つきのもの。



下腹部に感じる鈍痛。
最近調子が良かったから油断していたかも。痛み止め、あったかなぁ…と思いながら、薬をしまっているところを漁って市販で買った頓服を見つけてすぐに飲み込む。しかし、薬というのはすぐに効き目が出るわけではない。



「うーちゃ!ねーっ」



蓮の相手がまともにできないことが確定した今、蓮の様子を確認する。蓮はウサギのぬいぐるみと遊ぶことに夢中になって、一人で楽しそうに遊んでいるから大丈夫かな。

蓮はリビングにいるし、周り見ても気になるところがないことを確認して、あたしは自室に戻った。ダメだ、貧血気味なのか頭もクラクラする…。起きているのもしんどくて、そのままベッドの中に潜り込んで横になる。布団に入ったことにより、体が暖まってきて気のせいかもしれないけれど少しだけ不快感が和らいだ気がする。


横になって小さく体を丸めて目を閉じていれば、パタパタと蓮の足音が耳に届く。


「まっま」


あぁ、やっぱりいなくなると気付いたよね…と思って寝ることを諦めて、重くなった瞼を押し上げてみれば、ベッドサイドからあたしの顔を覗き込む蓮の姿。思ったより至近距離までやってきてて、視界いっぱいに蓮が入ってきて逆にすぐ焦点が合わなかったぐらいだ。



「蓮、どーしたの…?」
「んぅ?うちゃとまっまみっけた!」
「うん、そっか」


さっき一緒に遊んでいたお気に入りのウサギのぬいぐるみもしっかり持っていて、グリグリとウサギのぬいぐるみを押し付けられる。



「まっま、ねんねすぅ?」
「ん、ママ少しねんねしてもいいかな…、?」
「うん!まっまねんねよ、うちゃもいっしょにねんねすぅよ」


 
蓮はあたしが寝ようとしていたことに気づいたようで、あたしが寝ても良いかと聞けば肯定してくれたことに胸の中がジーンとする。なんなら、ウサギのぬいぐるみも一緒に寝ると言い始めて、布団の中に押し込んできた。



「んぅしよっ」



ウサギのぬいぐるみを押し込んだ後、蓮は両手をつきながらベッドの上に這い上がって座り込む。掛け布団の端が巻き込まれているけど、まあ良いかな。



「まっま、ねんねすぅ!ねんね〜」


どうやら蓮はあたしを寝かしつけてくれようとしているらしい。ポンポンと布団の上からリズミカルに触れている。なんなら、ドヤ顔だからこれは多分寝付いたと思うまで満足しなさそう。


これは逆に好都合だ、と思って素直に「うん、おやすみ」と言って再び瞳を閉じた。












気づけば意識は飛んでいて、次気づいた時にはあたしの胸元で何かがモゾモゾと動いている感覚だった。


「ほら、蓮出てこいよ」
「んぅううう」


耳に入ってくるのは燐の声。どうやら、仕事を終えて帰ってきたらしい。そっか、もうそんな時間…?もしかしてかなり寝てたのかも、と思って薄っすらと瞼を開ければ、困った表情でベッドサイドから覗き込む燐の顔。



「あ、悪いな…起こした?」
「んん…、平気。ごめん、結構寝てた…?」
「アレだろ?仕方ないから」


燐には全てお見通しだったようで、あたしの頭をそっと撫でてくれる手に優しさを感じる。ふっと緩む頬。だけど、起きたばかりで現状が掴めなかったあたしは、段々と頭が覚醒してきて気づくことがある。



「っぐすっ、ん、」



あたしにぴったりとくっついていたのは蓮の姿。寝付く前まではベッドの上に座っていて、ここにはウサギのぬいぐるみがいたはず。それが今、蓮に変わっていてウサギのぬいぐるみは何処へやら。しかも耳を澄ませてみれば驚きしかない。



「え、蓮どうしたの…?」
「んぅ、ぐすっ」



蓮が一人声を押し殺しながら啜り泣いていたのだから。
びっくりして思わず上半身を起こして蓮を見るが、蓮はあたしにぴったりくっついて顔はベッドに押しつけたまま。何があったのかと思って燐に視線を移すが、燐は困った表情を浮かべたまま肩をすくめる。



「俺が帰ってきた時は既に泣いてたンだよ」


ってことは、かなりの時間経過の中で蓮は一人で泣いていたのに気づけなかったということになる。なんとか無理やり抱き起こしてみれば、蓮は小さな手でギュッとあたしの洋服を掴んだ。



「蓮、どうしたの…?どっか痛いの…?」
「…ぐすっ、んぅ」



起き上がってわかったのはベッド脇の床にウサギのぬいぐるみが落ちていたということ。燐に取ってもらって、ほらウサギさんだよと声をかけてみても首を横に振るだけ。



「蓮、ほらママもおっきしただろ」
「あれかな、ママ寝ちゃってつまんなかったのかな」




燐もあたしも蓮に声をかけながら、いろんなことを考える。不貞腐れちゃったのかつまんなかったのか。まず時間が確認してないから、もしかしたらお腹が減ってるのかもしれない。



「…ぐすっ、まっまっ、ぃた、ぃたい…」
「蓮、どこが痛いの?」
「んんっ、まっまッ、まっまよっ」



蓮の顔がやっと見えた時には、蓮は大きな瞳をすごくウルウルさせてあたしに訴えてくる。



「まっま、いたぃ、ん、ぅ」



ギュッとお腹のあたりを抱きしめる蓮。そっと頭を撫でてあげれば、再び顔を埋めてしまう。



「蓮、ママのこと心配になっちまったのかもな」



そっと呟いた燐の言葉にあたしは思わず顔を上げた。



「前にあっただろ。優希が具合悪くなったところ一彩が見つけて慌ててたこと」
「あ、うん…」
「あの時、一彩の奴も訳わかんねェ状態で、すっげェ不安そうな表情しててさ。優希が寝てるところ、見てて蓮も気付いて怖くなっちまったのかもな」



燐の話を聞いてあたしは言葉を失う。
蓮に再び視線を戻して頭を撫でながら振り返ってみる。確かに最初は蓮は普段通りで何もなかった、けどあの時のあたしは痛み止めを飲んだ後で眠りについた後は…?



「蓮、ごめんね」



子供って、敏感だもんね…。


母さまが言ってた言葉を思い出す。




「ママ、大丈夫だよ。蓮が一緒にねんねしてくれたからもう大丈夫」
「んぅ」
「ありがとね、蓮」







実際問題、燐もあたしも憶測でしかないけれど、

あたしを寝かしつける中、蓮はあたしの様子を見て不安になったのかもしれない。

もしかしたら、声をかけてもあたしが起きなかったのかもしれない。


燐の言ってたことやあたしの考えが本当なら蓮に申し訳なかった。けど、それ以上に蓮の気持ちが嬉しかった。

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