娘と一彩9



※モブ視点



お知らせが出てたのは数時間前。

おかげで慌てて時間に合わせてスケジュールを切り替えた。

バタバタと帰宅して、どのぐらいの時間になるかもわからないから、とりあえずご飯の準備。あり合わせで作ったものをテーブルに乗せて、いただきますって時にはちょうど時間になってしまった。


立てたスマホでアプリを起動。

画面をタップして目当てのページをクリックすれば、私服なのかな、割とラフな格好をしている燐音くんが映った。


「お前ら、ゲリラなのによく来たな」


ケラケラと笑う燐音くん。今日も今日とて、ゲリラ生放送だ。唐突に始めるのはもはやテッパン。慣れっことなったわけで、むしろ数時間前告知があるのは燐音くんの優しさだと思う。


「はいはい、コンバンハー」

おそらく画面に流れるコメントを見ている燐音くんは、カメラより目線を下げていてバーっと流れていくコメントを見て適当過ぎる挨拶をする。


「ん、ニキ?今日はいねぇな。優希も今いねぇっしょ」


誰かがニキくんはー?なんてコメントしたもんだからちゃんと返してくれるし、それに続いて優希ちゃんはいる?って質問も流れてきたりしてそれについてもちゃんと答えてくれる。二人ともいないのなら、今日は一人配信なのかな、と思っていたけど、燐音くんの楽しそうな笑みを見るからに、何かありそうな予感。それを感じたのはあたしだけじゃない、コメント欄が誰かいる?燐音くん、楽しそう!などで溢れているからだ。


「おうおう、察しがイイじゃねぇか」


コメントを眺めながら、燐音くんはさらに楽しそうな笑みを浮かべる。ニキくんはいない、優希ちゃんもいないと言うことは、おそらく娘ちゃんもいないはず。となると、?そう思考回路をフル回転していれば、行き着いた答えと同時に画面に映るもう一つの赤い髪。


「やあ!天城一彩だよ!」


燐音くんの弟である一彩くんの登場だ。燐音くんと違って、爽やかな笑顔でひょっこり現れた一彩くん。カメラに向かって手を振ってくれる姿が可愛らしく、思わず画面に向かってあたしも手を振ってしまう。ちなみにコメント欄は大荒れ。一彩くんが出たことにより、めちゃくちゃ速いスピードで流れていくから、きちんと拾えないけど、きゃああああ!!って叫び声だったり、一彩くんだ!!!天城兄弟が揃った!などとみんな思うことは同じ。取り乱し方まで文面に現れてて笑ってしまう。


「うむ!兄さんのところに遊びに来たんだ!」
「今日は一彩と一緒にやってくなァ」



二人仲良く映る画面があまりにもほっこりしてしまって、あぁ今日も見れてよかったとあたしは画面に向かって拝むのだった。







二人は他愛もない話をしていた。お互いの仕事の近状報告で、このイベントやってたなとか、あの時の番組見たよ、とか。ここでそんなことする?っていうようなことを話したり、かと思えば一彩くんがこの間、椎名さんとひなたくんでね!と他の人たちの話を始めてくれたり。適当に見えるけど、優しい眼で相槌を打つ燐音くんにお兄ちゃんの顔だ〜ってもう供給過多である。

そしたら、二人揃って突然カメラから視線を外して何かを見始めた。二人しかいないと聞いてたのに、どうしたんだろうか?コメント欄も何かあるのー?誰かきたー?などというコメント。そしたら、次の瞬間「んぅ?」って声と共に、二人の間で赤い髪が見切れる形で見え隠れし始める。


「えっ、」


あたしも思わず声が出てしまったが、画面ではコメント欄大荒れ第二弾。


「おかえり!」


一彩くんは見切れてるそれにギュッと抱きついておかえりの挨拶を。そのため画面から一彩くんも若干見切れる形になってしまって、燐音くんは肘をついて顎を乗せながらそれを見て笑っている。


「んぅ?ぱぱ!」


見切れてるそれがカメラを指差したようで、小さな小さな手がひょっこり、指を指していた。この小さな女の子の声は娘ちゃんだ〜!!


