クレビと対面



故郷を離れて数時間。途中、泣き出しちゃうこともあって、どうしたものかと思う時もあったけど、無事何とか戻ってきたのは、数ヶ月前まで暮らしてた街。


移動中、ずっと屋根のあるところにいたこともあり、眩しいぐらいの日差しのせいで目が慣れない。それはきっとあたしだけじゃないだろうから、と思って抱えているものもそっと影を作ってあげた。









「優希ちゃんおかえりなさいっす!」
「優希さん、長旅で疲れたでしょう、お疲れ様です」
「優希はん、こっちの席空いとるで」
「てめェら、燐音くんが帰ってきたってのに、俺っちには一言もねェのかよ」



久々に戻ってきたその足で、向かったのは昔のバイト先。カフェシナモンとかでも良かったんだけど、あそこは逆に顔見知りとの遭遇率が高過ぎて今はまだいろんな人に会う余力もないので、こっちにさせてもらった。既に集まっていたニキくん、HiMERUくん、こはくんたちに出迎えてもらって、数ヶ月ぶりだというのに、懐かしさと嬉しさが込み上げてくる。燐やひーくんに比べたら、会えなかった時間は短い期間だったというのに、こんなふうに思うのはここで過ごした時間と内容の濃さを実感させられる。


みんなはまるでいつものような反応で、それがまたおかしくて、燐も思わず言わずにはいられないようで、けどその表情は嬉しそうだ。







「優希はん、名前なんやっけ」
「蓮って言うの」



こはくんが心なしか少しだけ落ち着かない様子で尋ねてきたのはみんな初めましてとなる娘のことで。日差しを遮るために覆っていたケープを外しながら、「蓮ちゃん、起きてるかな〜」と声をかければぱっちり開いた状態のクリクリのお目目と視線が合う。


「蓮です、こんにちはー」
「こんにちは、ごっつ小さいなぁ」
「めちゃくちゃモチモチしてそうなほっぺたっすね!」


蓮は、突然開けた視界に映る人たちが初めましてばかりで食い入るようにマジマジと見つめ返す。言葉を喋れなければ、まだ人見知りも始まっていないはず、ただただジッと彼らを見るだけ。



「泣かないのですね。人見知りとかはまだですか?」
「うん、やっと夜泣きとか落ち着いてきたかな。人見知りとかはもう少ししたらだと思う」



抱っこ紐によって括られている状態の蓮は手足をぷらぷらさせている。たまに、何を思ったかわからないけれど、ぶらんと垂れた手足をバタつかせて何かを表現しようとする。


「蓮、お兄ちゃんたちいっぱいだね」
「可愛らしいなぁ」
「抱っこしてみる?」


遠慮がちに蓮を見つめるこはくんに聞いてみれば、案の定驚いた反応を浮かべてしまって、くすりと笑ってしまった。



「蓮、こはくお兄ちゃんが抱っこしてくれるって」



抱っこ紐を外して、蓮をこはくんにそっと預けてる。蓮は割と平気な様子であたしとこはくんを交互に視線を配らせていて、どちらかというとこはくんの方が落ち着かない感じだ。おずおずと蓮を抱える姿はあまり見ない彼らしくないもの。



「こ、こうで良いんか…?」
「うん、大丈夫だよ。良かったね、蓮」


蓮はジッとこはくんを見つめていて、たまに足をバタバタと動かすから、その度にこはくんがどうすれば良いかわからずオドオドしてしまう。



「桜河、先ほどから震えてますが大丈夫ですか?」
「うっ、HiMERUはん…ちっこ過ぎて力加減がわからんのや…」
「こはくちゃん、ビビり過ぎっしょ!」
「ほんと可愛いっすね〜、腕とかちぎりパンっぽいっす!」
「…ニキ、てめェ…食うなよ…?」



先ほどから、ほっぺモチモチ発言からちょっと気になってはいた。他の人が言うなら流せるんだけど、言ったのかニキくんってこともあって、あえて流してたけど…。今回のちぎりパンって例えにはさすがに苦笑いしかでない。直結する思考が食べ物なところも相変わらずで、燐を始めとするHiMERUくんもこはくんもちょっと引いた表情を浮かべていたりして。ニキくんは「さすがにそんなことはしないっす!」って豪語するも、直後にぐぅ…とお腹の音が聞こえてきて説得力を掻き消した。



「ニキきゅんに食われちまわねェようにパパが守ってやっからなァ」



燐は、ニキくんから守るように蓮を器用に抱っこするも、目線が元々合わないので正面から見えるわけではないが、一瞬ぐずった声が耳に入る。



「んぅ…ぅ…っぐ」
「あぁ、泣いちゃったっす…、パパが怖いって」
「ァアッ?」
「うぅっ、ぐっ」
「はいはい、蓮おいで」



ぐずったは気のせいではなく、ニキくんの発言に燐が噛み付けば、更に蓮の不安定な声色で大きさを増す。このままだとまずいと思って、そのまま燐から蓮を預かれば、蓮はすぐにぐずりも収まってまた静かになる。



「さすがですね、優希さん」
「まだまだだよ…、いろいろ慣れないことばっかりだもん」
「仕事復帰は?」
「うーん。もう少し落ち着いてからできる仕事があればって感じかな」
「蓮ちゃんの面倒で大変だろうし、できることはお手伝いするんで言ってほしいっす!」
「みんな、ありがとう」

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