里の子供と



※出産後故郷滞在中
※燐音不在


「優希様!」


蓮を抱っこしながら里の中を散歩していれば、不意に名前を呼ばれて足を止める。見れば故郷に戻ってきてから、ちょこちょこあたしと一緒に遊んでくれてるさっちゃんだった。


「さっちゃん、こんにちは」
「こんにちは!優希様」


故郷に戻ってきたばっかりの頃は、燐のおかげもあって居場所がまたできたと言ってもすぐに何もかもが元通りになるわけではなかった。大人たちと言えば、今までのことが自分たちの中で処理しきれずぎこちない様子だったし、あたしもまた大きく変わってないこの里なのに、自分が本当にここにいていいのか、と自問自答する時が度々あった。

その中で何も知らないからこそ、純粋に迎え入れてくれていろんなことを教えてくれたのは里の子供たち。その中でもさっちゃんと言えば、いつだってお腹の中にいた蓮と会えることを楽しみにしてくれたのは記憶に新しい。会った時の挨拶だって、帰る時の挨拶だってお腹の中の蓮に声をかけてくれていた。一人っ子であり、里の中で最年少でもあるさっちゃんにとって、下の子ができるというのは初めてであり、とても待ち遠しかったんだろう。その姿は、いつかの、それこそひーくんが生まれる前の時の気持ちを呼び起こさせられて、あの時のあたしと同じで懐かしくなってしまう。



「蓮ちゃん、こんにちは」



しゃがんで腕に抱えた蓮が見えるようにしてあげれば、さっちゃんはいつものように蓮に笑いかける。まだ人見知りもなければ、もちろん言葉も喋れない蓮はただただ、ジッとさっちゃんのことを見つめるだけ。



「蓮、さっちゃんこんにちはって」
「蓮ちゃん、今日は母様とおさんぽ?」
「そう、外も過ごしやすいし機嫌も良いからね」
「えへへ、よかったね」



さっちゃんは嬉しそうにニコニコと笑いながら、蓮の小さな手に触れる。ムチムチの手の平に、そっと添えられるように差し出した指を蓮は無意識ながらに今できる限りの力でギュッと握った。



「蓮ちゃん握ってくれた…!かわいいっ」
「蓮はさっちゃんと会えてうれしいのかな〜。おねえちゃんに会えてうれしいね〜」
「あたしも蓮ちゃんに会えてうれしいっ!」


掴まれた指を可能な限り加減を考えて上下に動かす。されるがままの蓮は動かされてる手に気に留めることなく、未だにさっちゃんをジッと見つめていれば、さっちゃんの笑顔につられて笑みを浮かべる。


「優希様!蓮ちゃん笑ったっ!」


さっちゃんは嬉しそうに声をあげて更に表情はニコニコに。蓮もつられて笑うものだから、口からはヨダレがダラダラと出ているが、生まれてきてくれたこの子がこうやって歓んでもらえるなら本望だ。



「お腹の中にいる時から、いつもこうやって構ってもらえてうれしいね」
「蓮ちゃん好きっ!」



 
どんな子であれ、蓮を受け入れてくれる人がいてくれたことが嬉しくてあたしは胸の中で何かが込み上げるのを感じた。

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