娘とALKALOID



※白鳥視点



「ひぃいいいいいい!!!」
「んやぁああっ」




突然、響き渡る声。それはこの場に似つかないものの、聞き慣れたものと聞き慣れないものの二つが耳に届く。



声のした方に近づいてみれば、背中を丸めているマヨさん。よく見れば、なんか震えてる。



「あぁ、愛くるしいですぅううう」
「マヨさん、何やってるのォ?」
「藍良さん、実は可愛らしい生き物が」



ハァハァ…と興奮気味のマヨさんは、頬を赤らめながら視線の先、の部屋の隅っこを指差した。おれも指差につられて視線をそっちに向けてみれば、部屋の隅で小さい何かを確認する。



「んぅうう」



その小さい何かは、おれと目が合えば少しだけ体をびくりと震わせて小さなくぐもった声が漏れた。赤毛…それに何処となく既視感があるのは、気のせいではないはず。しかも、見たことのあるウサギのぬいぐるみをギュッと抱きしめて、不安そうな色を浮かべた瞳をユラユラさせていた。



「えっ、なんでここに…?!」



この場に似つかない年頃の女の子がいて驚かないわけがない。え、迷子???じゃないよねェ…?



「ただいまっ!」
「戻りましたよ。…お二方、そのような場所でどうしたんですか?」
「あ!タッツン先輩!ヒロくん!」



後ろからヒロくんとタッツン先輩の声がして、そうだった!と思い出す。ここまで来る道のりの途中でヒロくんとタッツン先輩に会ったんだけど、ちょっとコンビニに行ってくるなんて言ってたから、おれは先にマヨさんとここで待ってる話になったんだった。
 


「おかえりなさいですぅ〜、愛くるしい故に遠目から見ていたのですが…」




そしたら、マヨさんが小さい子と謎の距離を保ちながら縮こまってたってわけェ。さっきよりは落ち着いてきたマヨさんだけど、それでもまだ興奮状態が見てわかるよォ。




「んぅううう」




突然、おれの横をタタタッて何かが過ぎ去った。それが、さっきまで部屋の隅で縮こまってた小さい子だと気づいたのは、おれの横を通り過ぎてヒロくんの足に隠れるように抱きついてからだった。



「おやおや、一彩さんがいなくて寂しかったのですね」
「そうなのかい?待たせてしまってごめんね」
「んぅ」



タッツン先輩は微笑ましそうに笑みを浮かべて、その言葉を聞いてヒロくんも少しだけ申し訳なさそうにしながらその子を抱っこする。タッツン先輩のいう通り、ヒロくんがきたことが本当に安心したようで、ギュッと抱きついて顔が見えなくなってしまった。なんかコレ、デジャヴなんだけど?




「ヒロくん、この子ってもしかして優希さんの」
「ウム!兄さんと姉さんの子供の蓮だよ!」
「やっぱり〜!!!わぁ!大きくなったんだねェ」



やっぱり!前にレッスン室でヒロくんが抱っこしてた赤ちゃん!優希さんたちの赤ちゃんだったんだねェ〜。すっかり大きくなっちゃってビックリしたよォ!


「蓮ちゃん、こんにちは」
「…」
「あはは…、」
「ム?蓮、藍良だよ!」



ヒロくんに抱きついたままの蓮ちゃんに声をかけてみるも無反応。振り返ってすらもらえなくてちょっぴり悲しい。蓮ちゃんの反応を見て、不思議に思ったヒロくんが抱っこしていた蓮ちゃんを軽く揺さぶってみるが反応ないし、むしろ蓮ちゃんがかわいそうだよォ?!



「いいよヒロくん。多分、人見知りしてるんだろうから」
「ウム、巽先輩には人見知りしなかったから大丈夫だと思ったんだけどね」
「そうですね、もしかしたら緊張されてるのでしょう」



えっ、タッツン先輩の時は平気だったの?まず、タッツン先輩は既に会ってたの???どんな感じだったのかな〜、めちゃくちゃ気になる〜!



「きっと私のせいですよねぇえええ、すみませぇえええん!!!」
「マヨイさんのせいでもありませんよ、きっと」
「蓮、大丈夫だよ!」
「あぁっ!ヒロくん!だから、蓮ちゃん揺らしちゃかわいそうだよォ〜?!」



マヨさんはマヨさんで嘆いてるし、ヒロくんは蓮ちゃんの扱い方が危なっかしいんだけど?!蓮ちゃんも、むぅって顔しながらウサギのぬいぐるみしっかり抱きしめたまま上下に振られてて、すごいんだけどォ…。

















結局、あれから蓮ちゃんがむぅってしてた理由はすぐに発覚した。ヒロくんに抱っこされていた蓮ちゃんが、モゾモゾさせながら「ひちゃ…ちっこ…」って呟いたからだ。ヒロくんはすぐに「ウム!おしめだね!」なんて言いながら、オムツを変えてあげる。蓮ちゃんはどうや、オムツが気持ち悪かっただけらしい。

スッキリ落ち着いた蓮ちゃんは、気分も良くしたようで、ヒロくんの膝の上にちょこんと座りながらおれたちをくりっくりの目で見つめてくる。



「蓮ちゃん、可愛いウサギさんだね」
「んぅぅ〜、うちゃよ」
「ウサギちゃん大好きなんだねェ」
「蓮のうちゃっ!」
「そっかそっかァ」



ウサギのぬいぐるみを褒めてみれば、蓮ちゃんは嬉しそうに紹介してくれる。えぇ〜!かわいいんだけどォ?!?!



「ラブ〜いっ!!かわいいねェ」
「んぅ?」
「ふふっ、蓮さんはいい子ですね」
「可愛らしいですぅうう」



タッツン先輩やマヨさんからも褒められた蓮ちゃんは、キョトンとするも言葉を理解した途端、気恥ずかしいのかウサギのぬいぐるみに思いっきり顔をウリウリと押しつけ始めた。



「んぅうううう」
「蓮良かったね!藍良たちにいっぱい褒めてもらってるよっ!」



蓮ちゃんの反応はヒロくんも嬉しかったようで、ヒロくんもすっごいニッコニコだよォ。それにヒロくんの言葉にまた気分を良くしたのか、蓮ちゃんは次にヒロくんの胸元に顔を埋めるように擦り付ける。



「いいなァ、ヒロくん。こんなかわいい姪っ子がいて!こんなかわいい姪っ子がいたら、おれも毎日甘やかしたくなっちゃうかも」
「ウム!蓮は大好きな兄さんと姉さんの子どもだからね!すっごくかわいいよ!」
「…、ちゃ」
「なにかなァ〜?蓮ちゃん」



蓮ちゃんに顔をめっちゃくちゃ押し付けられても気にしないヒロくん。こうして見ると髪とか血筋だなァ〜って思うし、やっぱりヒロくんが羨ましい!なーんて思っていたら、ヒロくんへの擦り付けタイムが終わった蓮ちゃんの目と目が合う。



「…あいちゃ、かあいーよ」



えっ、蓮ちゃん、今かわいいって言った?

しかも、おれの名前言ってくれたよねェ?!?!



おれはびっくりして言葉に詰まらせていたらすぐに蓮ちゃんは「んぅうう」と、ヒロくんでまた顔を隠してしまう。



「めちゃくちゃラブ〜いっ!!!!」








「照れ屋さんですかな」
「あぁ、照れてる姿も愛くるしいですねええええ」

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