匿名様リクエスト



※匿名様リクエスト
※別ルートの娘と初対面
※桜河視点





燐音はんが戻るっちゅう話は知っておった。個人の仕事を終えて時間もあったからコズプロの事務所に立ち寄ったら、たまたま燐音はんと出会した。



「よぉ、こはくちゃん。久々だなァ」



相変わらずの軽い挨拶やけど、それは口だけで表情はなんちゅう顔や。雰囲気やって、けったい柔らかくて違和感しかあらへんわ。




「戻ってたんやな」

「おう、戻ってきたばっかだけどな。今日はとりあえず挨拶にな」

「…良かったんか?」

「ア?」

「戻ってきて」



数ヶ月ぶりなだけなんに、燐音はんはすっかりパパなんやろうな思ったわ。元々、頭はキレるし年上やからな…って掴みどころのない部分もあったけど、それがまた変わった気ぃするわ。

燐音はんはきっと今すごい幸せなんやろうな、って思った。

だってそういう表情をしとったから。

だから自然と口走っていたのは、ここに戻ってきてよかったのかっちゅうことやった。


燐音はんは一瞬だけ驚いた表情を浮かべたけど、すぐにいつもみたいな意地の悪い笑みを浮かべる。



「俺っちがいねェと、てめぇら寂しいだろ?」

「よう言うわ…」















「ほんまにえぇんか…」

「いいって、いーって」



あれから、燐音はんに誘われて燐音はんの家に行くことに。暇なら優希はんと赤ちゃんに会いに来いゆーて強引な奴やなぁ。優希はんにも久々に会いたいのは山々やけど、戻ってきたばっかで大変とちゃうんかって思ったが、まあ燐音はんがいいのならええんやけど。



「ただいまァ」

「おかえり〜」



自宅に着いて玄関で燐音はんが声をかければ、中から聞こえてくる優希はんの声。まだ声しか聞こえへんけど、元気そうやなァってどこか安心した。



「いらっしゃい、こはくん」

「突然お邪魔してしもうて、堪忍なぁ」

「いいのいいの!むしろ、疲れてるところ来てくれてありがとう」



優希はんは相変わらずの気遣いや。ご飯の準備してるんだけど、良かったら食べて行ってね、なんて気遣いまでしてくれて胸の中がほっこりするわ。やっぱ坊がお気に召すだけあるなぁ。



「こはくちゃん、とりあえず座んな」

「ふふっ、お茶でいいかな」

「あ、優希」

「ん〜なぁに?」



二人のことは、前から見てて微笑ましいな思ったったけど、その雰囲気は更に増した気ぃするわ。仲睦まじいっちゅうは、えぇこっちゃ…なんて思っとったら、燐音はんが飲み物持って来てくれた。



「燐音はん、娘ちゃんの名前なんなん?」

「おう、蓮って言うんだ」



娘が生まれたとは聞いていたが、名前を聞いておらへんかったなぁ思って尋ねれば燐音はんはごっつニコニコしながら教えてくれたわ。可愛いぞ〜なんて言う燐音はんは親バカや…と内心呟いておれば、優希はんがパタパタとやってくる。



「ちょうど起きてて機嫌も良さそうだよ」

「蓮〜パパだぞ」



その腕にはちっさな赤ちゃんを抱っこしとって、この子が蓮ちゃんやんな。燐音はん、蓮ちゃんが来るなりめちゃくちゃ猫撫で声出しとって、子供ができてこんなにも人って変わるんか…って思ってしもうた。



正直、子供とか特に赤ちゃんなんて接する機会がほとんどあらへんから、こういう時どういう反応するんが正解なんかわからへん。燐音はんも優希はんも親やし我が子やから、可愛いっちゅうもんやろ。



「こはくちゃん、蓮抱っこしてやってくれよ」

「わ、わし…、赤ちゃんの抱っこしたことあらへんで…!」


「ンだよ、なら尚更。初めてが可愛い蓮でイイじゃん」



突然の燐音はんの言葉に声が上ずってしもうた。燐音はんはケラケラ笑っているが、あかんやろ…。わしは生活の中で機会も無かったし、何より汚れ仕事ばっかりしてきた人間や。こんな…無垢な存在に触れていい人間じゃあらへん…。



「遠慮すンなって」

「ちょっ、ま」


わしの思っとることなんてお構いなしに、燐音はんは半ば強制に蓮ちゃんをわしの腕の中に。初めましての蓮ちゃんは、お目目クリクリでごっつ小さくてどないしよ…って内心心臓バクバクや。



「首、まだ不安定だから、そう。大丈夫だよ」


優希はんが抱っこしてる腕の位置を少しだけ手直ししてくれて何とか安定できてるやろか。わしの緊張とは裏腹に、ジーッと見つめてくる蓮ちゃん。



「蓮、こはくちゃんだぞ」

「良かったね、蓮に会いに来てくれたんだよ」



抱っこすることに精一杯のわしの代わりに蓮ちゃんに声かけてくれてはる燐音はんと優希はん。せやけど、蓮ちゃんはうんともすんとも言わなければ、ピクリとも動かへん。



「こはくちゃん、ビビってんのかァ?」

「ビビってあらへんわ…!」

「ふふっ、緊張しなくても大丈夫。むしろ怖がっちゃうと赤ちゃんは敏感だから伝わっちゃうかも」



そないな事言われても…なんて思いを巡らせていれば、突然目の前に小さな手が伸びて来よった。



「ぁ〜ぶ」

「蓮、こはくお兄ちゃんこんにちはーって」


「んぅ」



蓮ちゃんがわしに手を伸ばしてくれた。小さな手足を可能な限り動かして。せやから、わしもそれに応えな思って、「蓮ちゃん」言うたら、蓮ちゃんはニコニコの笑顔を浮かべてくれよった。




この子は何も知らへん。

わしがどのように生きてきたっちゅうこと。

せやからこそ、初めましてのわしに笑ってくれたんやろうな。



ずっと緊張していた気持ちが、一気に冷静さを取り戻していろんなことが胸の中を駆け巡る。




「こはくちゃん、可愛いだろ。みーんなこういう時があったンだ」



燐音はんが隣で呟く。



「小さいよな、こんなにちっさくて、生きてるんだ」



小さい、命…、



「俺も優希もこはくちゃんも、今は外で生きてるんだ。だから、もっと触れて感じてくれよな」



そっか、燐音はんは教えてくれようとしたんやな。


わしが戻ってきてええんか、なんて聞いたけど、燐音はんも優希はんも外で生きることを選んだ。きっと二人は蓮ちゃんのためでもあるんや…。



「ほんま…ちっこくてあったかいわ」



外に出るまで外を知らへんかった。


それが良いか悪いかは、わからへんけど。


二人のおかげでわしも蓮ちゃんに会えたし、


こんな小さくても生命の温もりがあることを教えてもらった。



「蓮ちゃん、よろしゅうな」



あぁ、目が熱くて顔上げられへんわぁ。



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