さびしんぼな娘とパパ



「蓮、めっでしょ!」
「ぶぅ…」



事の発端は蓮のやった行動を優希が注意した時だった。蓮はふてくされた反応をしてしまう。蓮はお気に入りのウサギのぬいぐるみを抱えたまま、プイッとしてるし、優希はそんな様子にため息をつく。



「ほら、蓮」
「やぁっ!まっま、やっ!」



蓮はイヤイヤモードのスイッチが入ったようで、優希の腕を振り払う。優希は仕方ない、という表情を浮かべて蓮に聞こえるように、いつもより大きめの声でゆっくりと独り言を呟く。



「じゃあ、ママはいなくなります」



この言葉は本意ではないのはわかっているので慌てはしなかった。蓮はイヤイヤモードのスイッチで反応はない。優希は俺に、ちょっと買い物行ってくるね、なんて言って出ていってしまった。ちなみに、蓮の反応を深く気にしている様子はなさそうだ。









「蓮、パパと遊ぶかァ?」
「んぅ…」


どうやら、虫の居所自体が悪いのか、俺が話しかけてもウサギのぬいぐるみをギュッと抱きしめて何とも言えない表情で見つめてくるから、これ以上変に構うことをやめようと思った。なので、蓮が見える位置に座って、次の仕事の確認をしながら蓮の様子を度々確認することにした。










次の仕事の内容に目を通していた時だった。気づけば仕事の方に集中してしまっていて、蓮だって視界の端にいたしな…と思っていたら、突然ぽてぽてと音がするかと思えば、お気に入りのはずのうさぎのぬいぐるみを引きずりながら蓮がやってきた。



「どうした、蓮」



見るからにさっきまでとは違って元気はない。しゅんとした表情で、口元を何やらモゾモゾさせている。声をかけても何も言わず、でも何かを言いたそうに立っている蓮が不思議で、目線を合わせてもう一度「蓮?」と優しく声をかけた。




「…まっま」




蓮は、優希がいないことに気づいたのだろう。蓮は消えそうな声だ「ママ」と呟いた。俺は「ママなら、いないぞ?」と返せば、蓮の瞳がだんだんとうるうるし始める。



「まっまぁ…」



さっきのやりとりを思い出してなのか、それとも遊んでいてママが突然消えたことによるものなのか、蓮の中で寂しさが込み上げてきたのだろう。段々と嗚咽もし始めて、あぁ、これはまずいと悟るが現状を突然変えることはできない。




「ま"っ"ま"ぁ"ぁ"あ"あ"」



ポロポロと目からは涙が止まることを知らず溢れて声を上げてとうとう泣き出してしまった。泣いた蓮をあやすのは優希のほうが上手いのだが、今回は優希に叱られたのが事の発端なので、いつもと意味合いが違う。



「蓮、おいで」
「ぱっぱぁ"ぁ"あ"あっ、ま"っ"ま"ぁ"っ」



素直に駆け寄ってきた蓮を抱き抱えてやれば、ギュッと蓮の手が俺の服を握りしめる。グリグリと顔を押しつけて泣き喚く蓮の頭をポンポンとしてやりながら、視界に入るのは虚しくも横たわる完全に置いてきぼりのうさぎのぬいぐるみ。




「ママのところ行くかァ」
「っぐ、んッ、ぅ…んぅッ…」



くぐもった声が胸元から聞こえてきたので、俺は出かける身支度を簡単に済ませることにした。


いつもなら、外に出て楽しそうにキョロキョロしながら動き回る蓮も今日ばっかりは静かに浮かない表情のまま腕の中。たまに寝てんのか?と思って顔を覗き込んでみるが、俺に寄り添いながら不安そうに自分の親指を口に咥えていた。


「蓮」


名前を呼んでも返事はない。ポンポンと背中を叩いてやっても反応はない。完全にしょんぼりしてしまって、早く優希と合流しねぇと。



いつもどこに買い物に行ってるかとかは、わかってることだったので、使うであろうルートを辿って歩きながら、そんなことを思っていれば、「あれ」なんて聞き慣れた声が耳に入ってくる。視線を移せば、買い物袋をぶら下げてまさに今から帰りますって感じの優希の姿。まさか俺と蓮がここにいるなんて思ってもいない優希は、面食らった表情を浮かべて立ち止まっている。




「ほら、蓮。ママだぞ」



腕の中で小さくなってしまった蓮に声をかけるが、蓮は指を咥えたまま俺の胸板に顔を埋めている。さっきのことを気にしてなのか、もう一度名前を呼んでやれば、チラリと控えめに、少しだけ居た堪れなさそうな雰囲気で優希に視線を向ける蓮。


優希と言えば、そんな蓮の反応を見ていろいろ察したのだろう。元はそんなに気にしてもいなかった訳であって、優希は優しく笑って「蓮」と呼ぶ。目の前までやってきた優希は、そのままそっと蓮のぷにぷにの頬を撫でた。



「蓮、パパと来てくれたの?」



「ありがとう」と呟いた言葉を聞いて、優希の笑顔を見て、安心した蓮はそのまま「まっま…」と優希の方に身を乗り出した。危ないと思いつつ、優希の持っていた買い物袋を受け取りつつ、蓮を優希に受け渡せばそのまま蓮はギュッと優希にくっつく始末。



「寂しかったのかな〜、蓮ちゃんは」
「んぅ…」
「パパも蓮もママ大好きだもんなァ」
「ふふっ、ママもパパと蓮が大好きだよ」


怒ることだってあるけど、いつだって君が大好き。

[ ]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -