年越しあんさんぶる
煌びやかなステージ、客席を埋め尽くすペンライトの光。
「「「5!4!3!2!1!」」」
ステージにそれぞれの衣装を纏ったESアイドルたち。
「「「「あけましておめでとうございまーす!!!!」」」」
カウントダウンと共に、新年の挨拶が響き渡った。
ES主催のカウントダウンが終わり、舞台裏から楽屋への道のりでは出演したアイドルたちが互いに「お疲れ様でした」「明けましておめでとう」「今年もよろしく」などという挨拶を繰り広げている。
「おつかれさまでした!」
そう、アイドル水城優希だって例外なく。ステージで最後の挨拶を他のアイドルたちと並んで行い、客席に向かって大きく手を振ったばかり。その景色の余韻は未だに冷め止まず、胸の中でザワザワと燻っている。
「優希おつかれさま」
「優希ちゃんお疲れ様〜!」
「泉くん、ナルちゃんおつかれさま…!ありがとう」
先に裏に戻っていたあたしはスタッフさんたちと挨拶を交わしていれば、後から戻ってきたKnightsのみんなも合流。泉くんは他のスタッフから水を受け取ってたみたいで、あたしにもペットボトルを一つ手渡してくれたので、すぐに捻って水を喉に流し込んだ。
「改めて、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あけおめ〜ことよろ〜」
「よろしくお願いします!優希さん!」
さっきの挨拶はESライブに来てくれたファンに向けての言葉だったから、あたしたちは今ここで互いに新年の挨拶をする。この挨拶も何度目かな、なんて思いつつ毎年当たり前となった新年の挨拶。
「まったく、夜更かしはお肌に良くないからさっさと身支度して帰るよぉ」
「そうね、挨拶してからにしましょう」
「優希も俺たちと一緒に帰るでしょ?」
時刻は深夜2時を回っている。出演者の中には会場側のホテルを抑えている人たちもいるけれど、あたしたちは違う。この時間から挨拶して支度してってなると元旦の繰り下げられた終電にも間に合わないし、帰るならばタクシーや車がないと少々キツイのは分かりきっている。Knightsのみんなはマネージャーと一緒に車で帰るのだろう。それに便乗して帰ろうかな、と思っていれば突然あたしの体が自分の意思とは反してぐらりと傾いた。
「あけおめ、ことよろ。優希を今年もよろしく頼みたいけど、コイツは俺っちと帰るから」
視界に入ってた泉くんはすごい嫌そうな表情してたし、他のみんなも多分あたしみたいに現状がすぐに処理できてなかったみたい。あたしの体は何かにポスッとダイブしていて、気づけば頭上で声がしてたし、見上げてみればそこにいたのは額とか首筋にまだ汗が滲んでいる燐だった。燐は含み笑いを浮かべていたけれどあたしが見上げた視線に気づいて目が合うと、燐のいつもの優しい目の色が映る。
「なー、優希」
「ちょっとぉ〜!!!」
「天城、場所を慎みなさい」
だけど、燐はこういう人間だ。自分を隠すのが上手いから、すぐにいつもの調子であたしの頬に口付ける。あまりにも自然な流れだったけど、忘れちゃいけないのはカウントダウンライブを終えたばかり。ここには色んな関係者の人たちもアイドルもいる。側から見ていて、ただの戯れのよう、には見えないだろう。だから泉くんはライブの余韻は嘘みたいにカリカリした声を出しているし、HiMERUくんも冷静に燐の行動を示唆していた。
「兄さん!姉さん!おめでとうだよ!!!」
「っと、おいおい。弟くんよ、突然突っ込んでくンなよなァ」
「ひーくんおめでとう」
もちろん、燐の行動もあたしたちの距離感を見てもなんとも思わない人だっている。例えばひーくんがいい例だ。あたしたちを見るなり嬉しそうに駆けてきてそのままドーンと抱きつかれてしまった。あたしは平気だったけど、あたしの後ろにいた燐が二人分の体重を受け止めることになってたから、ちょっと危なかったかも。
昔、故郷にいた頃にこうやってひーくんが抱きついてきてくれて、燐が後ろで受け止めてって 出来事がよくあったなって懐かしくなる。
「兄さんと姉さんと同じステージに立てて僕は嬉しいよっ」
ひーくんの言葉に、また胸の中がポカポカする。本当に嬉しそうな笑顔を浮かべていて、ステージで見る時の笑顔とはまた違った、かわいいかわいい弟の笑顔。どんなに身長が伸びてあたしより大きくなったって、血が繋がっていなくたってひーくんはかわいい弟だ。
「あたしもだよっ。ね、燐」
「…そうだな、明けましておめでとう、一彩」
それはあたしだけじゃない。燐も同じなのは言わなくたってわかる。燐だってここが外だということも忘れてすごく嬉しそうに表情を緩ませているから。ふふっ、燐のキャラ崩れちゃってるけど、あえて言うのはやめておこう。
ちなみにこの光景は後程、誰かが天城サンドって呼んでいたのを耳にする。
撮られていた写真を見せてもらったけど、三人ともすごくいい表情だったからもらっちゃった。
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