娘の日常的記録



※燐音視点


「まっま!」
「はーい」


洗い物をしていた優希が蓮に呼ばれて返事をする。蓮は優希の足元でぴょこぴょこ動き回り、自分を見て見てとひたすら訴える。濡れた手をタオルで拭いて視線を移しながらしゃがみこむ。



「まっま、んぅ」
「ん〜っ」


自分の目線の高さ同じ位置にママが来たことにより蓮 はギュッと抱きついて、顔を思いっきり擦り寄せる。優希はされるがままの状態でそのまま蓮の行動を受け入れる。



「まっま、ちゅう!」
「ん、蓮はママのこと好きー?」
「うんっ!」
「ママも蓮のこと大好き〜っ」
「あーいっ!」


蓮 の最近のブームらしい。優希 にウリウリと顔を擦り寄せたかと思えば、そのまま優希 にチューをする。むふふと笑う蓮に対して優希も頬に両手を添えて嬉しそうにはにかんでいるし、蓮 もまた嬉しそうに両手を上げている。


「パパ、何やってるの?」
「んぅ?」


優希がギュッと蓮を抱きしめた後、ふと俺の視線に気づいたようで話しかけてきた。それにつられて蓮もキョトンとした表情で俺を見つめる。さっきまでの嬉しそうな表情はどこ行ったんだかなァ。


「二人が可愛すぎて動画撮ってンだよ」
「蓮、パパがビデオ撮ってるって」


ほら、蓮もカメラの方見て見て〜と俺の持っているスマホを指差して、蓮の視線を誘導してくれる。ママに言われて訳も分からず、手を振る蓮がこれまた可愛らしい。ぜってェ、今なんで動画撮ってるんだ?って感じだよな。








「って感じで、ホント蓮が可愛いんだけどよ」
「うん、蓮ちゃんが可愛いのはわかってるっすけど、めちゃくちゃ親バカ発動してるっすね」


普段なら絶対見せない優希と蓮の動画をニキに見せる。ニキは飯を食いながら画面を見つめてはいるし、優希が可愛いとも言ってはいたけれど、最後の一言がなんか癪に触るから足を蹴ったら、「痛いっす!」って泣きやがった。


「もぉ〜、燐音くんすーぐそうやって手とか足とか出す」
「可愛い蓮が分かればそれだけで良いンだよ」


ニキの小言を聞き流しながらスマホに映る蓮と優希に再び視線を移し、コップに入った飲み物をグッと飲み干す。今映る画面の中の蓮は楽しそうに笑いかけてくれていて自然と頬が緩んでしまう。それを、親バカと言われても仕方ないだろう、だってこんなにも可愛いんだからよ。



「ごちそうさまでした!」
「んぅ!にい!」
「おわっ!蓮ちゃん!」


ニキがちょうど両手を合わせてご馳走様をしたタイミング。狙ったように足元からひょこっと現れたのはさっきまでニキに見せていた蓮だった。ニキを驚かすつもりだったのか、静かにやってきてバァ!みたいなノリでやるもんだから、ニキはまんまと驚かされる。



「蓮来たのか」
「ん!蓮ちゃんよっ!」


ニキを驚かせられてドヤっと満足そうに笑うする蓮。さっきまで見ていた動画とはまた違った可愛さに癒されつつ、頭を撫でてやれば改めて自分の登場を表現していて、つい笑ってしまう。


「にい!だっこ!」


ちゃっかりニキに抱っこをおねだり。ニキは言われるがまま蓮を抱えてやれば、蓮は嬉しそうにニキに顔をスリスリ。本当によく懐いてるよなァ、と、ふとした時に何度も感心せずにはいられず、ぼんやりと蓮の行動を眺めることに。ニキも蓮とのやりとりに慣れてきて、蓮が何をしてもあまり動じなくなってきた。「蓮ちゃん、何か食べるっすか?」なんて言いつつ、話しかけているからなんだかんだでコイツも面倒見が良いよなァ、と懐かしくなるのは俺が初めて会ってからのこと。



それはもう遠くになってしまった記憶。



蓮もニキにこうやって懐くと言うのは血筋なのかもしれない。俺の場合、懐くと言うわけではないけれど。


そんなことをボーッと思い出していたせいで、気付くのが遅れてしまった。と言うよりは、思考が停止した。

ギギギッ…と首をぎこちなく動かして俺を見るニキ。そして両腕を伸ばした状態で蓮を抱っこしている。そのため蓮は必然的にニキから距離を置かれてぷらんぷらんと宙ぶらりんの状態で、「んぅ!」と嬉しそうにしていた。


「…おい」
「不可抗力っす」
「にい!ちゅう!」
「蓮ちゃん!!!」


やっと絞り出せた声は普段蓮の前では出さないほど低い声。ニキは俺の言葉に間一髪で被せるかのように返してきた。その表情は無であり必死さが伝わってくるが、そんなのどうだっていい。蓮に関してはぷらんぷらんとした状態でこの場の空気感も知らずに言葉を発するもんだから、ニキが若干声がひっくり返りながらも声を荒げる。悪りぃが俺は見てたからな?


「ニキ」
「僕は何もしてないっす」
「ア?」


感情を込めてニキの名前を再び口にしたが、ニキはやはり間一髪即答。なんなら微動だにしないでいる。


「あれ、何してるの?」


このタイミングでやってきた優希は俺とニキ、蓮の様子を見て首を傾げる。そりゃそうだ、訳わかんねェよな。しかし今俺は優希に説明している場合ではない。


「ちゅーちた!」


だから、優希はこのまま理由を知らずにいることになっていただろうに。ママの疑問の声、これに反応したであろう蓮は嬉しそうに自ら自分のやったことを優希に伝えたせいで、ニキの体がびくりと揺れた。


「優希ちゃんっ、不可抗力っすよ…!」


何とも言えない空気が漂う中、優希はとりあえず宙ぶらりんになった蓮を受け取り抱き抱える。その表情は蓮の言葉を聞いて悟ったらしい。なんとも言えない声が漏れているのがその証拠だ。ただこの発言だけでは、どう思われたかわからないニキは机に空いた手をつきながらも必死に訴える。



「蓮、最近ちゅーするのがブームになっちゃってるからごめんね、ニキくん」
「優希ちゃん〜!」
「んだよ、蓮とすンのが嫌なのかよ」
「えっ、そっちの意味でキレてたんすか?!」
「やったことにもキレてンに決まってンだろ」
「やっぱり!!!!」


蓮は悪びれもなくやったことだから、誰が悪いとかではないけれど、それでもやっぱり可愛い娘が他の男とキスするのは面白くない。遠い未来、いつかは来るものだとわかっているからこそ、今はまだ俺たちの腕の中にいる可愛い娘でいてほしい。



そして、同時に蓮のこの行動は優希との遠い昔の記憶が掘り起こされて恥ずかしくなったけど、ニキにキレて無理矢理それを誤魔化した。

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