娘と甚平〜後編〜
蓮は一度気にいると、なかなか手放さない。
好きなものは好き。
それはウサギぬいぐるみだったり。
人だとニキくんだったり。
服だと甚平がお気に入りな訳で。
「蓮、出かけるよ〜」
「あい!まっま!」
今日もあの甚平を身に纏って元気に返事をした。
「にゃんにゃん!」
HiMERUくんにもらったネコの麦わら帽子を被って嬉しそうに歩く蓮。どんな理由であれ、こうやって機嫌良くしてくれるなら何でもいい。手のかかる年頃で、可愛らしいと思うけれど、困って頭を抱えることだって珍しくない。だから、好きなもので言うことを聞いてくれるのはとても楽、と言うのが母となっての本音だったりもする。
「おや、優希さん、蓮ちゃん」
「あ、HiMERUくん」
ふと、名前を呼ばれて顔を上げればそこにいたのはHiMERUくんだった。
その声とあたしが名前を呼んだのも聞いてたであろう蓮はピクリと反応して、声のした方に方向を変える。
「めうめ〜う!」
「蓮!!!」
「やぁっ!!!!」
そしてHiMERUくんに駆け寄ったかと思えば、あたしたちとHiMERUくんの間にひょっこりと突然現れたのは両手を広げたひーくんで。突然の出来事と現れたのがひーくんだったせいか、ビックリしてくるりと方向転換して逃げ出した。
「これはこれは」
「こんにちは!HiMERUさん!」
HiMERUくんもひーくんもお互いの存在に驚いた様子はあまりなく、すんなりと言葉を交わしている。蓮と言えば、びっくりしたことによりあたしの足元にまで逃げてきて、しっかりと足に捕まって離れようとしない。
「蓮!僕だよ!何で逃げるのかな?」
「んぅううう」
「ひーくんが突然出てきてびっくりしちゃったかな、」
蓮の反応にあたしは苦笑いしか出てこなくて、とりあえず大丈夫だよと教えるために背中をポンポンと叩いた。
「蓮ちゃん、今日もHiMERUがあげた帽子を被ってくれてるんですね」
「うん、蓮のお気に入りの一つだからね」
「それは良かったです」
ちなみにHiMERUくんもひーくんも出会ったのは、たまたまではない。
「蓮、驚かせてごめん…!」
「んぅぅ…」
「蓮と早く会いたくて急いできたら驚かせてしまったね」
HiMERUくんと話している傍で、蓮とひーくんが小さくなりながら言葉を交わしている。
「天城は事務所に寄ってくると言うことで、先に迎えに来ました。桜河や椎名はもう少ししたら来るかと」
「そっか。じゃあ、パパを待ってなきゃね」
実は2人とも約束をしていたのだ。
この後、みんなで一緒に出掛けるために待ち合わせ場所を決めていてやってきたのだが、それぞれの事情により最初に集まったのがHiMERUくんとひーくんだった。
「蓮、今日は甚平なんだね!りんごがたくさんだ!可愛いよ!」
HiMERUくんと話をしていれば、足元でひーくんがめげずに蓮に声をかける。その中で、思わずあたしも反応したくなる言葉があった。ふと、視線を外して蓮を見てみれば、あたしの足にギュッと掴まっていた蓮が心なしか嬉しそうに見える。
「確かに。蓮ちゃんにとても似合うもので可愛らしいですね。今日のお祭りにとても合ってると思いますよ」
「めうめう…!」
「ウム!」
さっきまで驚いてビビっていたのはどこの誰だ。HiMERUくんにも褒められて気分をよくしま蓮はすっかりご機嫌モード。泣かずに不貞腐れるのも回避できたと内心ほっとする。
「蓮!お祭り楽しみだね!」
「ひちゃ」
「何かな」
蓮を抱っこしながらひーくんが嬉しそうに呟いた。抱っこされた蓮はぺちぺちとひーくんの顔を叩きながら名前を呼ぶ。
「ひちゃ」
「ウム」
「ひちゃ、ぱっぱ、いしょっ!」
「蓮、」
おそらくだけど、蓮はひーくんと燐と自分の着ている甚平が同じ赤だと言いたいんだろう。自分の着ている甚平を引っ張りながら、ひーくんに見せようと必死だ。
「蓮も僕たちと一緒だね」
その気持ちを汲み取ってくれたひーくんがニコニコとしながら答えるのは側から見ていて微笑ましい光景だ。一瞬、キョトンとした蓮と言えば、ひーくんに一緒と言われたのが嬉しかったようで被っていた帽子のツバを両手で掴んで首を振る。
「いしょね〜っ!」
「ウム!蓮と一緒で嬉しいよ!」
「ね〜っ!」
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