年越しデート



あれから共演者たちとの挨拶や写真撮影も一通り行って、やっと着替えられた。SwitchやMaMと言ったニューディのみんなはもちろん、事務所的意味でも挨拶は絶対しなきゃと思っていたfineとEden、みんなの伝でお世話になったTrickstarやValkyrie、紅月、UNDEAD、流星隊のみなさん、途中人懐っこさから2winkやRa*bitsの子たちも来てくれたり、嬉しい限りだ。

一時期やってきた睡魔も結局みんなと話していたら段々とハイになってきてるんだなと気付く。



「ニキくん、HiMERUくん、こはくん、ありがとう。今年もよろしくお願いします。お疲れ様」



身支度を整えて、Crazy:Bのみんなと最後に改めましての挨拶をして、お疲れ様のバイバイ。まだ辺りは暗くて寒くて着込んだコートとマフラーに顔を埋める。



「どこ行くの?」
「ア?」
「だって、帰らないんでしょ」



冷たい空気に触れたことにより、冷えてきた指先がこれ以上感覚が無くならないように普段なら手袋をするのだけれど、今手袋をしているのは片手だけ。もう片方、手袋をしていない方の手は燐の着ているジャケットの中で燐の手と繋がっている。燐を見上げるように尋ねてみたら、1回目は聞き返されたので、ちゃんと言葉にして聞いてみると燐は一瞬だけホントに一瞬だけ目をパチクリさせる。



「よくわかったな」
「燐の考えそうなことだもん」
「そっか」
「うん、」


ナメないでいただきたい。何年燐と一緒にいたと思ってるんだ。離れていた期間はあったし、それはあたし自身が我を出したせいであって、それからまた一緒にいてからの燐をまた見ていればわかる。


「燐、すごく嬉しそうだもん」


腕に寄り添って、顔をぴったり添わせる。燐が横にいることが嬉しいのに、燐の嬉しそうな表情を新年早々見れるのはさらに嬉しいことだ。


「ライブの余韻、まだ収まってないんでしょ?」
「まァな」
「すごいキラキラしてたね」
「そうだな」


燐の憧れていたアイドルが今もこうやって続けられていて、あんな素晴らしい景色を見せてもらったんだ。燐がライブを終えて素直に帰ろうってなるわけがない。燐はのらりくらりとした行動にキレる頭を持っているけれど、それ以上に熱い思いを胸に秘めてる人だから。



「海とかに見に行けたら1番いいんだけどよ。多分、人ヤバいだろうからな」


誰よりも人との関わりと想いに一喜一憂してしまう人だから。








関係者パスを警備員さんに見せて見慣れた扉を潜る。

あれからあたしたちがやってきたのは、ESビル。人気なんてほとんどなくて、シンと静まり帰ったビルの中を歩けば、あたしたちの足音が静かに響き渡る。深夜だからちょっと不気味にも感じるけれど、燐がいるから怖くない。


キィ…と音を立てて重い扉を開けた瞬間、冷たい冷気が顔に突き刺さって思わずギュッと目を閉じた。


「さむッ…」
「んんん」


これはさすがに寒い、燐も思わず言葉が出てるし、あたしは燐の腕にしがみついてなるべく風が当たらないように自衛する。燐が少しだけ向かい風を堪えた後、動き出したみたいでそれに釣られてあたしも足を動かした。


「おい、優希、目ェ開けろって」
「ん〜っ、風が強いっ」
「ったく…、」



今どの辺りを歩いているのかわからない。完全に燐に身を任せて歩いていれば、呆れた声が降ってきた。かと思えば、ギュッて正面から抱きしめられる。向かい風もなければ目の前の至近距離に燐がいる、突然の行動に少しだけ不意をつかれて目を開ければ「やっと開けた」と笑われた。


「りん、」
「もーすぐだから、開けとけって」
「うん、…」


燐の背中に腕を回して胸に耳を当てて目の前の景色を見つめる。遠くに見えるコンクリートジャングル、人気のないESの屋上は他の人たちの目を気にせずにいい穴場スポットだ。

暗闇が広がる夜空、遠くの建物で見えない地平線の辺りから段々とグラデーションのように明るくなって行くのがわかる。


時間は来た。


人は本当に美しいと思うものを見た時、言葉を失うものだと思う。現にあたしも言葉が出なくてただ目の前の景色を見つめることしかできない。


眩し過ぎる陽が昇る。


眩しさに目を細めるも閉じないように、少しでも目に焼き付けるように見つめていて、忘れていたかのように空気を深く吸い込んで肺に送り込む。



「りん、」
「ん」
「ありがとう」



昔は当たり前のように一緒にいて年越しもしていたけれど、今だからわかる。当たり前もなければ、いつどんな風に変わってしまうかだってわからないこと。それでも、今はまた一緒にいられる幸せを噛み締めながら、今年も燐と一緒に過ごせますようにって気持ちを込めて呟く。




どこまで燐に届いたかわからないけれど、


あたしは燐と見たこの景色とこの感情をこれからも忘れたくない。

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