クレビとライブ



※モブ視点


今日は待ちに待ったCrazy:Bのイベントだ。
小さな箱ライブでごく少数参加型の特殊なもの。あの夏の出来事以降、ユニットの知名度は跳ね上がり、それから数年。

人気に人気を集めたユニットだというのに、あの日のこと最初の駆け出しだった頃を忘れないため、近くでファンを感じたいから、という理由で行われる今回のライブ。それはもう倍率は普段よりも全然可愛くないものだった。

だけど、その倍率にも打ち勝って手に入れた今日の箱ライブ参加チケットはもういつも以上に嬉しくて、手が震えて夢かと思って何度も当選メールを確認したものだ。


マイキンブレは持った、電池の確認もオッケー。チケット番号は良いとは言えない番号、だからだから前に行くより見易さ重視で後ろにいることを選んだ。

こんなライブハウスなんて久々だなぁ、と思うのは大きなステージが当たり前になってしまったせいかもしれない。チケットはお一人様一枚までってよくあるやつ。なので、現地に友達はいない。


キャパが少ないと知っていても長いなと感じる待機列を目の前にして、自分の番号と前後の人たちの番号を確認して大体このぐらいかな、って位置で立ち止まる。列はすぐに動き出して、気づけばライブハウス内へ。中には先に入った人たちが前を中心に立ち並んでいた。同じようにキンブレを持ってソワソワしながら待つ姿は、みんな同じ仲間なんだなと実感させられる。




定刻が少し過ぎたタイミングでいきなり視界は暗転し、一瞬ざわめきが起きる。


「待たせたなァ!」


それはすぐに聞こえた声によって声のない悲鳴になり、ライトアップされたステージに彼らは現れた。


燐音くん、ニキくん、HiMERUくん、こはくくん。


大きな会場と違って箱の利点といえば、距離が身近に感じられることだ。箱の後ろの方とはいえ、それでも全然近いと思える距離に彼らがいて、ライブは始まった。



一曲、また一曲と曲は進む中、沸る血に従って身に染みてもはや条件反射の如く曲に合わせて振り続けるキンブレ。MVと違う生のパフォーマンス、それはライブならではのアイコンタクトとかメンバーとのやり取りがあってどれも目が離せない。


「コッコッコッ、Crazy:Bの桜河こはくや」
「Crazy:BのHiMERUです、みなさん楽しんでますか?」


ライブは進み、MCのターンになる。まず挨拶を始めたのはHiMERUくんとこはくくんだった。安定の落ち着きある挨拶であたしたちファンに向けて手を振ってくれる。スタンドにいるあたしたちはそれに応えるようにキンブレを振り返す。


「なっはは!みんなすごいっすね!」


そしてニキくんの順番になり、ニキくんはあの人懐っこい笑顔を浮かべて楽しそうに一面を眺める。



「にい!」


するとあたしより後ろの位置から、おそらくニキくんを呼んだであろう声がした。声からして小さい子の声だ。こんな箱のライブにちびっこまで来てるのか、きっとお母さんがクレビのファンなんだろうなって思った。



「はいはい、キンブレの色、全員赤に変えなァ!」


最後にマイクを取ったのはクレビのリーダーである燐音くん。みんなが一言目から自分の挨拶だったのに、燐音くんは一言目からみんなのキンブレを赤に変えろなんて今日も変わらず燐音くん節は健在である。燐音くんの一言によりあたり一面は、赤一色。それを見て満足した燐音くんは改めて口を開く。



「俺っちは天城燐音!今日は待ちに待った俺たちCrazy:Bのライブ!めいいっぱい楽しんで行けよォ!後ろまでしっかり見えてっからなァ!」



燐音くんはスタンド一面を見渡して、後ろまでって言う時に関しては本当に後ろにいるあたしたちに対して指を刺しながら言い放つ。もうそれだけでも嬉しいあたしたちファンは思いっきりキンブレを振った。ライブはまだまだこれからだ。




