娘と一彩2



※娘と一彩1より前の話



「まっま」
「なあに、蓮」




洗濯物を畳んでいれば、ぽてぽてとまだ慣れない様子で歩いて来る蓮。さっきまでテレビを見ていたはずなのに、あたしがちょっと視界から外れたことに気付いて来ちゃったかな。だって見ていたテレビの音は変わらず聞こえてきてるから。




「まっま」
「はいはい、おいで」
「んぅ」




傍までやってきて、腕を絡めて来るから多分寂しくなったんだろう。よいしょっと抱っこしてあげれば、胸元に顔を擦り付けて甘えて来るからよしよしと撫でてあげる。




「パパもそろそろ帰って来るかな〜?」
「ぅ〜」



さっき、スマホに帰るって連絡が入っていたからそんなに遅くならないはず。蓮は、パパという単語に反応して顔をモゾモゾと動かして見上げて来る仕草がまた可愛らしくて、ふふっと笑ってしまう。




「ただいま〜」
「あ、パパ帰ってきたよ」
「ぱっぱ!」



玄関の方で扉が開く音と一緒に燐の声。蓮に帰ってきたことを言えば、蓮はガバッと体を動かしてぽてぽてと次は玄関に行ってしまった。パパの帰りも待ってたのかな、と思ってその小さな後ろ姿を見送っていれば「んやぁ〜!」なんて蓮の泣きそうな声と共に、ぽてぽてと戻ってきてしまった蓮。その表情は泣きまではしないけど、何とも浮かない渋い表情で、何事かと思わずにはいられない。



「蓮どうしたの」
「んぅうう」



結局、またさっきと同じように抱きついてきてしまって、違うところといえばさっきよりもしっかりとくっついているということ。燐が何かしでかしたのかと思ってみるが、実際は違っていたことをすぐに悟る。




「姉さん、お邪魔するよ!」
「ひーくん、いらっしゃい」
「蓮、一気に逃げたなァ」




いつもの笑顔でやってきたのはひーくんとケラケラと笑いながらやってくる燐。蓮は、ひーくんを見て逃げてきたのは一目瞭然であたしはもはや苦笑いしか浮かばない。



「今日は蓮に渡したいものがあるんだ」



何故かひーくんを嫌がる蓮は、ぎゅっとあたしに抱きついたまま動かない。頭をそっと撫でながら、あたしが代わりに「なにかな?」と尋ねてみた。ひーくんは手にしていた大きな袋からガサガサと大きな包みを取り出して蓮の前に座り込む。



「僕があけても良いかな」
「うん、代わりにお願い」



ウム!と答えてくれたひーくんは、そのまま可愛くラッピングされた包みをあける。その間も蓮はピッタリくっついたまま離れない。それでも気にせずに事を進めるひーくんは中身を取り出して「蓮に買ってきたんだよ!」と言ってくれて、あたしが嬉しくなってしまった。




「蓮、ほら。見てみて」
「…んぅ」




ポンポンと背中を叩いて見れば、渋々と言った様子で蓮が顔を上げてくれて、横目がちにチラリとひーくんの方を見た。その瞬間、蓮は今までの反応がウソみたいに自然とくっついていた握っていた手の力も弱まって視線は完全にそれに釘付けで。





「蓮のお友だちのウサギさんだよ」
「ふふっ、蓮良かったね。ウサギさんがお友だちになってほしいって」
「…うちゃっ」
「蓮、お友だちになってくれるかな」



それは可愛らしいウサギのぬいぐるみ。サイズは大人からすればそんなに大きいものではないけれど、蓮にとっては抱えるぐらいのサイズ感。ウサギの腕を動かしながら蓮に話しかけるひーくんは、まるでお兄ちゃんのようで微笑ましい。完全にひーくんから気が逸れている蓮は、ひーくんによって動くウサギのぬいぐるみしか眼中になく、気づけばあたしから完全に離れてしまい、そのウサギのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。




「うちゃ」
「よかったね、蓮」
「まっま!うちゃ!」




どうやらひーくんの買ってきてくれたウサギのぬいぐるみはお気に召したようで、嬉しそうに見せてくれる蓮。代わりにひーくんにありがとうと伝えれば、ひーくんも嬉しそうに笑ってくれた。




「蓮に気に入ってもらえて良かった!」
「完全に一彩のこと忘れてそうだけどな」




燐の言った通り、結局この後またひーくんの存在を認識した蓮は、ウサギのぬいぐるみを抱えたまま逃げ出すのだった。

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