朱雨様リクエスト



※朱雨様リクエスト


「優希お姉さま!」



ふと名前を呼ばれて視線を向ければ、そこには見慣れた私服姿の司くん。「お待たせしました!」と笑顔で駆け寄ってきてくれたので、大丈夫だよ、と返す。



「今日はこの朱桜司が優希お姉さまのためにescortせていただきます」



そう言って、司くんはあたしの手を引いて歩き出した。



「優希お姉さまは初めてでしたっけ」

「うん…、こういうところ自体初めてだから…、ごめんね、どう反応すればいいかわかんないぐらいドキドキしてる」

「それは良かったです!reactionがなかったので、ちょっと不安でしたが嬉しいです」



ゲートを潜って、視界に入る街並みはとてもオシャレでまるで知らない国に来た気分になる。窓や建物の壁に様々な文字が入っていて、英語だからパッとみて理解はできないけど、これがまた新鮮で気持ちが高鳴る。



「ここのあたりのお店はどんなお店?」

「この辺りは、お土産屋さんですね最後に寄りましょう。優希お姉さま、こちらです」



お店の入り口から見える店内があまりにも鮮やかで楽しそうな雰囲気が伝わってきて、入りたい気持ちを抑えてそのまま引かれて歩くだけ。完全に司くんに行き先を任せたまま、過ぎて行く景色をひたすら目に焼き付けていた。



「優希お姉さま、見てください」



ここは食べ物かな、なんてお店を見ることになっていたあたしは、司くんに声をかけられて自分の足が止まっていたことに気づく。気づいたのはそれだけでなく、前の方がより明るくなっていて、視線を前に写せば思わず息を呑んでしまって、言葉にならなかった。



「いかがでしょうか?」



全く知らないわけではない。

なんなら、写真とか雑誌とかCMとかでだって見たことある。見たことあるけど、現物を見たことがなかったあたしにとっては、まるで他人事のような、テレビの中のことのように受け止めていたから、いざその現場に立って見て、さっきも言ったけど本当に反応が追いつかない。



「…ほんものだ」



やっと出た言葉が、真偽を疑うような言葉になってしまったが、そこは多めに見て欲しい。目の前に広がるのは、大きな広場に咲く色鮮やかな花々。そして正面に見えるのは、この場所の象徴であるお城。天気の良さがそのお城の存在をよりはっきりと主張していて、写真や映像で見るよりもドキドキと感動が大きい。



「本物ですよ。ここは夢の国ですが、全て本物です!」













あれからまず司くんに連れられてやってきたのはとある部屋の一室。そして何故かあたしは着替えさせられていた。



「司くん…、」

「優希お姉さま…とてもお似合いです」



着替え終えて司くんの前に出れば、司くんはとても満足そうな笑みを浮かべてくれる。動くたびにふわふわと動くフリル。あまり慣れていない格好だからこそ、ちょっと動きにくさもあったりもして。



「あの、これ」

「せっかくの夢の国です、素敵なお城もあります!今日はKnightsの騎士としてescortするためにも、優希お姉さまにはお姫様になっていただきたいと思いまして準備しました!」



そう、あたしがいま身に纏っているのは夢の国のプリンセスたちが着ていそうなドレスだった。自分の格好が慣れなさすぎて、すぐには気づかなかったけど司くんもいつのまにかお着替えを済ましていて、正装姿。それでも口を開けばいつもの司くんで、ついつい戸惑いさえもどうでも良くなってしまって笑みが溢れる。



「今日は優希、さんとお呼びしても良いですか…?」

「うん、なんか新鮮だね」

「今日ぐらいはお姉さまではなく、一人の女性としておもてなしさせてください」

「ふふっ、よろしくお願いします」



少しだけ背伸びしてくれる司くんが可愛らしくて、でもそんなことを言ったら多分拗ねちゃうからその言葉は自分の中にしまっておく。そっか、お姫様か…、なんて司くんに言われた言葉を思い返していれば、ふと浮かんだことを司くんにお願いしてみた。



あれから、司くんに連れられて、園内のいろんなところを案内してもらった。行く先々でネズミくんやカップルのネズミちゃんがお出迎えしてくれて、一緒に写真を撮ったり。「ここのchurro食べましょう!」なんて服装に似つかず食べ歩きもしてしまったり。ショーが始まった時はすごく感動してしまった、たくさんのキャラクターたちがダンサーさんと一緒に作る空間はアイドルとして活動するあたしから観ても、すごく刺激的だった。こんなにもワクワクさせてもらえるんだ、って感動してしまった。




