再会5



燐に誘われて外の世界に出たあの日のこと。すごく楽しかった、キラキラしてた。あの日の記憶は今でも忘れない。


物心ついた時から、燐のそばにいた。

あたしは覚えてないけれど、燐音様と呼ぶように親は試みたけれど、なかなか上手く言えずにいたあたしに「優希は燐で良いよ」と言ったのが燐と呼ぶきっかけだったらしい。

燐は里の次期君主様。

今思えばそんな相手によくもまあ呼び捨てに近い呼び名で呼んでいたものだなと感じる。


そんなあたしの立場は、許嫁だった。
なんとまあ、これもびっくりな話だけれど、燐に懐きに懐いていたあたしと、満更でもなかったらしい燐、その頃はまだひーくんが生まれる前の話であって、あまりにも一緒にいて離れようとしなかったこともあって、決めたとか。

だから燐は君主として、あたしは君主の燐の奥方になるべく稽古などをこなしてきた。


母からよく言われていた。

「燐音様の支えになりなさい」
「燐音様のためにありなさい」
「燐音様を守りなさい」

それが燐音様のためになる、そう教えられてきた。大変な稽古だって、難しくて泣きたい時だって、燐がいつも優しく頭を撫でてくれたらそれだけで頑張れた。

「優希はえらいな」なんて言いつつ、よしよしとしてくれる。燐が全てを認めてくれていた。

だから燐の言うことがあたしの世界であり、燐のためにありたいと思ってた。


あたしの知らないところで燐が何か言われているのは、なんとなく知っていた。でも、なんでみんながそんなことを言うのかまでは理解できなかった。燐が間違ったこと言ってるの?燐はあたしの知らないことを知ってるのに、教えてくれるのに。確かにお外は危ないからダメって聞いてるけれど、燐は「俺は君主だから、みんなを守るためにいろんなことを知らないといけないんだ」って言ってたよ。


燐に「俺が守るから」と言われて手を引かれて初めて出て行った外の世界は、自然と不安とか恐怖なんてなかった。むしろ、燐から聞いていた話よりも何十倍もワクワクさせられた。キラキラしてた。

だからこそ、興奮冷めやまぬまま、里に戻った時、何が起きたのか正直最初は訳がわからなかった。突然、里のみんなに捕まえられて、されるがままに自分の体は引っ張られ、繋いでいた燐の手は離れていた。気づいた時には、内側からは見慣れないところ。

あぁ、座敷牢ではないか…と気づいたのは、燐と繋がっていた手の熱が冷めてきた時だった。


「何故、里の外に出た」
「燐音様と言い、お前も何故外に出る」
「やはり、燐音様はおかしいのではないか」
「燐音様は次期君主なのに」
「外にばかり行ったせいで、狂ってるのではないか」


耳に入ってくるのは、燐の行動、発言、考えが理解できないと言う言葉ばかり。ここで初めて燐がこんなにも悪く言われていることを知った。悲しくなった、痛かった、息が上手くできなかった。

いつもいろんなことを教えてくれる燐。
みんなのことを考えてくれてた燐。
誰よりも頑張ってきてた燐はいつだって刺激をくれた、こんな否定的なことは言わなかった。

なのになんで悪くいうの、?
燐は悪くない、燐が悪く言われているのをこれ以上聞きたくなかった、燐を悪者にしたくなかった。ただ、それだけだった。

ポタポタと目から何かが溢れる。目頭が熱い。


「燐じゃない…燐は悪くない…全部あたしのせい…」

その後、何を言われたかなんて正直記憶にない。ただ覚えているのは、ずっとそばにいたあたしが燐に悪影響を及ぼしたという理由で決まったのは里から出て行くことだった。

あぁ、今思えばそんなの一時凌ぎにもならないのに、って思う。勝手に行動して、自分のせいにして。ただ、燐は頭が良いから、その話を知って、上手く立ち回ってくれるかもしれないって思ってた。


「燐はいつもそばにいてくれて…あたしは何もしてあげられなかったからっ…燐のためにしてあげたかった、あたしは燐の許嫁だからっ、燐の支えにならなきゃって…」


でもバカだよね…里を追放されたら、許嫁も何もなくなるのに。ただあの里で燐の居場所がなくなるのが一番辛かったから、燐にはひーくんがいて、君主にならなきゃいけなくって、あぁ、自分で何を言ってるのか段々わからなくなってきた時、息が上手く吸えなくてずっと俯いていた顔を上げようとしたら、突然身体中に何かが被さってきた。被さってきたものは、ギュッと力が入り、あたしは身動きが取れなくなる。


「ほンっとにバカだな…っ」


さっきより近い距離で燐の声がする、耳元で燐の震える声がして、ギュッと後頭部にも温かいものが包んでおり、抱きしめられてるんだと、それが燐だと気づいた。



「俺は優希がいたから、頑張れたンだ。なのに…勝手にいなくなるのはおかしいだろっ…」












「優希は俺のこと、もう好きじゃない…?」

そう聞けば、抱きしめられたまま、優希はふるふると首を左右に振る。その反応に改めてホッと安堵する自分がいる。確信があるからこそ、更に聞いてみた。


「俺に新しい許嫁ができたって言ったら、優希はどうする」


その瞬間、優希の体が強張るのがわかった。言葉としての反応はない。そっと体を引き離しておでこにコツンと自分のおでこをくっつけて、両手で頬を包んで目線を合わせれば、すごく泣きそうな表情を浮かべている。


「他のやつと結婚するってなったら、優希は」

ここまで言葉にした瞬間、壊れたようにブワッと優希の目から大粒の涙が溢れ出す。

「ゃ…」


たかが外れたように、まるで小さい子供のように「ゃだぁぁああっ」と大声をあげる優希。両手を伸ばして、擦り寄ってくる姿はまるで昔に戻ったようだ。嗚咽を繰り返し、首に手を回してギュッとしてくる優希をよしよしと宥める俺は、我ながら性格が悪いなと思ったが仕方ない。それだけ優希が好きだから、だからこそ離れていた今までの不安を埋めるべく、実感したかった。

「安心しろ、今も昔も俺の嫁さんは優希だけだよ」

(やっと戻ってきた俺の大切な人)

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