めい様リクエスト



※めい様リクエスト
※娘3歳前後
 



こんな日を迎える時が来るなんて、誰が予測しただろう。


少なくとも、あたしは夢物語だと思ってた、んけどね。




フリルをあしらったデザインは床にまで広がっていて、純白のそれを引きずりながら一歩、また一歩踏み込んで前を歩く。人の視線には、慣れてるはずなのに今日ばかりはさすがに緊張する。ふと、横に並んで立つ燐をこそっと見つめてみれば、その視線に気づいた燐がはにかんだ。


振り向けば、薄いピンクの色をしたふわふわのドレスを着た蓮が小さなカゴを持って、とてとてとやってくる。人の視線も気にせずにあたしたちの元へ、自分の足で一目散でやってくる姿は蓮の成長を実感させられた。



「パパ!」
「ありがとうな、蓮」



足元までやって来た蓮は持っていたカゴを差し出してくれて、燐が蓮を褒めれば嬉しそうにえへへと表情を緩ませた。











このドレスに初めて袖を通した時、現実味がなくて夢を見ているようだった。

このドレスで初めてお披露目した時、恥ずかしさ以上にポカンと口が自然と開いた状態で硬直している燐と蓮の表情がそっくりでつい笑ってしまった。


キラキラした瞳で「ママきれい…!」って言ってくれた蓮。

滅多に見る事のできない、頬を赤く染めながらもはにかんでくれた燐。

この二人の反応だけで、あたしの心は充分満たされていくのを感じた。








蓮から受け取ったカゴの中身のそれは、指輪が入っていてあたしは燐に、燐はあたしに互いの左手薬指にそっと通す。



いつだっただろうか、ウエディングドレスを纏った素敵な花嫁さんを見かけた。花嫁さんは、たくさんの人たちに祝福されていて、嬉しそうな表情を浮かべて花びらが舞う中を歩いていた。

その姿がとても美しく、綺麗であの時から心のどこかで憧れがあったのかもしれない。

でも、あたしには無理だと思っていたから。

だからこそ、夢のような今日という日。






「優希」

「ん…?」

「ありがとな」



周りには届かない小さな声で呟く燐。チラリと見れば、表情を綻ばせている。この燐の表情はみんなが基本あまり見ることのできない表情だって、あたしは知っている。



「燐…、あたしね、すごく幸せだよ」



たくさんの仲間たちに祝福してもらえて、


大好きな燐の横に並べて、


愛おしい娘ができて、




「ンなの、俺も同じだ」
 



純白のタキシードを身に纏う燐の手がそっと頬に触れる。燐の隣にいられることでさえ嬉しいのに、あぁこんなにも満たされて良いのか不安になってしまう。



「燐、ありがとう」



目は閉じているから今、燐がどんな表情をしているかはわからない。けど。気のせいかな、燐の手がちょっと震えてる気がした。

そっと触れる唇から、燐の体温が伝わって、あぁ現実なんだと実感させられる。




触れていた唇が離れて、そっと閉じていた瞳を開けば、目の前に燐。



「んぅ、蓮も!」



突然場の空気を壊すように耳に入って来た声にあたしも燐もキョトンとしてしまった。声がした方に二人して視線をやれば、そこには先ほどお役目を果たした蓮がニキくんに抱っこされているわけだが、珍しくその腕から脱走しようと試みている。ニキくんは「危ないっすよ!」なんて言いながら、必死に抱き抱えているわけなんだけど…、




「蓮もっ、蓮もっ!」



あまりにも必死にする姿が愛くるしくて、つい噴き出してしまう。そうだよね、仲間はずれは嫌だもんね。



「蓮、おいで」



その場に屈んで両手を広げれば、パアッと笑顔を浮かべた蓮が駆け寄って来てそのまま飛び付いてくる。そのまま抱っこしてあげれば、蓮から可愛らしいキスをもらった。




「ママ、だいすきっ」

「蓮が好きなのはママだけか…?」

「んぅ?」

「蓮、パパのことは?」

「パパもだいすきっ!」





ふふっ、パパもママも蓮の事大好きだよ。



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