3rd Xmas



※娘と3回目のクリスマス




「まま!さんたさんはみんなになんでもくれるの?」
「うん、いい子にしてたら来るんだよ」


サンタさんと言うものを漠然と理解し始めた蓮は毎日この質問ばかり。何かをもらえると言うことだけ理解したようで、気になることはなんでも聞いてくる。


「ままのところにもくるの???」
「ママのところは来ないかな〜」
「まま、いいこじゃないの…?」
「ママはママだから来ないんだよ」


蓮は納得できない様子で、首を傾げる。


「んぅ、れおくんは?」
「レオくんたちも来ないかな〜」
「…みんなのところ何もないの…?」


蓮は大きな目をさらに見開いてしまった。それはもう漫画で見るガーンという効果音が目に見えるほどのリアクションで。どうやら、この発言により蓮は何やらショックを受けてしまったみたい。








今日はニューディの事務所に赴く日。
ちょっと大きな紙袋を持って蓮の手を引いて一緒に出勤。


「あれ、蓮だ〜」


事務所に入ってすぐいたのは凛月くん。蓮を見るなり、へらっと笑って迎え入れてくれる。


「ん!りっちゃん!蓮はさんたさんよ!」
「そうなのー?でも蓮は白いおひげ生えてないねー?」
「蓮はさんたさん!」


凛月くんが何と言おうとサンタさんと言い張る蓮。そう、今日の蓮の格好は真っ赤なサンタさん風のワンピースにサンタ帽を被っている。例え白いひげがなくても、おじいちゃんでなくても今日がクリスマスより前でも蓮は今日だけの小さなサンタさんだ。


「今日は蓮がサンタさんになってみんなにプレゼントあげるんだよね」
「ねー!」


蓮の足りない言葉では多分みんなわかんないだろうから、補足のつもりで説明すれば蓮も一緒に同意。蓮はすっごくニコニコ楽しそう。そんな表情に凛月くんもゆるゆるだ。


「蓮が俺たちにプレゼントくれるのか〜?それはうれしいなあ」
「可愛いサンタがいるネ」
「とってもcuteです!」


気づけばレオくんや司くん、夏目くんとニューディのみんながわらわらとやってきて蓮を取り囲む。と言っても、みんな蓮のことを可愛がってくれるから、目線の高さを合わせてしゃがんだりして、蓮につられて表情も緩みっぱなし。アイドル向けの笑顔は何処へやら状態なのがちょっと可笑しくて笑ってしまう。



「これはそらくん!」
「HaHa〜!ありがとうなのです!」
「これはねー、なーちゃんの!」
「ありがとう、蓮ちゃん。すっごく可愛いわ」
「まま!はやく!」
「はいはい」


蓮サンタは言葉の通り、サンタとしての役目を果たしていた。あたしから一つずつプレゼントを受け取って、これは泉くん、これはつむぎくん、としっかりこだわり持って手渡していく。ここで妥協しないのがちゃっかりしてるというか、頑固というか。


「それで、この中身はなんなの?」


プレゼントを受け取った泉くんは、早速疑問を投げかける。レオくんに至ってはちゃっかりその場で開けちゃって「わははは!可愛らしいな!一曲作るぞ〜!」なんて言って自分の世界に入ってしまったというのに。



「それね、ソープフラワーが入ってるの」
「泉ちゃん、すっごいいい香りがするわよ〜」



蓮 と選んだプレゼントはソープフラワー。プリザードフラワーも悩んだけれど、見た目と香りを楽しむため、蓮の希望によりみんなにあげたい!ということでソープフラワーにした。デザインも色味も全部蓮セレクト。だから全部蓮から。サンタさんなのにその人の欲しいものじゃなくて自分が見ていいなって思ったものをあげようとするあたり、子供らしくお花なのは女の子だなって実感する。



「はい!ままくんの」
「ママは嬉しいぞ〜!ありがとう蓮さん!」
「たかいたかいして!」


自分で斑くんにプレゼントしたのに。すぐに高く抱っこして欲しいと言い出して、そのプレゼントを置かせて自分を抱えさせるのとか子供ならでは。それにちゃんと答えてくれる斑くんに申し訳ないという気持ちとありがとうという気持ちだけを飛ばしながら見つめる。


「たかーい!ぱぱみたい!」
「蓮さん、楽しいかなぁ?」
「うん!みんないっぱいみえる!」


全く、都合のいいサンタさんだ。完全に喜ばす側から喜ばしてもらっている側になってしまっているし、それをわかってないのもまたおかしい。キャッキャと楽しむ蓮に対して、話しかけたのはナルちゃんだった。



「蓮ちゃんはサンタさんに何をお願いするのかしら?」
「んぅ?」
「サンタさんから何をもらうの?」
「蓮ね、あかちゃん!」



蓮の言葉に思わずピシリと固まるあたし。ただ固まったのはあたしだけじゃない、この場の空気全体が一瞬だけ固まったのを肌で感じた。


蓮以外は…。



「蓮ね、あかちゃんもらうんだよ!ねーまま!」
「あー…はは、」



何も知らない蓮は屈託のない笑顔をあたしに向けて大きな声で話す。もう、あまりにもピュアな眼差しが眩し過ぎて何も言えない、笑って誤魔化すしかない。泉くんとかナルちゃんとかなんとも言えない視線が凄く痛い。



「蓮は何で赤ちゃん欲しいの?」
「だって蓮も赤ちゃんいい子いい子したい」
「いい子いい子したいの?」
「うん、蓮ね、お姉ちゃんになりたいもん」
「そっかぁ。でもさ、蓮」
「なあに、りっちゃん」



あたしが今ここで何を言ってもツラいだけ、もちろん精神的に。だから誰かこの空気をぶち壊して、話を逸らして欲しい。そう願ってもなかなか言い出しにくいのが現実なのに、まさかの切り込みを入れてくれたのは凛月くんだった。斑くんに肩車してもらったままの蓮は不思議そうに凛月くんを見下ろしている。絵面はとても微笑ましいはずなんだけど、凛月くんの異様な笑顔、何かイヤな予感がする。



「蓮、それはね、きっとパパとママが頑張ってくれるよ〜」
「んぅ?」
「凛月くん!!!!」


言うと思いました!わかってた、凛月くんの言葉に後ろで泉くんは呆れた表情で首を振ってるしナルちゃんは苦笑い。斑くんは変わらずニコニコ笑顔でダンマリを決め込んで、当の本人である蓮は不思議そうな表情。あぁ、わからなくてよろしい…。



「蓮、いいこだからね!さんたさんもくるもんね!」
「…うん、そうだね」



今日はクリスマスではない。だからまだ蓮は何も知らずに笑ってくれている。さて、あたしは残りの日数で蓮の欲しいもの対策を本気で考えなければならない事実に頭を抱えた。



そっとお腹を撫でながら。

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