「今な、これみんな見てンだよ。ほら。手ェ振ってみ?」
「んぅ?ばーばい!」


燐音くんはもうパパモード。娘ちゃんにカメラに向かって手を振るように誘導すれば、娘ちゃんの不思議そうな声。そのあと言われるがまま手を振ってくれるのが可愛らしい!!!しかもバイバイって…!って!そんなこと思ってたら「バイバイじゃねェっしょ」って燐音くんも笑ってた。絶対に娘ちゃんの顔は出ない生配信。それはファンの中でも承知の上。前にニキくんとの配信でドタバタ、ゲリラ生配信決定よりもゲリラすぎた娘ちゃんの登場が結構反応が良かったらしくて、それを知った燐音くんたちはこうやってフラッと登場させてくれる。
可愛い、癒される、何よりあたしたちも喜んでしまうのを燐音くんが知ったファンへのサービスだろう。


「おっ、みんなおかえり〜とか、ばいばいしてくれてンぞ」


コメント欄は娘ちゃんの登場におかえり〜という挨拶や手を振る絵文字、こんばんはー!という挨拶で溢れているから、これまたほっこりしてしまう。
燐音くんパパの言葉を聞いた娘ちゃんも、「ん!」と返事してくれた。その後何か言ってたけど、それが聞き取れないのがまた可愛い。



「ねぇ、ママがお風呂だよって言ってるよ!」


今の今まで二人のやりとりを見てたはずの一彩くんが、ふと横をまた見たかと思えば娘ちゃんにママの言葉を伝えていて完全に天城家のやり取りが開始していた。ママってことは優希ちゃんだよね、多分二人でお出かけしてたんだろうな。買い物かな?外から帰ってきたし、二人も生配信してるからお風呂に入れようとしてるのかも。優希ちゃんも相変わらず大変そうだな〜。娘ちゃん、ちゃっかり「や!」って拒否ってるし、手がかかる様子がすごい分かる。


「じゃあ、僕と入ろう!」


ぶって思わず噴き出した。一彩くんが娘ちゃんと一緒にお風呂???もう今日何回コメント欄荒らしてるんだろう。勢いよく流れていくコメント欄は奇声で溢れている。一緒に入りたいー!とかたまにやばいコメントも一緒にスピードよく流れていくのが見えた。


「んやぁ!」


おうおう、娘ちゃんだから言えるセリフだね?一彩くんのお誘いを一刀両断。二人の間にいた娘ちゃんが燐音くんの方に寄ったから、多分抱きついてるのかな。燐音くんはその勢いに押されて少しだけ体が揺れたし、「オイオイ」って困ったように笑ってる。


「…ぱぱもいしょ」
「あ?じゃァ、あとで」
「うむ!それじゃぁ、兄さんと三人で入ろう!」


それはカワイイな〜?って思ってたら、びっくり、一彩くんが燐音くんの腕引っ張ってて、まさかの今???えっ?娘ちゃんはギュッて燐音くんにしがみついてるみたいで、腕を引っ張られたことにより娘ちゃんの後ろ姿がフレームイン。燐音くんは慌てた様子で「やめろバカ!」って声上げてた。


配信はここでほぼ強制終了。

ゲリラの如く始まり、ゲリラの如く終わってしまった。

とりあえず全然進まなかった食事を進めるが、いろんな供給とドタバタ騒動で冷めやらぬテンションのやり場に困りながら何とかごちそうさまをする。食器を流しに持っていって、洗い物を終えた後、SNSを開けば一彩くんの新しいツイート。


「三人でお風呂に入ったよ!」


って濡れた髪のままタオルを頭にかけている一彩くんとその後ろで娘ちゃんの髪の毛を拭いてあげてるであろう燐音くんが写っていて、本日何度目かの興奮を噛み締めたのは言うまでもない。

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