娘の反抗期?2
※椎名視点
この日は突然やってきた。
僕たちがいるのはESビルの中にある会議室。
燐音くんの発案で、今後の活動スケジュールの打ち合わせをここでやりたい、と言うものだった。
そういう提案は別に珍しいことじゃないし、燐音くんだからなぁ…と何故か納得せざるを得ない。
だけどこの日は違ったんだ。
僕もこはくちゃんもHiMERUくんもいるのに、時間を過ぎても姿を現さない燐音くん。
ここまではよくある話だったんだけど…、
「ちわーっす!」
会議室の扉が開いて、やっとお待ちかねの燐音くんがやってきたと思って、小言の一つや二つ言ってやろうなんて思いつつ、痺れを切らして視線をそっちに向けて驚いた。
「蓮ちゃん…が…、」
燐音くんと一緒に現れたベビーカー。
ちょっと驚いたっすけど、最近の燐音くんを思えばそんな時もあるので珍しくないのだけれど、ベビーカーに乗っている蓮ちゃんを見て僕は改めて驚いてしまった。
と、言うよりはショックの方が近いかもしれない…!
「蓮ちゃんがグレてるっす…!!!!」
僕たちの目の前に現れたのは燐音くんとベビーカーにふんぞり返って座る蓮ちゃんだった。
最初、視界に捉えた燐音くんを見た時、今日はサングラスかけてるんすかぁ…ぐらいにしか思わなかった。なんなら、手元にベビーカーがあって、蓮ちゃんも一緒だったんすね、って思う程度。
スケジュールの兼ね合いで多分優希ちゃんが見れなかったんだなってなるのは、蓮ちゃんが生まれてから割と当たり前になった話で、僕もそうっすけどHiMERUくんもこはくちゃんも了承していることである。
「可愛いっしょ、蓮」
ふふん、と自慢げに笑みを浮かべる燐音くん。たしかに、蓮ちゃんは可愛いっす。
本当に燐音くんの子供っすか?って思うぐらい、キラキラした笑顔でめちゃくちゃ懐いてくれててご飯美味しそうに食べてくれてお菓子僕にくれるし、ほっぺたぷにぷにで手足とかもちもちのパンみたいで美味しそうだな〜って!
感じなのに!
今目の前にいる蓮ちゃんは、サングラスをかけてベビーカーに座って手と足をでーんとさせて、まるでふんぞり返ってるような雰囲気…。
「蓮ちゃんがグレてるっす…」
やっぱり燐音くんの血筋っすか…こんなにもグレちゃって…。
と心の中で呟いたつもりが、何故か燐音くんにバレて頭を殴られた、痛いっす。
「目元見えへんだけで、燐音はんの血筋ごっつわかりやすいなぁ」
「普段、笑顔だからこそですね、元々は天城似ですから」
「俺っちの子だからなァ」
「目元見えないだけで、めちゃくちゃガラ悪そうっす…」
っ痛いっす!また燐音くんに殴られた!
