1st Xmas



※娘と初めてのクリスマスの年

お風呂に入れてあげた蓮が湯冷めしないように優しくタオルで拭ってあげる。そして用意していた部屋着はいつもと違う新しいもの。お風呂上がりで元気いっぱい、両手を動かして今にもゴロンと寝転んでハイハイしそうな蓮を何とか止めてそれを着せていく。

上下つなぎだから、足から通して腕を入れて前を止めてあげて完成…!!!



「パパ、見て見て!」
「あ?」
「可愛いでしょっ」


蓮を抱っこして、リビングのソファーに寛ぐ燐に声をかけた。我が子ながら本当に可愛らしすぎて是非見て欲しい。きっと可愛いって言ってくれるもの。


「ちっちゃいトナカイじゃん」
「かわいくない?」
「かわいすぎっしょ」
「ふふっ、だよね」


燐の表情、めちゃくちゃ緩んでる。まあ、あたしも人のこと言えないんだけどね。蓮に着せてあげたのはトナカイ風なベビー服。クリスマスプレゼントとしてもらったものだ。季節感がありすぎて、自分で買うには躊躇するけれど頂いたものなら別。この時期を楽しむために、しかも今この時しかない蓮だからこそ着た姿を記録に残したくて早速着せてしまった。


「蓮ちゃん」
「うー?」
「ふふっかわいい」


完全に着せ替え人形状態なのに、蓮は当事者にも関わらず何もわかっていない。自分の方を向かせて名前を呼べば、不思議そうな表情であたしを見てくる。それがまた可愛くてほっぺたにチュウしてあげたら、嬉しそうに笑ってくれた。


「まっま」
「はーい」
「んぅ」
「あ、こらこら食べちゃダーメ」


ママと言うようになり、ハイハイをして、何でも興味関心を持つようになった蓮。少しだけ視野と世界が広がった蓮だけれど、今自分の姿までは理解できていない。だから、今着せられている服だっていつものように袖を口に突っ込む。



カシャッ



「んーう?」
「蓮、こっち見ような〜」
「あ…んむ」


横でスマホを片手に蓮の写真を撮り始める燐。音につられて顔を向けた蓮に対して、視線を集めようと空いている方の手でヒラヒラと蓮を呼びかける。だけど、まだまだ幼い。蓮は思ったように動いてくれなければ、逆に言えばジッとさえしてくれない。しばらくパパをジッと見つめるも、すぐに飽きがきて視線をずらしてしまう。






「蓮かわいい」
「こっちもかわいいっしょ」
「この写真も好きだなぁ」


気が済むまで撮り納めた蓮の写真。ハイハイしている姿やおもちゃで遊ぶところ、ぬいぐるみと一緒に戯れていたりと様々。燐が撮った写真を二人で寄り添って眺めては可愛すぎて、親のあたしたちもキャッキャしてしまう。


「これ、水城に送ったらどうだ?」
「そうだね、あとで送ってみる」


クリスマスってイベントから説明しなきゃならないけれど、母さまも蓮の成長を楽しみにしてくれてる。だから、きっと喜んで話も聞いてくれるだろうな。


「クリスマスはどうする?」
「んー、どこも混んでるだろうし、蓮もいるから普通に家でいいんじゃないかな」


蓮ができてからも、生まれてからも燐はあたしのことだって気にかけてくれる。クリスマスについて、正直言ってあまり何も考えてなかった。だって蓮も小さいし、どこに行くにしても大変だろうな。寒い外に大人の都合で出歩かせるのも気が引ける。気づけばあたしの主軸は蓮だ。その前は燐だったのに、これが母親になるってことなのかと改めて実感させられる。


「クリスマス、何食べたい?作るよ」
「あ?クリスマスぐらい何か出来合いのものでもいいんじゃね」
「うーん、ピザとか?」
「ニキとか呼んでみっか」


どこにも行けない代わりに何かできること、って思ったけど、結局燐の配慮にあたしが丸め込まれてしまうのだ。現にこうやって手を抜いていい機会をくれるのは正直助かる。蓮に手を焼いてばかりだから。


「そういえば、蓮、なんかしず、かだ…け、ど」



燐との話で蓮を完全に目を離していた。本当に少しの間でパッと目を離すつもりはなかったのに、撮った写真に夢中になってしまったあたりから、やらかしてしまった。後悔先に立たずという言葉がぴったり。普段なら絶対やらないし、こうやってやらかしてしまうんだと後々思ったものだ。


部屋を見渡してパッと蓮を見付けられなかった。右、左と辺りを見渡してみて一瞬どこに行ったかと思ったけど、すぐに蓮は見つかる。



だけど、あたしは固まってしまった。




「んぅう…っしょっ」




蓮は部屋の隅っこにいた。詳しく言うならばテレビを置いてある台のそば。台に手を伸ばしている、のは別に不思議なことじゃない。



「…り、ん…、蓮が」
「は、?あ、」



あたしは蓮から目が離せなくて、手探りで燐のことを叩きながら声をかけた。燐はあたしの行動に最初は不思議な声を出したけど、多分同じ方を見てくれたのだろう。すぐに燐も黙ってしまって、横で息を呑むのが分かった。


「んぅううう」


あたしたちの視線が自分に注がれているなんて蓮は知らないだろう。現に一生懸命、踏ん張っている。そう、踏ん張っているんだ。



「蓮…!」
「蓮が立った…!!!!やだ、カメラカメラ!」


プルプルと足を震わせてまだ慣れないバランス感覚で蓮は台に手をついて立っている。


「蓮…!ほら、ママだよ〜っ」


ソファーから飛び降りて、蓮の数歩先まで俊敏に移動してすぐに両手を広げた。蓮の名前を呼んで、こっちこっちと声をかけて誘導する。すると、蓮はすぐにプルプルとさせた覚束ない足を一本踏み出した。


「ま、っま」
「うん、蓮ちゃんこっちだよ〜っ」
「あーっま!っま!」
「蓮!歩いた!すごーいっ!」
「んぅっ!」


それから蓮は二、三歩という距離だけど確かに歩いたのだ。ママと言いながら、プルプルとした足、覚束ない足取りで、両手を必死に伸ばしながら。初めてだから歩けたこと自体がすごいし、何より嬉しい。蓮がまた一つ成長した瞬間を目の当たりにしたのだから。腕にダイブして来た蓮を抱きしめて全力で褒めてあげれば、蓮も嬉しそうにニコニコしている。



「パパ見た?!」
「見たし、ちゃーんと撮ってっから」


興奮冷めやまぬまま、燐に視線を移せば燐も満面の笑み。あたしみたいに取り乱しまではしてないけれど、嬉しさが表情に溢れ出ている。現に「蓮すごいな〜っ?パパんとこにもおいで」なーんて、今まで持ってたスマホをちゃっかり横に置いて自分にもやってくれないか期待の眼差しを向けている。



「クリスマス、前なのにステキなプレゼントもらっちゃったね」



クリスマス、どんなに高価なプレゼントよりも蓮の成長が何よりも今は価値がある。

今日もステキな蓮の成長という名の思い出をもらってしまった。


First Merry Xmas

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