再会H




セゾンアベニューに来たあたしは、別に顔バレするほど有名ってわけでもないが、念のためということで普段からかけている伊達メガネに真っ黒のシンプルなキャップを目深にかぶっていた。見た目に問題ないか、ガラスに反射した自分の姿を見て確認する。


(これなら大丈夫かな)










「もしかして水城優希…?!」


適当にカフェで買ったフラッペを飲みながら歩いてた時だった。さっき、大丈夫と思ったばかりなのに、突然名前を呼ばれてしまった。フルネームで名前を呼ぶなんて誰なんだろうと思って見てみたら、見覚えのない少年が立っていた。少年は口元を手で覆いつつも、あわあわと慌てた様子が伝わってくる。


(すごい可愛い顔立ち…)



結局キャップを被っても伊達メガネをしても、バレる時はバレるのだ…。仕方ないか…なんて小さくため息を吐いた。そんなことより、よく見れば夢ノ咲学院の制服をまとっているではないか。ベージュのベストに赤いネクタイ。赤いネクタイと言えば、去年まで司くんたちがしてた色だから、一個下なのかな。そんなことをぼんやりと思いつつ、多分彼のことだからあわあわした行動のまま何も進まなそうなので、とりあえずどうしたものか。こちらから話すにもなあ…気づかないふりをする?いや、でもガッツリ目が合ってしまったから、フリはできないなと思い巡らせていれば、「あいら」と目の前の彼を呼んで更にもう1人少年がやってきてしまった。


「ひ、ヒロくん、どこ行ってたのォ?!」
「ごめんごめん」
  

あいらと呼んだ目の前にいる少年は、やってきた彼にさっきまでのあわあわ慌てていた様子とは打って変わって、頬をプクゥっと膨らましながら怒っている様子。うん、男の子なのに可愛らしい。宙くんとかとはまた別の可愛さだなあ…なんて同じ事務所の後輩くんを思い出す。あたしからは、やってきた少年の顔が見えないため、後ろ姿のみ。服装を見る限り、目の前にいた彼と同じ夢ノ咲学院の制服を着ているではないか。あいらと呼ばれた彼よりも身長が高くて、ふわふわの赤い髪の毛。まるで燐みたいな髪色…と思って見ていたら、ふと垣間見えた横顔に驚いた。



「ひーくん…?」



あたしの声はそんなに大きいものではなかったが、どうやら本人の耳にも届いたようで彼がこちらに目線が移る。透き通るターコイズブルーの目があたしを捉えた瞬間、一瞬だけ微かに揺れて動揺するのが伝わってきた。

次にそれを認識した時は、目の前に大きな何かが視界を覆い尽くしているし、体を自由に動かすこともできない。ぎゅううううっと全身に伝わる力がかかり、それがあたしがひーくんと呼んだ彼、天城一彩だと再認識する。


「おっきくなったね…」


なんとかして背中に回せた左手で優しく撫でてあげる。びっくりした、最後に会った時はまだあたしより小さかったから。しかも声も変わっていて、正直声を聞いただけではわからなかった。聞き慣れない声で「会いたかった…」と腕に込められた力とは対照的に、覇気がなく紡がれる言葉。よしよしとしてあげれば、更に力が込められた。うん、正直に言ってしまえば苦しいよ、ひーくん。また強くなったのかな。




 


「で、ヒロくんどういうことなわけェ?」


彼は藍良くんというらしく、ひーくんと同じアイドルユニットの子だった。藍良くんっていうより、藍ちゃんって感じの方がしっくりくるなあ。あたしからやっと離れたひーくんは、まずあたしに藍良くんについて説明をしてくれた。そっかそっか、ほんとにアイドルになったんだなって思いながら、ひーくんの頬を撫でてあげると少しくすぐったそうな表情を浮かべるもされるがままで。痺れを切らしたように藍良くんはいろいろと説明してと言わんばかりの眉間に皺を寄せた表情で問い詰め始める。ひーくんは、ひーくんで「姉さんだよ!」なんて笑顔で答えてる。


「ちょっとヒロくん、水城優希と姉弟だったのォ?!」
「ひーくんとは、同じ里育ちなの。ひーくんは生まれた時から知ってるだけで、血は繋がってないけどホントの姉弟じゃないんだけどね」


藍良くんは、さっきから言うこと全てに目をクリクリさせながら驚いてばっかりである。そんなことを気にしてないのか気づいてないのか、一度は離れたのにひーくんは昔みたいに後ろから抱きついてきてスリスリしてくる。ちなみに昔は後ろから抱きついてスリスリしながら見上げられてたのに。
  



(昔は小さかったのになあ…、大きくなっちゃったなに、中身は変わってないけど)



「藍良は姉さんと知り合いなのかい?」
「違う違う!おれが一方的に優希さんのファンなのォ!!!!」


次はあたしがびっくりした。藍良くんは思わず大声を上げたからではない。藍良くんがあたしに気づいた理由がまさかファンだったとは。まあ職種的にバレた理由は芸能人としての認識はあったからだろうと思ったけど、これは予想外だった。

[ ]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -