娘とニキBD



来る10月5日、


この日に備えた前日のこと、日付的な意味合いは蓮はまだしっかりと理解はできていないけど、あたしが言えば俄然やる気を出して食卓テーブルで高台の椅子に乗っかって構えていた。



「まっま!つくぅよっ!」



目の前にはお肉やキャベツなどを混ぜたものだったり、何も乗っていない大皿だったり。見えないところで言うならば、キッチンにはまた別の材料を置いてあったりする。



「蓮、袖が汚れないように折ろうね」
「んぅ」


蓮の洋服の袖を折り捲ってあげれば大丈夫だろう。



「じゃあ美味しいの作ろうね」
「あーいっ!」



元気よく返事をした蓮は両手を掲げたその姿が可愛くて、あたしは癒されつつも意気込みを入れて取り掛かったのは数時間前のこと。



「ここをこうして…」
「まっま、まっま」
「これで、はいっ!できたよ〜」
「あーい!!!でった!!!!」



蓮の熱視線を受けながら、横で興奮気味にぴょんぴょんと飛び跳ねる中、なんとか手元のものを整えてあげれば完成したそれ。蓮はキラキラした瞳で、それを大事そうに持ち上げた。


















「おい、ニキ」
「んぃ?」
「来客だぞ」



燐音くんに名前を呼ばれれば、顎でとある方を差す。つられて、視線を向けてみればそこにいたのは、




「にいっ!」



めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を浮かべた蓮ちゃんだった。



「蓮ちゃんじゃないっすか〜!どうしたんすか?」
「にいっ!蓮ね、にいにね、これねっ」



蓮ちゃんはいつだって僕と会う時はとても嬉しそうにしてくれる。それは今日も変わらず、むしろいつも以上に興奮した様子で足をパタパタと動かしながら駆けてくる。その手には何かを持って、パタパタと。





ずてんッ




「蓮ちゃん?!?!」




僕のところに来る前に思いっきり滑って転んでしまった。不幸中の幸いとして、蓮ちゃんの転び方は足元を滑らせて尻餅をついた形。なので、うまく受け身と言っては良いかわからないけれど、外傷は少なそうだ。




「んぅ…」




転んだ本人も、何事かと状況が掴めてない様子で目をパチクリさせるだけ。泣かなかったことにもホッと胸を撫で下ろす。




だけど、蓮ちゃんはキョロキョロと突然し始めたではないか。何かを探している様子だけど見つからないらしい。両手を床につけて立ち上がろうとした時、蓮ちゃんの下敷きになっている何かがカサリと音を立てた。



それは本来であれば綺麗にラッピングされていたはずのもの。思い返せば、さっき蓮ちゃんが両手に持っていたそれだった。そういえば、それがどうこう言ってた気がするし、燐音くんも蓮ちゃんがすっ転んだのに駆け寄らないのも珍しい…なんて思っていたら、次は僕がギョッとしてしまう。




「う"っ…ぐすっ」





さっきまで満面の笑みを浮かべていた蓮ちゃんが転んでも泣かなかったのに、自分の下敷きになった何かを見つめてボロボロと涙をこぼし始めてしまったからだ。



「ぐすッ、う"ッん、」
「えっ、蓮ちゃん?!えっと、ほら泣かないでほしいっすよ〜!」




とりあえず何ができるかわからないけれど、蓮ちゃんのところに駆け寄り、しゃがんで目を合わせる。涙をボロボロ溢しているのに、泣き喚かないその姿はまるで何かを我慢しているようだった。手元を見ればピンク色のラッピングされた袋。微かに鼻をくすぐる甘い匂いは多分この中からだろう。