時間の進みは早い、しかも大好きなユニットのライブとなれば尚更だ。


気づけばライブは終盤、残り一曲も終わってしまった。今、スタンド内ではアンコールを求める声でいっぱい。いつだってこの瞬間はもっと見たいという気持ちでいっぱい、みんな必死だ。


「まっま、」
「んー、どうしたの?」


いつ始まるか分からないアンコールに全身の意識、特に聴覚の意識を傾けて、いれば後ろから小さい子とお母さんの話し声が自然と耳に入る。



「蓮、みーる?」
「ふふっ、いっぱい振ったら見えるんじゃないかな」
「ん!えいっ!えいっ!」



おっとまさかの小さい子の方がクレビのファンか?驚いた、チラッと後ろを見れば小さい女の子とその子を抱っこしたお母さん。お母さんの腕の中でその女の子は必死にダークブルーのライトを振っている。この子はニキくん推しなのか、お目が高いな。



「あの、見えますか?良かったら…」
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。それにこの子、何するか分からないので…」



最後の最後に今更すぎるけど、小さい子を抱えてのライブ参戦。そんな後ろで見えてたのかなって思ったら、つい声をかけてしまっていた。



「ニキくんが好きなのかな?」
「ん!にいすいよっ!」
「ニキくんかっこいいもんね」


抱っこされたその子は暗いスタンドでははっきりと見えたわけではないけれど、くりくりの大きな瞳が可愛くて、将来美人さんだろうなって思った。ニキくんが好きか尋ねれば、きちんとニキくんが好きと言ってキンブレを振るから凄い。英才教育でも受けてました?って言いたくなる、勢いよく振るもんだからたまにお母さんに当たんないかちょっと不安だったけど。



それからすぐにステージ上に戻ってきたクレビのメンバー。衣装チェンジして今回のライブTシャツを着ていた。「ありがとな、お前らの声ちゃーんと聞こえてたぜェ!」と燐音くん。そしてあれよあれよといううちに、最後のアンコール曲も終わってしまった。最後ステージを立ち去る前には燐音くんが投げキッスなんかしていて、黄色い声がスタンドから上がったのは言うまでもない。

ホント彼は盛り上げるスキルが凄い。ファンの喜ぶ言葉とファンサを知っている。キンブレの色を全部自分の色に変えさせた時とか、ぶっ飛んでるな〜と思ったけど、それもまた彼らしい。


彼らが退散してすぐ、退場となるはずだけれど、小さいキャパとはいえ彼らのライブ。熱量が凄まじいものだったから、退場についてのアナウンスがすぐに流れ始める。一旦待機を命じられて持っていたキンブレの電源をオフにしながら、ライブの余韻に浸りながらこの後の行動を確認する。


「まっま、ぱっぱいちゃたよ」
「パパにバイバイできた?」
「ん!ぱっぱばいばいしった!にいも!」
「そっか、良かったね」


アナウンスを聞いてたはずなのに、途中からさっきの親子の会話が聞こえてしまい、あたしは違和感を覚える。パパと言ったあの子は、あの親子は2人で来ていたはず。ニキくんにも手を振ったって話をしていたけれど、多分それはステージ上にいるニキくんは手を振ったと言う意味であろう。では、パパとは?


「んぅ!ねちゃ、ばーばい!」


ドッドッドッドッとうるさいほど早く鼓動を打ち始める心臓。あたしは自分の頭の中に浮かんだことが認められず、その親子の方に視線を移せば、さっきまでダークブルーだったキンブレも赤い。そのキンブレをブンブン振った女の子にバイバイと手を振られた。思わずあたしも振り返せば、母の方が軽く会釈をしてそばにいたスタッフさんに促されて行ってしまった。


「あ、え、今の…」



ライブ中、真っ暗だったから気づかなかったけど、今スタンドも明るいからわかる。さっきの女の子は見覚えのある鮮やかな赤い髪。そして、パパとニキくん。抱っこしていた母親は眼鏡をかけていたけど、あたしは彼女を知っている。


うっそ…、マ?


ライブの最後にとんだ爆弾を被弾してしまい、あたしのライブの余韻はどっかに行ってしまったのは言うまでもない。

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