こはくちゃんもHiMERUくんも言ってたのに何で僕だけ…?!って反論しようとしたら、燐音くんの目がマジ怖だったんで黙ることにしたっす…。
「っていうか、蓮ちゃんいるのにそんなボカボカ殴って良いんすか?!」
「ア?良いンだよ」
「なっ、蓮ちゃんが泣くっすよ〜?!」
「泣くわけねェっしょ」
何故なら…、と意味ありげに含み笑いを浮かべる燐音くん。
ゴクリと思わず唾を飲み込んだ。
「蓮は今寝ちまってるからなァ!!!!」
「そんなぁ〜?!!!!」
「…大声上げると蓮ちゃんが起きますよ」
結局ふんぞり返っているように見えた蓮ちゃんは、燐音くんの言う通りサングラスをかけたまま移動中に寝てしまったようだ。だから燐音くんも好き勝手できたんすね…。寝ちゃってるなら仕方ないっす、僕たちは蓮ちゃんをベビーカーに乗せたまま、予定通りの打ち合わせをし始めた。
結局あれから、打ち合わせが一区切りつく頃まで話は続き、
「ぶんぶん!」
蓮ちゃんが起きたことをきっかけに一区切りついた打ち合わせもそろそろお開きにしようと言う流れから、自然と蓮ちゃんとの触れ合う時間に切り替わっていた。
「蓮」
「ぶぅん!」
ベビーカーから下ろしてもらった蓮ちゃんは、寝起きスッキリ目覚めも良いらしく、会議室の中をとてとてと駆け回る。何故かわからないけど、ぶんぶん声を上げている蓮ちゃんは燐音くんに名前を呼ばれて僕たちの前でピタッと立ち止まる。燐音くんいわく、優希ちゃんに買ってもらったサングラスが最近のお気に入りらしい。ピタッと止まって、こっちを見る顔はめちゃくちゃドヤ顔でキメてるから噴き出しそうになる。
「蓮ちゃん、可愛らしいなぁ」
「えぇ、蓮ちゃんとっても似合ってますね」
こはくちゃんとHiMERUくんから褒められた蓮ちゃんは気分を良くしたようで、少しだけ、一瞬だけふんっ!とした。
「蓮」
「んぅ?」
「あれ、ニキに言ってやンな」
気分を良くした蓮ちゃんに、そう発案する燐音くん。すっごい良い笑顔で逆に不気味っすけど、さすがの燐音くんも蓮ちゃん使って変なことはしないはず。むしろ、かわいい蓮ちゃんから何を言ってもらえるのかな、ってワクワクっす!
「あーいっ!」と大きなお返事ができた蓮ちゃんは僕の目の前にやってきてこう言った。
「うざあいっ!」
「…」
「にい!うざあい!」
「…蓮ちゃんがグレてる?!?!」
かけてたサングラスを勢いよく外しながら言い放った言葉に僕は一瞬聞き間違えかと思った。
けど、蓮ちゃんは僕の気持ちとは裏腹にまたサングラスをご丁寧にかけ直して、同じように勢いよく外しながら言葉を放つ。
いやいやいや、蓮ちゃんこういう子じゃなかったっすよね?!?!びっくりし過ぎて、思わず大声をあげれば燐音くんはケラケラ笑ってるし、HiMERUくんやこはくちゃんもポカンとしてたっす!!!!燐音くんの刷り込みっすか?!!!
「んぅ?にい、いずくよ!」
「ん?もずく?」
「どんだけ食べ物思考なんだよ!さすがにもずくはねェっしょ」
蓮ちゃんの言われた言葉がもずくに聞こえて、さすがの僕でも違う気がしたけどそれ以外が浮かばず聞き返してみたら燐音くんがまたツボったようでめちゃくちゃ笑ってきたっす…。
「あぁ、なるほど。瀬名先輩ですね」
「んぅ!いずくよ〜!いずくのうざあい!」
HiMERUくんの言葉が正解だったようで、蓮ちゃんは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながらまた言葉を繰り返す。あ、瀬名くんのマネ…、そっか、優希ちゃんニューディ所属だしKnightsの人たちと仲良しっすもんね。必然的に蓮ちゃんとの絡みも多いわけだ、とここでやっと全てがつながり納得できた。
「僕はてっきり燐音くんが覚えさせたのかと思ったっす」
「ァアッ?俺っちが蓮にこんな言葉覚えさせン訳ねェっしょ」
「うぐっ、僕のしっぽ引っ張らないでほしいっす〜!」
つい、ポロッと思ってたことを言葉にしてしまい、それは燐音くんの耳にも届いてたようで容赦なく僕の後ろ髪を引っ張られたっす、痛い…。そのやりとりを見て、こはくちゃんはため息を一つ吐きながら「ニキはんも学ばへんな…」と呟いたのが聞こえた。
「にい、いたいいたい?」
「なはは〜だいじょーぶっすよ〜」
覚えた言葉のせいでグレたかと思っちゃったすけど、僕のことを心配して覗き込んでくる蓮ちゃんはいつも通りで安心したっす。
お願いだからグレないでください!!!
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