sakura様リクエスト



※sakuraさまリクエスト


ここはニューディの事務所内にある会議室。あたしはその中の一席に身を収めていた。あたしから見て右手の手前に凛月くん、奥にはナルちゃん、左手の手前には泉くん、奥にはレオくん。そして向かい合う座席に座るのは司くんだ。



「では、始めましょうか」



テーブルに両肘を立てて寄りかかりながら、司くんは神妙な面持ちで口を開いた。



「まずは、そちらからどうぞ」



司くんはひらりと右手を上げてこちらからの言い分を誘導してくる。ただその言葉はこちらに向けているものではあるけれど、あたしに対してではなかった。あたしは、チラリと右横に視線を向けるだけ。




「ンじゃ…単刀直入に言うわ」



そう言葉を放ったのは、本来コズプロの所属である燐だった。燐はいつもの柔らかい表情でもなければ、テレビ向けのような軽々しい声のトーンでもない。至って真面目であり、真剣な表情そのもの。それはまあ、Knightsのみんなにも言えることで、正直あたしが一番内心落ち着かないのだ。




「優希と結婚する。そんで、優希と故郷に帰る」

「ハァ?なにそれ!」

「ちょっと泉ちゃん落ち着いて」



燐の端的な言葉を一番最初に反応したのは泉くんだった。泉くんはテーブルをバンっと叩いて声を荒げたのをナルちゃんが止めてくれた。ちなみに他のみんなは微動だにしていないのが逆に怖い。



「優希とのことは前から知ってたけどさ〜、ちょっと急すぎないー?」

「凛月ちゃんの意見に、アタシも同感よ。優希ちゃんのことは二人が再会する前からの付き合いだし、優希ちゃんのこともわかってるからこそ、軽々しく認められないわ」

「結婚だけじゃなくって、故郷に帰るだもんねぇ〜」

「優希ちゃんだって、ここでの事だけでもいろいろあるの。突然帰れるわけじゃないのよ」



凛月くんはテーブルに身を預けて、燐の顔を見定めるように覗き込むように言葉を放つ。あのナルちゃんでさえ、浮かない表情をしていてあたしの気持ちはより重くなるだけ。



「お前らが故郷を出てからずっと優希を守ってくれてたのは知ってる。優希にとって、ここがどんだけ大切なのかも知ってるから、俺に本来とやかくする筋合いはねぇ」

「ふん、だったら」

「だけど、俺っちだって、そこで引き下がれる関係でもねェんだわ」












「故郷から出てアイドルしながらずっと探してた優希をやっと見つけたんだからよ、こんなところで無理ですダメです、はいそうですかってなんねぇし」

「つまり…?」


「無理矢理押し通しても良いんだけど、そんなの優希がきっと嫌がるからなァ…。テメェらからの条件あんなら言ってくれて構わない。土下座でもなんでもするからよ、全員納得させた上で優希を連れて帰る」




真っ直ぐと正面を見て、揺るがない燐にあたしは言葉が出ない。


故郷に戻らなきゃいけない理由は完全にあたしと燐の問題ではあるけれど、だからってここで、燐自身がここまでする必要なんて本来はないはずなのに、燐の目は真っ直ぐでこの場の空気が一気に張り詰めた。







「おれはずっと優希を見てた」



この場の空気の中で、口を開いたのは今までずっと黙っていたレオくんだった。



「お前に言ったよな、優希がどんな気持ちでいたのか」

「あぁ」

「優希のそばにいてやってって言ったのもおれだ」



ずっと目を逸らさず、合わせたままのレオくんと燐。ハラハラしながらも耳に入る話を聞くたびに、胸の中に積もるのは何のことだろう…っていう疑問。



「優希の居場所はここだってある、けど」








「それじゃ、優希のためじゃないんだろ…?」




レオくんは知ってるんだろうか。あたしは詳しく故郷での話をしたことはない。故郷を出た理由も燐と離れた理由も、抱えてたもの全部。それなのに、レオくんから出た言葉は全てを悟っているかのようで、ビックリして息を呑んだ。



「そうだ、優希のためにも俺は優希を連れて帰らなきゃなんねぇ」



気づいた時には横で燐が頭を思いっきり下げていてギョッとしてしまう。それはKnightsのみんなも同じだったようで感嘆の声が漏れた。





「認めてください、お願いします」




そう、燐の声が部屋に響いた。それを見て、目頭が熱くなるのを堪えて、あたしもつられてみんなに頭を下げる。



「みんなにはすっごく助けてもらって感謝してる。ずっとそばにいてくれて、居場所をくれて。でもね、今回しかないの…わがままなことだってわかってるけど、お願いしますっ…」



感謝してもしきれない、まだみんなに満足なお返しだってできてない自覚だってある。ずっと居場所を作ってくれて、それによがってたくせに、燐のところに戻った上に突然の自分都合なんてぶつけちゃって、本当に申し訳なさしかない。だからこそ、みんなの反応が怖い、



「優希、顔上げて」

「…レオくん…」

「おれたちは優希の騎士だ、優希の幸せになってほしいんだ。おい、リン」



顔を上げて見つめたレオくんはすごく柔らかい表情だった。



「優希に何かあったら、おれたちが許さないからなっ!」

「優希お姉さまはもっと私たちにわがままを言っていいんですよ」

「司くん…」

「アタシたちは優希ちゃんの笑顔が大好きだからね」

「優希、よかったねぇ」

「話題としては良いことなんだし。けど、早く戻って来なよ〜?」

「じゃないと、セっちゃん寂しいもんねぇ」

「ちょっとぉ、くまくん〜???」



さっきまでの場の空気は嘘みたいに、段々と崩れ始めてそれはもういつものKnightsの集まり同然。収拾がつかなそうになってきたところで、司くんがまた口を開く。


「元々私たちはお二人のことをちゃんと認めております、だから安心してくださいね」




その瞬間に、今まで我慢していたものが崩壊したかのようにポロポロと涙となって溢れていく。突然泣き出したせいで、Knightsの面々が次は驚いてアタフタし始める。



「あぁ、優希お姉さま泣かないでください…!」

「ちょっと男子ぃ〜、優希泣かせないでよ〜」

「優希、緊張させて悪かったな。気分は平気か?」

「ん…平気」


燐にタオルをもらってグスグスしながら、お腹を撫でていれば、ナルちゃんが何かに気づいたかのように声を漏らす。



「ねえ、優希ちゃん、あなたもしかして妊娠してるの…?」



その一言により、この後Knightsによる緊急会議第二弾が開催される。




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