「優希さん、どうでしたか?」

「すごい…言葉足らずで申し訳ないぐらい楽しいし感動しちゃった…」

「それは良かったです、私も優希さんに喜んでもらえて嬉しいです」

「ありがとう。でも、夢の国って人気って聞いてたのに全然人がいないんだね」



そう、ここに来た時は早い時間だからかなって思っていたから深く気にしてなかったし、ドレスに着替えさせられた時は流石に周りの目が…と思うこともあったけど、いざ外に出てみれば人気はやはりなくて少しだけホッとしたのを覚えている。一応、アイドルとして働く身としては、同じ所属事務所で仲良しと称されているとはいえ、ESビック3のKnightsのリーダーである司くんと一緒にこんなところを堂々といて良いわけではない。



「今日は優希さんのために貸切にしました」

「うん…?」



平日だからかな、とか思っていたら司くんから出た言葉にあたしは思考を停止させられる。ビックリしすぎて、言葉が出ないのは今日初めてのことだと思う。



「貸切…?」

「はい!貸切にしました!その方が周りの目も気にせず優希さんとゆっくりできるので」



あまりにも眩しいぐらいの笑顔で、あたしは口をパクパクさせてしまった。レオくんと言い、司くんと言い、Knightsの王様ってなんでこんなにも斜め上をいくんだろう。元々、違う感性の人だなって自覚はあるけれど、予想外のことをされて驚かないわけではない。



「…いや、でしたか…?」



あたしの反応が今日の中で一番何もなさすぎて、司くんを不安にさせてしまったのだろうか。気持ちの整理は正直できていないけれど、司くんがあたしのためにやってきてくれたことだと思えば、無下にできないし純粋に言えばここまでしてくれたことは嬉しいことだ。あたしはもう素直に喜ぶしかないと心に決めて、「ううん、驚いちゃっただけで、すっごく嬉しいよ」と答えれば、安心した表情を浮かべる司くん。




気づけば辺りは日が段々と落ち始める。まだ薄暗くなる前なのだが、日が落ち切るのも時間の問題だろう、日が落ちて終えば街灯や建物のライトアップが始まるはずだ。




「うわぁ…おっきいね…」



日が落ちる前にどうしても来たかったところ、夢の国の中で大きく聳え立つお城だ。最初、ここに来て遠目ながら見ていたお城を今目の前にして見てあたしは息を呑む。



「優希さん、準備できましたよ」

「うん、ありがとう」




司くんはそばにいたキャストさんと二言、三言言葉を交わしてあたしに声をかけてくれる。そう、着替えて早々にお願いしたこと、それはせっかくだからお城の前で写真が撮りたいという事だった。司くんには、「わかりました!」って言ってくれてたのに、それからずっとパーク内を楽しんでたのですっかり忘れられてたのかと思った。明るいうちに撮影したかったから、内心どうしようって思ってたけど、ちゃんと忘れてなくて安心する。


何枚かキャストさんに撮影してもらって、確認すればすごく素敵な写真になっていた。ありがとうございます、とキャストさんに挨拶すれば、司くんにちょっと待ってくださいなんて言われて、どうしたんだろう?と思い、視線をそちらに向けた瞬間、目を見開いた。



「優希さん、いつも支えてくれてありがとうございます」

「司くん」

「優希さんがいてくださったので、たくさん励ましてもらいました。レオさんにカッとなった時とか宥めてくださったり、練習にお付き合いして下さったり」


目の前に司くんがいるはずなのに、視界が段々とぼやけて霞むせいで、耳から入る声だけしかわからない。


「優希さんにはたくさん感謝してます。なので今日という日をこの朱桜司に下さって本当に嬉しいです」

「それはっ、あたしのほうっ…」

「そう言ってもらえて嬉しいです。優希さん、お誕生日おめでとうございます」


溢れる涙を気にせず、手渡してくれたのは様々な色合いの花束で。


「このお花、Freesiaって言うんです。優希さんへの気持ちを込めて。これからもKnightsと共に、そばにいて下さいね」


霞んで見えない目元拭ってやっと見えた景色は、赤、黄、紫など様々な色違いの花束とともに、いつもよりかっこよく見える司くんだった。



フリージアの花言葉
黄は「無邪気」
白は「あどけなさ」
赤は「純潔」
紫は「憧れ」
英語での花言葉は「innocence(純潔)「trust(信頼)」



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