娘とニキ2



※椎名視点


透明なグラスに透き通った氷をめいいっぱい入れていく。入れるたびにカランカランと涼しげな音が響く。そして氷を入れ終えた後、準備していた紙パックの焼酎を注ぎ入れる。タプッタプッと音が漏れ、焼酎が入る振動で氷がまたカランと音を立てた。


「こうやって氷入れて、酒は多めっしょ」
「…酔わない程度にしてくださいね〜、燐音くん」
「きゃははっ!誰に言ってンだよ」


燐音くんが聞く耳を持たないのはわかっていたけど、言わずにはいられない。というより、一応言っておこうってぐらいのスタンス。だから、返って来た言葉も予想通りのもので、そうっすよねぇぐらいにしか僕も思わなかった。


今日は燐音くんのところでご飯。燐音くんは相変わらずお酒を呑んで、たまにおかずをつまむ程度。僕は逆にお酒は呑まずに料理をひたすら食べる。


「にい、おいちーねっ」


さっきまで、蓮ちゃんも子供用の椅子に座って優希ちゃんが準備した蓮ちゃん用の子供食器に入ったご飯をフォークで頬張っていた。と、言うのも蓮ちゃんはいつの間にか食べ終わり、何処かへとバタバタといなくなってしまった。こうやって大勢で食べるご飯は美味しい。燐音くんと出会ってから、二人で食べるご飯も美味しいと感じてはいたが、人数は増えれば増えるほど満たされる。

料理人として自分の作ったものを食べてもらえる喜びもあるが、人に作ってもらえるのもまた嬉しい。

僕は完全に優希ちゃんのご好意に甘えてこうやって此処を訪れては一緒にご飯を食べる、そんな時間を月の何回か、タイミングと時間の許す限りを過ごしていた。




オカズの入った皿もだいぶ空になって来たころ、空いたお皿は優希ちゃんが回収してくれて今はキッチンで洗い物をしているんだと思う。それでもまだ残っている料理を食べていれば、テーブルの端でカタ、カタッと何かが置く物音がする。


「んぃ?」


新しい料理はもうないはず、ではデザート?けど、優希ちゃんはまだキッチンにいて水の流れる音がする。燐音くんと言えば逆側でお酒のおかわりをするために、再び氷をグラスに追加していた。心当たりがなさすぎて、なんだろうと思って視線を移して見ればそこにあったのは星。


「んぅ、んぅ」


正確に言うならば、星型のリングライト。
しかもよく見れば、めちゃくちゃ見覚えのあるデザイン。僕たちCrazy:Bのリングライトだった。


蓮ちゃんの小さな腕の中には複数個のリングライトがあり、それを一つずつテーブルに並べていたのだ。



「…蓮ちゃん、いっぱい持ってるっすね?」
「ん!」


どう反応するのが正解か分からず、とりあえず見て思ったことを伝えれば蓮ちゃんはドヤ顔を浮かべていたので、正解だったのかな。一旦並べたリングライトを、次はカチ、カチッとスイッチを入れて再度並べ出す。そして食卓テーブルの上は、料理の残り皿とリングライトという異様な光景が広がっている。



「燐音くん!蓮ちゃんめちゃくちゃリングライト持ってるんですけど!!!しかも僕の!!!」
「ァアッ?仕方ねェだろ、蓮が欲しいって言うンだからよ」


燐音くんはそう言って持っていたグラスを傾けて、グイッとまた酒を呑む。テーブルに広がるリングライトは全てダークブルーであり、僕のイメージカラーと同じ。よく見れば僕のサイン入りのデザインで、間違いなくこれは僕のリングライトだった。それを突然並べ出した蓮ちゃんは、僕に見てもらえて嬉しそうに笑ってる。


「にい!にいのよ!蓮、いっぱよ!」
「なははっ、蓮ちゃんいっぱい持っててすごいっすね」


正直、同じ仲間の家に、正確には仲間の子供ねはあるが、こうやって僕のリングライトが並べられているのも、なかなかにない光景だと思った。料理も残り中途半端だから仕方ないとは言え、この寒色系の電気がそばにあるだけで、見た目的に美味しそうでは見えない。というか、ひたすらに見栄えが悪い。蓮ちゃんの作ったものは間違いないけれど、料理の見た目とか美味しそうって駆り立てられる欲への刺激になるとかも考えてる料理人として気になるところ。


「にい!」
「はいっす!蓮ちゃん、他の色は持ってないんすか?」
「んぅ?」


正直言って僕の色ばかりで嬉しさ半分、これを買った燐音くんたちを同情した。自分の娘が自分じゃない色ばかり持ってる訳で、燐音くん寂しいだろうなぁと。蓮ちゃんは僕のばかり見せてくれるけど、他にもあるかもしれないしって気持ちと残りのご飯が食べたくて問いかけて見れば、一回だけ首を傾げ後また違う部屋へパタパタと行ってしまった。


「にい!」
「んぐっ、もう持って来たんすか?」


かと思えば、二、三口食べ進めたぐらいですぐに戻って来てしまった蓮ちゃん。その手にはしっかりと他のリングライト…、えっ、何個あるんすか???


ガラガラガラッ


「っおい、蓮いっぱい持って来たのかよ」
「ん!蓮ちゃんのよ!ぱっぱ!」


この量はさすがの燐音くんも驚きだったようで、テーブルの一角がリングライトだらけ。


「えー、しかもこれ…Knightsのっすよ?」
「いずくのよ!こーね、つかちゃ!」


次に見せてもらったものはKnightsの文字ばかり。たまにこはくちゃんとHiMERUくんの名前もあるけれど、そこに燐音くんのだけはなかった。リングライトはもはやおもちゃ扱いな気もする。まあ確かに光るし子供は光るものが好きだから欲しくなるのかもしれないっすけど。



「Knightsの奴らが蓮に持ってきてンだから仕方ないっしょ」


あ、これはKnightsの人たちが自らあげたんすね。それもそれで凄いっすよ…。



「にい、みーて!」
「はいっす!蓮ちゃんいっぱい光ってて凄いっすね!」
「ん!」


ああもう蓮ちゃんは見て見てな年頃なのか、少し視線を逸らしただけでもすぐ呼ばれるっす。再度蓮ちゃんを見たら自分の指に嵌められる限りのリングライト(しかも僕の)つけてて満足そうに笑ってた。


自分にファンがいるのは純粋に嬉しいし、こうやって認められるのも嬉しいっすけど、なんかこそばゆかったっす。



「にーい!みーて!」
「えっ、蓮ちゃんいつのまに髪の毛にもつけたんすか?!?」



まあ、リングライトを自分の髪にも髪飾りのようにつけていた時は驚いたっすけどね。
(そして燐音くんと弟さんのだけは優希ちゃんがしっかり保管してて安心したっす!)

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