再会6




あれから、泣きまくった優希が落ち着いたのはしばらくしてからのことだった。
俺が抱き上げたこともあり、膝の上に向かい合うように座って胸元でぐすぐすとしているし、その辺りが優希の涙で湿っぽいのも仕方ないなと思うぐらい、こいつには甘いんだよなァと自覚する。


「あンまり泣くと明日腫れるぞ…」


親指で目元から溢れる涙を拭ってやれば、またぐすりとしながらも、なんとか自分を落ち着かせようとしているのがわかる。


「優希…、明日の仕事はァ…?」


おそらく今日は仕事はないだろう。もしあったりしたら、きっと仕事どころじゃないのは予想できたであろうから、今日という日付で呼び出したりしないはず。ったく、優希が出て行ってから4年以上経ってるっつーのに、まさか同じアイドルになってたなんて気づかなかったし…、今まで何してたとかいろいろ質問したいことはたくさんある、あるんだけど…、


(そんなことより、戻ってきてくれたことに今は満足するべきだよな…)


「…しばらく撮影とかはない…、基本裏方仕事だから…」
「ふぅん…そっか」


ならまあ、良いか…。裏方って何やってンだろ、と気づけば色々気になって仕方ない。
そんなことをぼんやりと考えながら、涙を拭って、頭を撫でてやれば、やっと落ち着いたであろう優希がハッとした表情に切り替わる。そして気まずそうに目を泳がせては、何やらもぞもぞし始めた。


「り、燐…」
「ンー?」 


こいつ、しばらく見ない間にすごい変わったな、と思う。アイドルを仕事にしてるだけあって、日々いろんなことを気にしてるのだろう。部屋が薄暗い故にはっきりと見えるわけではないけれど、触れた肌質とかすべすべだし、髪も昔より短くなったとはいえ、サラサラで里では見れなかった化粧の姿。めちゃくちゃ化粧してるわけではないけれど、それでも自分の顔にあった化粧なんかしてて、これはこれでむちゃくちゃ良い。今は化粧も崩れてるだろう。俺は空いた時間を埋めるためにすごい調べたからな。活動履歴とかいろいろ。たくさん見つけられたわけではないけれど、それでも雑誌のモデルとか見つけた時にはまじで知らなかった自分をぶん殴りたいレベルだった。



「…ぉりる…」

ボソリと聞こえた声はかろうじて聞き取れたぐらいのもの。両手は俺の肩のところに当てて、離れようとしてるのがわかった。だから、その片手を掴み、もう片方の手で腰をしっかりとホールドすれば、優希は困惑した表情を浮かべる。


「離れようとすんンなよ。昔はよくこうやって、くっついてただろ…?」

「くっ、…ついて、た…けど…」


ましてや、今までずっと離れていたんだから、逆に離したくない。そんなことを思っていたら、ぼふっと何を思ったのか逆に胸元にダイブしてきた優希。どうしたものか、と思いつつそのままソファーに俺は身を預けてポンポンと頭を撫でてやれば、もぞもぞと顔を少しだけ上げて上目遣いでこちらを見てくる。「燐が…」と小さな声で紡がれる言葉に耳を傾けていたら、この後俺は思わず固まることになる。


「燐が…、かっこよくなってて、恥ずかしい…」


ずっと、一緒にいたけど、この5年近く一緒にいらなかったわけで。俺が最後に見た時って、優希が15とか?その頃も充分可愛いなって思ってたけど、ずっと一緒に里の中で育ってきたわけだから、いろんなことが当たり前すぎて、こんなふうに互いの距離とか表情とか仕草とか気にすることなんてなかった。だからこそ、久々に面と向かって一緒にいれることになったら、いろんな変化がありすぎて、正直言ってしまえば俺の心臓に悪すぎる…っ。

声にならない気持ちをなんとか飲み込んで、腕の中に優希を閉じ込めた。顔が見えないように、見られないように。きっと、今の自分は見せられたものじゃないと思うから。ずっと望んでいた大切なものを、再び手にすることができた幸せを噛み締めながら、更に俺は力を込めた。



    





「…なァ」


応接室を後にして、移動することにした俺たち。カンカンと足音を立てながら階段をゆっくりと降っていく。1、2段後ろを歩く優希は後ろから「んー?」と緩い返事が聞こえてきた。


「そういやァ、一彩がさ、あいつもアイドルになったって話」 


前を歩く俺から優希の表情はわからず、そのまま思い出したように呟くと、後ろから「えっ?!」と驚きの声が聞こえた。多分、さっき言ったことは聞こえてないか忘れてるようだな。まあ、そうなるよな、と思いつつ、踊り場のところで足を止めて振り向いてみれば、俺がいるところよりも2.3段ほど上のところで、優希が目を見開いてこちらを見ていた。その表情は驚きの中に、幼い頃のいつか見たようなキラキラした光が見える。


「そっかあ…ひーくんもアイドルになったんだ…、やっぱお兄ちゃんと一緒なんだね」
「…そんなンじゃねェよ」


まあ、優希は知らなくていい。俺が出てきた理由とか、一彩が出てきた理由とか。そう言う意味も込めて、ぼそりと呟いた俺の発言は優希に届いたか分からない。そんなことを思っている間に、ニコニコしていた優希の表情は一変して曇る。なんとなく何を思ってるのかは予想がつく。優希に会う前に一彩と会った時の会話が頭を過ぎる。

「大好きだよ、姉さんは僕の大切な姉さんだからね…、」



「『僕は兄さんの横でいつも笑ってくれる姉さんが好き』だってよ…。今日一彩と会った時に、言ってた。だから安心して会ってやってくれよな」



あの時の一彩の寂しそうな惜しむような笑った表情。改めて俺たちは自然と話に出すことを避けてきた話題だったんだなと、実感した。自分ばかり悲観的になって悲しんで寂しかったんではないと思った。優希といえば、ぽかんとした表情を浮かべたものの、それも一瞬であって、すぐに言葉の意味を理解する。落ち着いたはずの表情は、またさっきに巻き戻るかのように、赤くなった目はまた潤いを取り戻す。

両手を広げれば、その行動の意を察したようで、優希はその場から残りの段数を抜かして、腕の中に飛び込んできた。しっかりと抱きとめてやれば、腕の中で「う〜っ」と唸る声がして、泣いてる優希とは裏腹に俺は思わず笑みが溢れた。


(やっと取り戻せた宝物)
(これからまた一緒に埋めていこう)

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