娘とTrickstar



※衣更視点


見慣れた後ろ姿を見つけた。昔からそれは毎日、学校では顔を合わせてたけれど、卒業して事務所も変われば会わなくなる日常が今の当たり前になっていた。だから、こうやって見かけた時にはつい声をかけてしまう。


「凛月」
「あ、ま〜くんだ」


声をかけた人物である凛月は俺の声が聞こえるなり、すぐに振り向いてフッと笑みを浮かべる。昼寝もせず、昼間から動く凛月が見慣れてきたことに関しても時の流れ故だなと思ってしまうのは俺も凛月もそれだけ大人になったということだろう。



「凛月、何してるんだ?」
「んー?散歩だよ。ね〜」



凛月は視線を下げて、声をかけたのは小さな女の子だった。凛月は小さな女の子と手を繋いでいて、確かな声を掛けるまでこの女の子に合わせたゆっくりとした足取りで歩いていた。その子は凛月の問いかけてみるが、不思議そうな表情で凛月を見上げている。



「この子は?」
「俺の子どもだよ〜」
「いやいや、見え透いた冗談…」



何処となく見覚えのある顔立ち。赤い髪の毛にぱっちりとした瞳。どう見たって朔間の血筋ではないのは明らかなのに、凛月はその子と同じ目線の高さまでしゃがんで抱きしめながら呟くから、俺は苦笑い。頬をぴったりくっつけた凛月は「えーじゃあ、ま〜くんの子ども」なんて言うから、もっと身に覚えないウソが出てきたのに同じ系統の髪色のせいで何故か一瞬でもドキッとしてしまう。



「ス〜ちゃんの子どもかも」
「お前なぁ…見境ない嘘になってるぞ…」
「え〜本当にそう思うの?」
「嘘だろ?」
「ほんと」
「…マジ?」
「うそ」


語尾にハートが見えた。凛月はヘラッと笑って「ス〜ちゃんはお兄ちゃんだもんね〜」と女の子に言っているのを聞いて俺はもう肩から一気に力が抜ける。ダメだもう、話が進まない。



「蓮、ま〜くんにお名前言えるかな〜?」
「んぅ…」



この子は蓮ちゃんと言うらしい。凛月が蓮ちゃんに声をかけて、俺とお話しする機会を作ってくれるが、人見知りなのだろう。凛月にギュッと抱きついて俺を不安そうな目で見てくる。今までのやり取りでビビらせてしまったか…?と思いつつ、俺もしゃがんで目線の高さを合わせることにした。


「こんにちは、お名前教えてくれるかな?」
「…蓮ちゃん」
「蓮ちゃんって言うのか、かわいい名前だな」
「蓮、この人はね、ま〜くんって言うんだよぉ」


小さい声だったけど、たしかに名前を教えてくれた。まだ不安は拭えていないらしいけど、俺の目を見て答えてくれることに少しだけホッとする。凛月も蓮ちゃんに俺の名前を教えてくれていて、蓮ちゃんは再び不思議そうな表情で首を傾げて素直に聞き入れ「まーくぅ?」と呟いた。覚束ない発音が年相応で可愛らしく、妹の昔を思い出して頬が緩んでしまう。



「あれ、サリー?何やってるの?」
「凛月くんも一緒にいるね」



後ろから聞こえてきた声は凛月と同じ馴染みのある声。同じTrickstarのスバルと真、北斗の三人だ。俺も凛月も何もない場所でしゃがんでいたから、何をやってるんだ?と言わんばかりの表情でやってくる。確かに離れていれば蓮ちゃんの姿も見えないもんな、と思っていて今の出来事を教えてやろうと思っていたら、北斗が突然ぴたりと動きを止める。



「衣更の隠し子か?」



北斗の言葉は何処まで本気で何処までが冗談かわからない時があるが、この時ほどわからなかったことは早々ないだろう。

北斗の言葉を聞いて真は顔面蒼白だし、スバルに関しては「うそうそ?!そうなの?!サリー!」なんて言いながら、俺と蓮ちゃんの顔を見比べる。その表情は楽しそうと思いっきり書いてあって勘弁して欲しい。



「俺とま〜くんの子どもだよ〜」
「そんなわけあるかっ!」



凛月も便乗するもんだから、思わずツッコミを入れだのだけれど、その声が思ったより大きかったらしくて蓮ちゃんがびくりと体を震わせて「んぅ…」と凛月に抱きついて顔を埋めてしまう。ヤベッ…と思ってもやらかしてしまったことには変わらない。


「ま〜くんが泣かせたぁ」
「衣更、子供を怖がらせたらダメだぞ」
「サリーやっちゃったー!」
「お前らのせいだろ…」












あれから蓮ちゃんの機嫌を直すことに奮闘し数分。元々人懐っこいのか、スバルの性格もあってすぐに打ち解けてくれた。


「蓮ちゃん、優希さんの子供なんだね
「そうだよ〜。それで今は俺とお散歩中なんだよね〜」
「ね〜」



凛月もやっとネタバラシをしてくれて俺たちが知ったのは蓮ちゃんがあの優希さんの子供であること。そういえば、おめでただった話も出産した話も聞いてたけど事務所も違えば普段の生活も被らないから、こうやって初めて会うとは思わない。仕事で会ったとしても子供を連れてくるわけではないから、今の今まで本当に機会がなかった。



「ゆーく!」
「あれ、蓮ちゃん僕のこと知ってるのかな?」
「ん!ちってう!」



蓮ちゃんと言えば、全員が名前を名乗った言う訳でもないのに真を指差して名前を呼んだ。しかも、その呼び方をするのは一人しかいないはずなのに。もしかして、と思いつつも真は気づいてないのか気にしてないのか。名前を呼ばれて驚きつつも不思議そうに首を傾げて尋ねれば、蓮ちゃんは自信満々に答えてくれる。ちょっと回ってない舌足らずなところも可愛らしくて、俺たちはほっこりしてしまう。



「いずくがね、ゆーく!っていってうよ!」
「セッちゃんがいつも言ってるんだよね〜」
「ん!ゆーく!っていってうよ!」
「ぇえっ…!泉さん、蓮ちゃんの前でもそんなこと言ってるの…?」



真はびっくりした様子で蓮ちゃんに問いかける。蓮ちゃんがとすんなり話ができてる真がちょっと良いなって思った。



「なんなら、セッちゃんが蓮にゆうくんだよ〜って教え込んでたからね」
「泉さん…」
「いずくのゆーく!」
「蓮ちゃん、違うからね?!?!」



すごいな、瀬名先輩の刷り込みで完全に真の言葉は届かない。真は困った表情でアタフタ。相当教え込んでいたのだろうって言うのが目に見えてそれが面白すぎて俺たちは笑ってしまった。瀬名先輩の真って刷り込みの仕方が瀬名先輩らしい。すると俺の手が突然掴まれて、視線を移せばクリクリした瞳と目が合う。こうやって見ると、確かに優希さんにも似てるし、天城先輩にも似てるなと思った。


「まーく」
「おっ、俺の名前も覚えてくれたのか?」
「ん!」


初めて会った時の人見知りは嘘のよう。今ではすっかり慣れてくれた蓮ちゃんの笑顔に癒される時間となった。

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