「に"い"っ、こ、っれおがぢっ、ぐすっ」
「う〜ん、」



蓮ちゃんには申し訳ないけど、涙声と嗚咽混じりのせいでうまく聞き取れない。だけど、聞き返すこともできない僕はひたすら溢れ出る涙をそっと拭うだけ。




「ニキくん、それね、蓮がニキくんに作ったお菓子なの…」




いつからいたのか、それとも最初からいたのかもしれない。気づけば優希ちゃんがいて、話してくれた。




どうやら蓮ちゃんの手に持ってるのは優希ちゃんと一緒に作った手作りのお菓子らしい。蓮ちゃんが僕のために作ったのだという。

それを早く渡したくてここまで来てくれたのは良いものの、さっきのようにずてんと転んでせっかく使ったお菓子はぺしゃんこ。



「おがぢっ…、蓮ぢゃッ」



蓮ちゃんは必死に堪えながらも、止まることを知らない涙はボロボロと零れ落ちる。



「蓮ちゃん、」



僕は蓮ちゃんの手の中にあった潰れてしまったその可愛らしい袋を手に取った。そのままカサカサと袋を開けて覗いてみれば、砕けてしまったクッキーたち。どんな形をしていたのだろうか、見事それぞれが二つ以上に割れてしまっていて原型はパッと見分からない。



「蓮ちゃん、見て見て」



だけど、蓮ちゃんがせっかく僕のために作ってくれたクッキー。優希ちゃんと一生懸命生地を捏ねて、一緒に型を抜いたのかなと想像する。きっと蓮ちゃんのことだから、すっごい楽しみながら作ってくれたんだろうな。



「蓮ちゃんの作ってくれたクッキー、ここにちゃんとあるから泣かないでほしいっす」
「に"い"っ…」
「なははっ!しかもすっごい美味しいっすよ!蓮ちゃんが一生懸命作ってくれたからっすかね?」



グズグズする蓮ちゃんの目の前で適当にかけたクッキーを一粒口に放り込めば、甘い生地の味が口に広がる。



「ッ、ぐすっん"ぅ」
「蓮ちゃん、すごいっすよ〜。こんな美味しいクッキー作れるなんて!このクッキー、僕にちょーだいっす!全部食べたいっすよ!」



そう言えば、蓮ちゃんは涙でぐしゃぐしゃの顔で抱きついてきた。ポンポンと背中を撫でてあげれば、蓮ちゃんの嗚咽も少しだけ落ち着いてきた気がする。
よくあるクッキーの味だけど、それ以上に蓮ちゃんの気持ちが嬉しかったから。
例え蓮ちゃんの下敷きにって砕けちゃっても食べれるものは、ちゃーんと貰うっす。













そして、



目の前には子供用のフォークに見事ぶっ刺さった餃子。



「にい、あーちて」
「ん、あー」



蓮ちゃんに言われるがまま、口を開ければその餃子を口に入れてくれたっす。なので、僕は素直にそれを咀嚼する。


あれから、泣き止んだ蓮ちゃんと一緒にやってきたのは燐音くんの家。ここで今日は夕飯をご馳走になってるのだけれど、僕の横に座る蓮ちゃんは先ほどからこうやって餃子をフォークに刺しては僕に食べさせてくれるのだ。



「にい、おいち?」
「美味しいっすよ〜」
「んぅ!にい、もいっこ!あーよ!」



優希ちゃんいわく、この餃子たちも一緒に作ったらしい。見ると形は歪なものと綺麗なものが極端にわかれている。さっきから蓮ちゃんが僕に食べさせてくれているのは、もちろん歪な形の餃子たち。
優希ちゃんが多少修正済みの蓮ちゃんが一生懸命作ってくれたという。




「蓮、パパにもあーしてよなァ」
「ぱっぱは、んーんっ。にいのよ!」




それを分かった上で燐音くんも便乗するが、頑なに蓮ちゃんはあげようとしない。強い意志を感じるっす。



「蓮ちゃんは良いお嫁さんになるっすね」
「にいの、なぅよ」
「え、僕のお嫁さんになるっすか?」
「ん!蓮がなぅよ」
「ァアっ?おい、ニキ!」
「いやいや、蓮ちゃんが言ってるんすよ?!?!」




蓮ちゃんのお嫁さんなる発言には驚いたっすけど、どれも嬉しいプレゼントっす!
誕生日はいつだって、嬉しくなるもんっすね〜!


ありがとうございます!蓮ちゃん!




2021.10.05
にいおめっと!!!

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