娘とティータイム



「蓮ちゃん、アーン」
「あー」
「美味しいですか?」
「んぅうう!」


あたしの膝の上に座らせている蓮に小さなスプーンで掬ったゼリーを差し出す司くん。言われるがまま、口をあーと開ければ司くんがそっと口の中にゼリーを運んでくれて、口に含んだ瞬間に広がった味がお気に召したよう。両手で頬を押さえて、美味しいと言うことを全身で表現するその様子が可愛らしくて、つい頬が緩む。



「蓮、良かったね」
「んぅ!」
「お気に召していただけて嬉しいです」
「つかちゃ、つかちゃ、あー」
「はい、あー」



蓮は自らスプーンを握り取って、司くんがやってくれたように掬っては司くんに差し出した。




ニューディに顔を出したあと、司くんと会って話の流れでやってきたESビル内に併設されているカフェシナモン。そこで司くんと蓮はスイーツに舌鼓を打っていた。



「蓮、ママにもちょーだい」
「やぁっ」
「もう。全部食べるとお腹痛い痛いになるからね」
「…ぶう」



スイーツの味にハマった蓮は、なかなかスプーンを離してくれず。しかし、これを全部食べさせてしまってはお腹を壊しかねないので、なんとか説得すれば渋々スプーンを渡してくれた。



「つかちゃ、おいち?」
「はい、美味しいですよ。優希お姉さま、蓮ちゃんに一口あげても大丈夫ですか?」
「うん、少しだけにしてあげてね」


ちょっとだけ不貞腐れた蓮を見兼ねた司くんが、さっきのものとはまた別のスイーツを蓮にあげていいかと聞いてくれたので、使ってる食材を確認した上で許可をあげる。

こはくん絡みの時も思ったけど、Knightsでいる時は末っ子扱いされてるけど、こういう時はお兄ちゃんらしく振る舞っていて面倒見の良さが見えて、これまたあたしにとっては癒される時間なのだ。





入り口の扉が開いて、店内にいらっしゃいませという言葉が響く。誰かが来ることは当たり前で普段なら気に留めないけれど、何故か自然と視線が向いていた。


「あ、」


視界に捉えたその人は、見知った人物であり、思わず声が漏れる。


ズンズンと歩くその人は、周りには目も暮れずこちらへやってきて、あたしたちのテーブル席の前で立ち止まった。



「ちょっとぉ」
「へ、なっ、えっとこれは…!」



ドスの効いた声が頭上から降ってきたことにより、スイーツに刺したスプーンをそのままに顔を上げた司くんの表情から血の気が一気に引いた。なんなら、声は震えて焦りも含まれている。


「いずく〜!」


そんなことを気にすることなく、蓮は笑顔で両手を上げてお出迎え。その様子を仏頂面で見下ろす人物は、同じニューディ所属であり、司くんと同じKnightsの泉くんだった。

これまた「まーたこんなに食べてるわけぇ〜?!だいたい、いっつもカロリー考えて、」などなどお小言が始まるのが鉄板なのだが、今日は違った。



焦る司くんを他所に泉くんと言えば、とっても露骨に考えを表情に出しているだけ。どうやら、言いたい言葉を必死に押し殺しているようだ。



「いーずーくっ!」



泉くんの気持ちも司くんの焦りもつゆ知らず、スプーンを持ったまま嬉しそうに蓮が泉くんの名前を呼ぶ。



「優希、ちょっと貸して」
「あ、うん」



泉くんに言われ、蓮をそのまま差し出せば、泉くんはそのまま蓮を、抱き上げた。蓮は、この場の空気をやっぱり物ともせず、キャッキャと嬉しそうにするだけ。


「蓮」
「いーずーくっ!」


あまりにも空気を読まなすぎる蓮、さすがにマズイのではと思わずにはいられず。どうしたものか、と思い巡らせていれば、泉くんがギュッと蓮を抱きしめた。










…それはもう、蓮を堪能するように顔を擦り付けて。



「蓮〜、今日もかわいいねぇ」
「んぅ!」
「ゼリー食べてたの〜?」
「おいちーのっ」
「そっかぁ、俺が食べさせてあげるよぉ〜」




うん。

不安は不必要だった。


泉くんはさっきまでと打って変わって蓮をデレデレに愛で倒しており、それはもういつもの泉くんだった。



「…あの、瀬名先輩」
「蓮、お兄ちゃんが欲しいのなーんでもあげるからねぇ」



司くんの呼び掛けが聞こえてないのかスルーしてるのか。おそらく後者だろう。蓮を抱えた泉くんは気にも止めず、自然の流れであたしの座っている椅子のわずかなスペースに無理やりながら腰掛けようとしてきたので、あたしはスッと横にズレてスペースを作ってあげた。



「泉くん、蓮にあんまりあげすぎないでね」
「わかってる。ねぇ、蓮」
「いずく、あー」
「俺にくれるわけぇ?蓮は優しいねぇ」



蓮はKnightsのみんなに懐いている。それは常日頃から、可愛がってもらってるからであり、泉くんも例外ではない。なので、素直に泉くんに可愛がられて喜ぶ蓮を見て、また泉くんは気分を良くさせている。



「…優希お姉さま、良いのですか?」
「うん、蓮も喜んでるから大丈夫」



泉くんのお兄ちゃんモードにドン引きした気持ちを隠せてない司くんに尋ねられるが、こうなったら止められないし止める理由もないので、あたしはただそれを受け入れるだけ。



大人しく身軽になった今を一時的な休息と捉えて、全然手のつけていなかったティーカップに口付けた。


チラリと横を見れば、蓮は相変わらず楽しそうに座ってモグモグと食べている。その様子をまた嬉しそうに見つめる泉くん。さっきまでの不穏な空気は何処へやら。

元々、蓮を甘やかす泉くんだけど、多分今日は色々行き詰まっていたんだろうなと思った。本人は隠してるつもりだけど、だからこそ何もわからない蓮に会いに来ることをあたしは知っている。

誰よりも努力してきた人だから。

その姿を誰にも悟られないように。

何も知らない蓮の変わらない笑顔から元気と癒しをもらうのだ。








「かさくんへの物申したいことはあとで言うから、覚えておきなね」


さっきまでのデレデレな声とは一変して放たれるこの一言に司くんは忘れていた、と言わんばかりに体を震わす。

ごめんね、さすがにこればっかりはフォローできなさそう…。
こんな時でも司くんチェックも怠らない泉くんは泉くんらしいなと思いながら。

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