ニキとネット配信



※モブ視点


テーブルの上には、缶のお酒やおつまみ。
そしていつも使っているタブレット。
タブレットのカバーを組み立て、本体が手を使わなくても見えるようにセッティングしてある。


画面は動画配信サービスを開いていて、しばらくお待ちくださいの文字。


時間を確認して、もう間も無く開始するという余裕がある待機状態。楽しみすぎて、そわそわしながら画面を見つめた。



「ちわーっす!」


時間の分がちょうど00になった瞬間、画面は切り替わり、映ったのは見慣れた赤い髪の人。軽い挨拶もいたずらそうな笑みも相変わらずだった。



「突然だってのに、みんな暇かァ、?」
「いやいや、そう言っちゃダメっすよ!燐音くんの思いつきで突然やるって言ったのに、みんな集まってくれたんすから!」




そう言って、横にいる彼は呆れたように首を振っていた。

今、あたしが見ているのはクレビチャンネルの生放送。生放送、と言っても、きちんとしたものではなく、燐音くんが突然昼間に「今日配信やっぞー!」なんてSNSで呟いたもの。なのであたしも慌てて直帰を決めて待機していたのだ。

キチッとした生配信もあったりするが、たまにこうやだてゲリラ的に配信をしたりするのも、彼らしいと思っている。

だいたい、ゲリラ配信の時はゆるゆると燐音くんはお酒を呑みながら、ニキくんはご飯を食べながらやっているのが定番だ。たまーにこはくくんやHiMERUくんも出てきてくれるけど、基本ゲリラの時はニキくんが付き合わされてるって感じ、だと思う。



「今日の俺っちのお供は〜この期間限定ビールっしょ!ハチミツ入ってるフルーティーなヤツらしい」
「へぇ〜珍しいもの見つけてきたんすね」
「たまたまコンビニ見てたら、見つけたんだよ。しかも、コンビニも決まった店舗じゃねェとねぇらしい」



そう言いながら、燐音くんは自分が用意したであろう缶ビールのパッケージをマジマジと見つめる。この、カメラを意識しない自由な感じがまた見どころだったりもする。



「ニキは何食ってンだよ」
「僕は焼きビーフンっす!」
「春雨じゃねェのか」
「ビーフンは米からできてるっす!ちなみに春雨はお芋のでんぷんっすね。なので違うっす!」


ニキくんは恐らくこの放送前に自分で作ったであろう料理をカメラに映す。今日のご飯は焼きビーフンらしい。細い麺に絡まって緑やオレンジなどの具材が散らばっていて美味しそう。そんなことを思っていたら、ニキくんの胃袋も限界だったようで、「あぁもうお腹減ったっす!いただきます!!!」って食べ始めてしまった。なんともニキくんらしい。


「ニキ、もう少しだったのによォ」
「だってっ、…お腹減ってるのに、食べ物、目の前にガマンは、ムリっす!」



横で呆れてる燐音くんの言葉にモグモグと口いっぱいに頬張りながら咀嚼しては喋るニキくん。ニキくんはそういう子だ、ファンの中でももはや周知されていることだから、仕方ないよ、燐音くん。なんて思っていれば、燐音くんも同じように思ったのだろう。仕方ねェな…なんて言いながら笑っていた。


「ンじゃ、とりあえず今日もおつかれちゃん」


この一言で、あたしも手元にあったお酒のプルタブを引いた。画面の中で燐音くんがさっき紹介していたお酒を口につけてゴクゴクと呑んで「うめェな、これ」なんてコメントしている。こうやって、各々好きなお酒や食べ物、飲み物を持参して食べながら、呑みながら一緒に過ごす放送スタイルである。















「僕、ちょっとおかわりしてくるっす」
「へーへー、俺っちたちの分も残せよな」
「わかってるっすよ〜!いっぱい作ってあるんで大丈夫っす!」


そう言って、放送中に一度ニキくんはフレームアウト。食べていたものがなくなってしまったらしか、おかわりしにいってしまった。燐音くんもニキくんも普通に話をしていたけれど、燐音くん今、俺たちって言った?


基本、放送は後ろが白壁なのでどこかの部屋だろうと思ってはいるが、てっきりレンタルスペースやニキくんの自宅のスペースかなって思ってたんだけど、違うのかな。実は映ってないだけでクレビの他のメンバーもいるのかもしれない。



「にーいっ!!!!」



思わず呑んでいたものを噴き出しそうになった。


この場面に似つかない声が突然聞こえたんだ。一瞬、外からか…?とも思ったが、どうやら違うらしい。可愛らしい小さい女の子の声だった気がする。画面を凝視してみるが、何も映らなければ燐音くんは恐らく生放送中のみんなのコメントチェックをしているようだ。



「ア?なんか聞こえたって?」


コメント欄もおそらく同じような言葉が溢れているのだろう。あたしはコメントは見ない派なのでわからないけれど。燐音くんはその一言だけ呟くと、缶ビールを一口呑んだ。



「ただいまっす〜」
「おっせェな」
「う〜だって〜。おかわりついでにトイレ行ったら見つかっちゃったっす」
「だろうな…」


ニキくんがよっこいしょって感じで燐音くんの横に座った。少しだけ、疲れた様子なのは気のせいじゃないはず。



「んぅ!うちゃっ!」


「ちょっと、そっちはダメ…!」




一瞬だけ、2人の後ろを小さな何かが通った気がする。

だって画面の下の方に赤いものが通過したもん。


なんなら、その後に女の人も通った…んだけど。


…今の優希ちゃん?!?!



2人の後ろは直ぐに壁かと思いきや、人が通れるスペースがあったみたいで、そこをドタドタと過ぎったのは見間違えでなければ、見切れていたけど女の人だし、優希ちゃんしか思いつかない。普段テレビで見る時と違って、すごいラフな格好をしていて、まるで部屋着…のようだったんだけど、もしかしてここは燐音くんの家では…?



「あ〜入っちゃったっすかね」


燐音くんはあえて触れなかったようなのに、ニキくんがボヤいちゃったよ。入っちゃったって、あれだよね。画面に入っちゃったってこと言いたいんだよね。







「にい!うちゃもあそぶ…!」
「ぅわあっ!来ちゃダメっすよ〜」



って思ってたら、また現れた?!
ニキくんのお膝元にいるのか、ニキくんの目線はやや下に向けられて喋りかけている。なんなら、やっぱり見える赤い髪の毛…、

と…うさ耳…?

下からなんか見えるのはウサギのぬいぐるみ…?



「んぅ?にい、あそぶぅ…!」
「お風呂上がったら確かに遊ぶって言ったっすけど〜今はちょっと〜」
「にい、うちゃ…!」
「うんうん、ウサギさんと遊んでてね」
「うぅ、にいっ」
「おいコラ、泣かせんじゃねェ」
「いやっ、不可抗力っす…!」



画面の中で、困惑しながら言葉を濁して悩みながらも答えるニキくん。けど、目の前のその小さな子には伝わっていないのも聞き取れるやり取りわかる。なんなら、泣きそうな声まで聞こえてきたから、これはもしかして…?と思ったら、燐音くんがとうとう反応した。

反応したけと、ニキくんドンマイすぎる。



「まっまぁ〜っ!」


結局その子は泣きそうな声でドタドタとしながら、フレームアウト。
と、言っても、背格好の小ささからずっと見えてたのは頭と持っていたウサギのぬいぐるみ(多分)なのだが。


とんだハプニングだな〜。


…待って、今のもしかして燐音くんの子供では?!?!

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