娘の反抗期?



ジリジリと暑い日差し。

噴き出る汗、焼ける肌。

そのため、水分をしっかりと摂って、日焼け止めは念入りに。

しかしどんなに対策をしたって、目的に合った対応をしなければならないもので、例えば焼けるのは肌だけではない。





これは、本当にたまたま出かけた時に見つけたもの。

何もないよりはいいかな、と思って買ったもの。

蓮にあげれば、蓮はお気に召したようで嬉しそうに身につけていた。





「ぶんぶんっ」



蓮はいつものようにお気に入りのウサギのぬいぐるみを持って家の中をぱたぱたと動き回っている。



「蓮」
「ぶんぶんっ!」



名前を呼んでみれば、蓮はあたしの目の前で立ち止まって、ドヤ顔を浮かべている。その顔が自分なりにカッコつけているのだろう、しかしやってることはあまりにも可愛らしくて、蓮には悪いがつい頬の筋肉が緩んでしまう。





「ただいま〜」
「んぅ!ぱっぱ!」



玄関から聞こえて来たのは燐の声。帰宅を表す言葉と声に蓮は尽かさず反応を示す。


「ぶんぶんっ!」


もはや口癖のように、ぶんぶんと言葉を乗せながらぱたぱたと玄関へその足先を向けて行ってしまった。


おそらく今頃、蓮は燐の前でも同じことをしているだろう。そして、それを見て燐もまた癒されるのではないかな、なんて想像したりしてクスリと笑ってしまう。

ある程度下準備を終えた夕飯の支度を仕上げるためにキッチンに向かって、エプロンをつけた時だった。玄関からドタバタと足音がしたかと思えば、血相を変えた燐が両手で抱えられてることにより、ぶらんとした状態でいる蓮と共にやってきた。


「パパどうしたの…」
「優希…蓮が」



相当気が動転しているようだ。普段、蓮の前ではお互いにパパとママと言い合っているはずなのに、今の燐はあたしのことを名前で呼んだ。



「おいっ…反抗期か…」
「…へ…?」



反抗期。


蓮の年齢にそぐわない単語が出てきて、拍子抜けしてしまう。



「蓮、蓮が…」
「んぅ?」


気が動転している燐。
惚けている蓮。

えっと、何があったの。









「蓮ちゃん」
「あいっ」
「パパになんて言ったのかな?」
「んぅ?」


燐が珍しく、らしくないぐらい動揺しているので、ご飯を作ることよりこちらを優先したほうが良さそうだと踏んだあたしは、燐と蓮と一緒にリビングへ移動した。

蓮を呼べば、元気に返事をしてくれる我が子。しかし疑問点を投げつけても、意味を理解していないのか、惚けた様子なだけ。


うーん、どうしたものか。



「ぱっぱ!ぶんぶんっ!」
「パパ、これぐらいで驚いちゃったの?」


こちらの質問と意図せず、今日ずっと口にしていた言葉を言い始めた蓮。てっきり、この言葉をパパの前でもやったのだと思っていたあたしは、そのまま思ったことを伝えると「ちげェ…」って小さい言葉で否定された。



「蓮、違うことやったの?」
「違うことって、ンだよ…。確かに帰ってきた時、コレやってたけどよォ…俺が言いてェのはコレじゃねェ」



え、蓮は本当に何をしでかしたの。

なんて、思っていればその答えはすぐ明白となった。














「ちょーうざい!」



蓮には似つかない言葉。

でも、耳馴染みのある言葉。

あたしは一瞬、理解することが遅れて蓮をまじまじと見つめる。

そんな風に思ってるなんて知らない燐は、「なっ」声を漏らす。完全に動揺している声だ。


「ぱっぱ!ちょーうざぁい!」


追い討ちをかけるように蓮は更に呟いた。両手を上げてにこやかに、そして、身につけていたものをパッと外して何故かドヤ顔。言葉と表情が全く合っていないのがまた悪意がないからこそタチが悪い。


「おいおい…グレてンのかよ…」
「んぅ?」


さすがにパパの反応がおかしいと思ったのだろう。蓮も不思議そうに覗き込む。

ここでやっと理解できたあたしは蓮を呼ぶと嬉しそうに飛び付いてきた。



「蓮は、泉くんのマネしてたんだね」
「いずく!うざぁい!」
「は…」












つまりはこうである。


「最近日差し強いでしょ?日焼け止め塗っても目も日焼けするから、安物だけど蓮にもサングラス買ってあげたんだよね」
「ぶんぶん!」
「で、パパが帰ってくるまでこうやってサングラスかけたまま、ぶいぶいさせてたんだけど」
「ぶう!」
「泉くんがよく暑いとウザイってサングラス外すからそのマネかな」
「うざぁい!」


予想は確定に変化した。
蓮はかけていたサングラスを外しながら、ウザいと発言したのだから、これは完全に泉くんのマネである。
ちなみに、蓮は言葉の意味を一切理解していない。本当にただのマネっ子である。

その言葉を聞いて、一気に肩の力が抜けた燐はホッとした表情を浮かべる。


「ンだよ…マジで焦らせんなって」
「いずくよ!ぱっぱ!」


そう、蓮は今日一日、サングラスをかけていたのだ。暑い日差しによって目も日焼けをしてしまう。肌は日焼け止めを塗ればいいけれど、目を守るにはサングラスしかない。

散歩や買い物などで一緒に出かけることも多い。蓮はまだ小さいため地面との距離も近いので、アスファルトからの照り返しだって大人より浴びることになる。そのせいで、目が焼けてしまって悪くなってしまってはいけないので、サングラスを買ってあげたのだ。

そうしたら、案の定ハマってしまった蓮は室内だと言うのにずっと掛けた状態で、蓮が自己解釈している行動をずっと繰り広げていた。



「あたしの前だと、ぶんぶん言うだけだったからてっきり同じことしたのかと思ってたんだけど、泉くんのマネしてただなんて…、ホントよく見てるね」
「んぅ?」
「ふふっ、泉くんに似てたよ」
「んんぅ!」


けど、まあ確かに燐は所属も違えば絡みが多いわけでもないから、これが泉くんの口癖とかもすぐにピンと来る訳がないか。


「蓮の前で変な言葉使うんじゃねェってーの…」
「まあまあ」



理解したら理解したで、次は釈然としない様子の燐を宥めながら。


「…ぱっぱ」


蓮としては、良かれと思ってやっていたことだから、パパの反応が思っていたのと違って段々と不安になったようでショボンとした表情を浮かべている。


「蓮、」
「…ぅ〜」
「…まあ、言葉の内容は置いといて…、蓮もサングラス似合ってンな」


蓮の反応を見兼ねた燐はその空気を打破させるべく呟いた言葉にピクリと反応する。

「ハハッ、こはくちゃんがオラオラさせてるみてェな」と、こはくんが聞いたらど突きそうでもある言葉。しかし、蓮はそれでもお気に召したようで嬉しそうに飛び跳ねた。



「ぶんぶん!蓮ちゃんよ!」
「おうおう、今度それで出かけような」

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