娘とEve



※巴視点
※娘2.3歳ぐらい



「きみは誰だい?」
「蓮ちゃん!」
「きみのママは?」
「ママはおしごとしてるのっ」



そう言ってぼくの前にいる小さな子は、ニコッと笑った。



「ママはここの事務所なのかい?」
「じむ、しょ?」
「そうだね、きみのママはここでお仕事しているのかな?」
「んーん、ちがうよ」



赤い髪の少女は、ぼくの質問でわからないことはキョトンとした表情を浮かべて、理解すれば素直に首を振る。素直なことは良いことだね!しかし、この子は何故ここにいるんだろう?



「ひよりちゃんもたべる???」
「ありがとう!きみは、ぼくのこと知ってるんだね?」



ここはコズプロの事務所だと言うのに、この子は落ち着いた様子で自分の肩から斜めにかけているカバンの中から飴を取り出した。ぼくに差し出してくれるあたり、やさしい子だね!



「ひよりちゃん、しってるよ!蓮ちゃんのぱぱがひよりちゃんっていってた!」
「そう、きみのパパが」


ぼくのことを、ひよりちゃんなんて呼ぶのは限られてくるね。



「じゃあ、蓮ちゃん」
「なあに、ひよりちゃん」
「ぼくとデートしよう」



にっこりと笑って見せれば、蓮ちゃんは「でぇと?」と不思議そうに首をこてんと傾げた。



















 

「で、おひいさん」
「なんだい、ジュンくん」
「なにやってるんですか」
「何ってデートだね!」
「でぇとだね!」



目の前で何とも言えない表情のジュンくん。見てわからないのかな、デートだね!って伝えれば、蓮ちゃんもニッコリ笑顔でぼくに続いた。蓮ちゃんはなかなか可愛い子だね!素直でいい子だから、ぼくともすぐに仲良くなれたね!



「何意味わかんないこと言ってるんすか…第一、この子ってあま、」
「知ってるね!だけど、今はぼくとデート中だね!」
「でぇとだね!」
「いや、ほんとに…はぁ」



ジュンくんは失礼だね!ぼくと蓮ちゃんが一緒に仲良くしているのを見て溜め息するなんて…!
何もおかしくないのに。今だって、カフェシナモンに来ているのだけれど、蓮ちゃんは注文したオムライスをモグモグと食べている。きちんと行儀良くしていていい子だね!



「親に許可は取ってるんすか」
「取ってないね!」
「取ってないんすか?!?!」



さっきからジュンくんうるさいよ!いちいち驚きすぎだね、なんて返せば「さすがにそれはダメっすよぉ…」と項垂れる。



「ひよりちゃん、なにがないの?」
「蓮ちゃんは気にすることないね」
「んぅ?」
「いやいや、さすがのおひいさんでもこれはいけないことっすよぉ…」
「問題ないね!さっき、ニキくんに伝えたからね」




突然、ニキくんの名前を上げたから、ジュンくんは眉間に皺を寄せて表情が理解できないと言っている。ぼくはキッシュを一口、咀嚼してから再度口を開く。



「蓮ちゃんは、ニキくんと知り合いだからね。彼から連絡してもらってるね」
「にいのごはんおいしいね!」
「そうだね、蓮ちゃん」



第一、デートしようと言ったのはぼくだけど、蓮ちゃんと軽くブラブラするつもりだっただけなんだけどね!蓮ちゃんが此処に来たいって言ったから来たんだね。



「じゅんくん、おなかいたいいたいの?」
「…あれ、オレの名前、知ってるんすか…?」
「蓮ちゃんしってるよ!」
「それは嬉しいっすねぇ〜。お腹痛くないんで大丈夫っすよ」
「蓮ちゃんのおむらいす、あーんしてあげる!」



蓮ちゃんは、項垂れているジュンくんがお腹痛いのかと思ったらしいね。蓮ちゃんにとって大きなスプーンを持ったまま、不自然なぐらい下から覗き込んでいた。

ジュンくんは蓮ちゃんに名前を知られていることに驚いたようだけど、そんなことを気にしない蓮ちゃんは自分のペース。自分の食べていたオムライスを一口掬おうと格闘していた。



「蓮ちゃん、気持ちだけもらっとくんで、食べていいっすよ」
「んぅ?」
「蓮ちゃんは優しいね!ジュンくんの心配して、あーんしてあげるなんて」
「おいしいものはみんなでたべるとみんなおいしいよ!」
「それは椎名先輩の受け売りっすかね〜」



うんうん、多分違うね。これはきっと親のしつけがしっかりしてる証拠だね。



「それで、ジュンくんはどうして此処にいるんだね?」
「それは、おひいさんが呼び出したんでしょうが…」



そう言いながら、またため息をつくジュンくんは、ぼくたちが座る隣の座席に座って、持っていたケースをゆっくりと置いた。



「メアリを連れて来いって」
「それなあに?」
「メアリっすよ〜」



蓮ちゃんは椅子から降りて、ケースの中を覗き込んだ。ぼくは見なくてもわかるね!だってその中には、ぼくが可愛がっているブラッディ・メアリがいるんだからね!


「ほわぁ…!わんわん!」
「ブラッディ・メアリだね!」
「ぶぅ、め、…?」
「メアリっす」
「めあり!」



キラキラした瞳でケースの中のブラッディ・メアリを見つめる蓮ちゃん。しゃがんで身を縮こませて、まるでケースの中にいるブラッディ・メアリのようだね!



「蓮ちゃん、ブラッディ・メアリを撫でてもいいね!」
「めあり…!」
「ちょっと、おひいさん!ここお店っすよ」
「ケースから出さなければいいね!ほら、ジュンくん開けてあげて!」



仕方ないっすねぇ〜とボヤきながら開けてくれるジュンくん。蓮ちゃんに外には出せないけれど、せっかくなのでブラッディ・メアリに会わせてあげたかったからね!連れてきてもらったね!



「いいこいいこ…!」


蓮ちゃんに喜んでもらえてよかったね!


















時間が経つのは早いね、あれからさらに時間は過ぎていて、蓮ちゃんとお別れの時間になってしまったね。ぼくもジュンくんも帰らなきゃならないから仕方ないけどね。




「ひよりちゃん、じゅんくん、めあり、ばいばい!」
「また、ぼくとデートしようね」
「でぇとしよーね!」



そう言って、めいいっぱいの笑顔でいっぱい手を振ってくれた。とってもいい子だったからね。また会いたいなって思ったね。
それに、デートだってかわいい蓮ちゃんとなら、いつだって大歓迎だね!




だから、燐音先輩は怖い顔して睨まないでほしいね!

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