学パロ2



※燐音視点


退屈な授業を聞き流して、時計を見れば針はもう少しで少しでチャイムが鳴るところまで来ていた。一階にあるこの教室は、外を眺めても何も面白みはない。こういう時、例えば優希のクラスが体育でもやっていて校庭にでもいたらと思うがそんなにうまくはいかないものだ。


チャイムが鳴り、昼休みを知らせる音により、ガタガタとイスなどが移動する音が響く。本来ならお昼ですぐさま優希のところに行きたいところだが、朝聞いた話ではこの前の時間まで移動教室と言っていた。なので、今教室に行ったところでまだいないだろう。どうしたものかと思い、スマホをポチポチと弄っていれば、突然クラスの奴に名前を呼ばれた。


「おーい、天城」
「ァアッ?」
「嫁来てるよ〜」


顔を上げて声のした方を見てみれば、教室の入り口に控えめに中を覗いている優希の姿。クラスの奴が俺のこと指差しているが、俺としては距離の近さが気になるところ。しかし、クラスの奴らも俺らのことは周知済みと言うこともあり、優希のことを嫁と呼んでいて気分は悪く無い。優希といえば、俺が手招きして呼べば、そばにいたクラスメイトに軽く会釈をして教室に入ってくる。


「授業終わりっしょ、お友達は?」
「うん、先に戻ってもらってるよ」


俺のところまで来た優希の手には、先程まで使ってたであろうものたちが抱えられている。その中で、優希は一つの包みを取り出すと目の前に差し出してきた。


「ン、なにこれ」
「調理実習でね、作ったから燐の分取っといたの」
「マジで」


見ればさまざまなデザインのアイスボックスクッキー。そういやあ、去年俺たちもそんなのあったなと思い、一枚掴んで口に入れれば程よい甘さが口に広がる。


「美味いよ」
「良かった」


優希が不味いものを作るわけがないし、もし失敗したとしても、それをまず俺のところに持ってくるはずがない。絶対優希のことだから、味見は欠かさないはず。いつだって健気すぎる優希に愛おしさが溢れる。



「ねえねえ優希ちゃん、飴あげるよ」
「へ、ありがとうございます」
「ん〜かわいいねぇ、ほんと天城にはもったいないなぁ」


クラスの女子が優希に飴の袋を差し出してきた。優希は言われるがまま、その袋に手を入れてひとつだけ飴をもらう。女子からもなんだかんだで可愛がられてる優希は、よしよしと頭を撫でられてもはやされるがままだ。



「うるせェな。優希は俺っちにぴったりっしょ」
「ほんと、なんでこんないい子が天城の彼女なんだろうって不思議で仕方ないよ」


椅子に座る俺の足と足の間にちょこんと入り込んで、もらったばっかりの飴を律儀にその場で包みを外して口に入れてはコロコロと棒を動かしながら舐める優希。目の前でやっているやりとりは完全に傍観を決め込んでダンマリになってしまった。


「あんま優希に絡むな」
「はいはい、うるさい旦那だね〜。またね、優希ちゃん」
「ありがとうございます、お邪魔しました」


優希からすれば、周りは上級生しかいないので落ち着かないだろうし、このままでは昼休みだって終わってしまう。もらったクッキーに加えてカバンから飲み物だけ取り出して、優希の手を引いて移動することにした。


「優希、へーき?」
「うん、先輩たち優しいから」


そのまま優希の教室に向かっている途中、手を引いたままの優希に声をかければふんわりと笑みを浮かべている。ホント、あいつが言ってたように俺にはもったいねェわと思いつつも、いつだってこの手を手放せないのは俺のほう。


「けど、」


階段を登ってる途中、ふと足を止めていて、視線を送れば優希が少しだけ不安そうな表情で俺を見上げる。


「燐、とあんな風に話してるの…ちょっとおもしろくない…」
「…優希」


繋いでいた手を繋ぎ直すように指を絡めて、優希なりの精一杯の表現に口がにやけそうになる。手を引いて、俺と同じ段まで登らせた優希の口を塞ぐ。今はちょうど昼休みが始まってしばらく経っている。購買に行っていた生徒たちも今はちょうど各々昼を食べてる時間のため、この階段は人通りが少ない。



「俺の、ぜんぶ優希のだから」



安心させたくてまた自分の唇で優希の唇を塞いだ。

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