん…?!」


角から突然現れたひーくんに突撃したのだ。


「ひーくん!?ごめんッ、大丈夫…?」
「ウム!大丈夫だよ!」


不幸中の幸いか、蓮が突撃したのはひーくんで良かった。ひーくんは突然現れた蓮をダランと抱っこして笑っているし、蓮も「ひちゃ!いた!」とキャッキャしている。もしかしてこの子はわかっていて走り出したのかもしれない。そうだとしたら、この感性は絶対天城のものだ。そこにまたあたしは驚かされるし、それはひーくんと一緒にいる藍ちゃんの方も同じで突然のことにびっくりしてるし、飛び出てきたのが蓮と知って更にびっくりしてた。


「蓮ちゃんと優希さん、どうしたんですか…?」


横にいた藍ちゃんが落ち着きを取り戻したようで、ふと浮かんだ疑問を呟く。


「蓮がひーくんに渡したいものがあって来たんだよね」
「ん?そうなのかい?」



この言葉を聞いてやっとひーくんも反応する。ちなみに今までひーくんは蓮と会えたことが嬉しかったようで、蓮を抱っこしては高く掲げたりして楽しそうに戯れあっていた。



「あい!ひーちゃ!あい!」



蓮は今の今まで大事に手にしていた紙をひーくんに差し出した。グシャッと若干しているのは大目に見てほしい。ひーくんは一旦蓮をその場に下ろすと、差し出された紙を受け取って広げてみる。


「蓮がひーくん描いたんだよ」
「ひちゃよ!」
「蓮が僕を描いてくれたのかい?」
「ん!ひちゃよ!ひちゃ」


そこに広がるのはやっぱりどう見てもそうは見えない画伯の作品。蓮いわくひーくんらしい。藍ちゃんも多分同じことを思ってるんだろうな、あはは…となんとも言えない笑いを浮かべて覗き込んでいるのだけれど、ひーくんは違っていた。


「蓮!嬉しいよ!是非もこれは額縁に入れておこう!」


喜び方が凄い。最初のあたしだって、ひーくんみたいに喜んでいたけれど、日々、量産される画伯画を見てしまっているのと油断すれば床などに落書きを始めてしまうこともあって、その気持ちよりも他の悩みが勝るようになってしまった。だから、ひーくんの純粋な喜びは親としても見ていて嬉しいもの。


「ひちゃ、あげうよ!」
「蓮、ほらなんて言うんだっけ」
「んぅ?」


こっそり、と言ってもひーくんの目の前でやっているから、完全にあたしの入れ知恵なのはもろバレなんだけど。蓮から預かっていたウサギのぬいぐるみを手渡して、しゃがんで耳打ちをする。


「ひちゃ!おめった!」
「蓮、おめでとうだよ」
「おめっと!」
「あ、もしかしてヒロくんの誕生日プレゼント…?!」
「ん!ひちゃめっと!」


どうやら意味は通じたらしい。蓮のおめでとうを聞いてひーくんはプルプルと震え出してギュッと蓮を抱きしめた。


「蓮ありがとう!すごく嬉しいよ!」
「うちゃもめっとよ〜!」
「ウム!うさぎさんもありがとう!」


えへへと顔を見合わせて笑うひーくんと蓮。蓮のウサギのぬいぐるみもおめでとうと言ってるらしく、ひーくんも嬉しそうに笑顔で返す。そのやりとりがとても可愛らしくてほっこりしてしまう。


蓮のことをすごく可愛がってくれるひーくんへ。

蓮からのささやかな贈り物。



ひちゃめっと!ね!

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