娘と電話



クレビの奴らと打ち合わせを終えたタイミングで突然震え出すスマホ。取り出してみて発信者を見れば、優希の名前が書いてあってどうしたものかと首を傾げる。


「わりぃ、ちょっと電話出るわ」


画面をタップしてみてスマホに耳を当てて見るが、受話器の向こうから反応はない。優希からの電話で声が聞こえないことは今までにないことなので、正直何かあったのかと不安が過ぎる。


「どうしたんですか、天城」
「…優希から電話なんだけど、声が聞こえねェんだわ」


そばにいたメルメルが俺の行動を見て、不思議に思ったのだろう。声をかけてきたので現状を伝えれば「電波が悪いとかでは?」と返された。


「いンや…、確認したけど電波は問題ねェよ」


スマホを耳から離した際に電波は確認してあるから間違いない。画面には通話中の時間もカウントされていたので、おかしすぎる。誤って押してしまったのであれば気付くだろうし。



「優希?おい、もしもしっ」




段々と募るのは不安ばかりで、自然と声も大きくなる。優希からの電話で何かあったのか、話すことが困難な何かなのか、となれば必然的に気になるのは大切な我が子の存在だって不安になるわけで。








「ぱっぱ!」

「は、蓮…?」


突然過ぎて耳を疑った。

けどそれは、聞き間違いではない。


「ぱっぱ!ぱーぱ!」



電話口から確かに聞こえるのは、可愛い愛娘の蓮の声で、何度もパパと呼んでくれる。それと一緒に物と物だろうか、何かがぶつかるような音も聞こえてくるではないか。



「蓮…?パパの声聞こえるか?」
「あーい!ぱっぱ!」
「蓮、ママは?」
「まっま!ぱっぱ、しーっ!」


ごめんな、蓮。お前の言いたいことが理解できないパパで。しーってなんだ、トイレか…?ってことはそばに居ないのか?と考えを巡らせるがすぐに結論は蓮の口からポロリと出てくる。



「まっま、ねんね。ぱっぱ、しーっ」
「ンだよ…寝てんのか」


蓮の口から、ねんねという単語が出て肩の力が一気に抜けた。優希は寝てるだけなようでホッとする。とりあえず何事もなかったことに安堵していれば、ふと疑問に思うことがひとつ。



「蓮」
「んぅ?」
「どうやって電話してきたんだ?」
「ぱっぱ!あ、まっま!やぁ!やーあ!」
「蓮?蓮っ???」



蓮がどうやって電話をしてきたのか。優希のスマホの操作をまず蓮ができるはずがない。答えられないのはわかってはいるけれど、どのようにして今このスマホと繋がってるのかが気になった俺はつい蓮に問いかける。蓮は何かを伝えようとしてくれたが、電話の向こうで何かに気を取られて俺の声は届かない。

わかるのは、電話の向こうで蓮の何か嫌がることが起きているということだ。








「もしもし?燐?」
「…優希?」
「まっま!やぁ!ぱっぱ!ぱっぱ!」



電話の向こうからすぐに聞こえてきたのは優希の声だった。さっき、蓮が寝ていると言ったはずなのに、優希の声がするということは起きたのだろうか。電話口の向こう側で蓮が駄々こねる声も聞こえてくるから、おそらく蓮からスマホを取り上げたのだろう。


「ごめんね、蓮がスマホ触っちゃったみたいで。何かあった?」


優希は本当に寝ていたのだろう。起きたら蓮がスマホをバシバシと叩いてるわ、画面を見たら通話中で焦って取り上げたらしい。さっきから聞こえた音はそういうことかと納得する。優希からの質問に関してだって、今通話中だからこそわからないが、通話を切ればすぐわかる。


「いや、蓮がかけてきたンだよ」
「へっ…、蓮が…?」


電話口の優希も驚いた声を漏らすので、やっぱり何故電話をかけてきたのかがわからない様子。俺からかけた電話を蓮が押したならわかるが、今回のは逆だかんなァ…。



「あ、蓮のお昼寝、寝かしつけながら料理レシピのアプリ開いてたんだけど、そのまま寝落ちちゃったから、それで触れたのかも」



スマホをいじる問題点として最初のロック画面をどう解除するかなのだが、優希の話が本当であればロック画面の問題は一気に無くなるわけで。あとは、多分適当にぽちぽち触っていて、たまたま俺に電話がかかったんだろう。まず電話をかけた相手が俺で良かったと思う。



「ねえ、パパもうちょっと時間平気?」
「ァアッ?平気だけど」
「ごめんね、蓮がさっきからお話ししたいみたいで」



優希が俺のことをパパと呼ぶ時は大体蓮の目の前で話す時だ。確かに電話の向こう側から、蓮の何やら落ち着かない声も聞こえてくる。優希はモード切り替えるから、画面見ててなんて言って電話の向こうで蓮に話しかけているのがわかった。




「ぱっぱ!」


どうやら優希は、通話からビデオ通話に切り替えたようで、画面いっぱいに蓮の顔が突然映し出された。優希は、近い近い!なんて言いながら、なんとか距離をうまく収めてたりする。



「蓮、パパ見えるかァ?」
「ぱっぱ!みーう!」
「パパも蓮のこと見えてンぞ〜」


画面に映る蓮は嬉しそうにキャッキャとしていて、あまりにも微笑まし過ぎて頬の筋肉が自然と緩んでしまう。


「蓮、帰るまでママといい子に待っててな」
「あーい!ぱっぱ!ばーばい!」


通話できて、もう満足したのだろう。画面の中でそれはもう楽しそうに小さな手をぶんぶんと振っているため、俺も合わせて手を振り返す。
バイバイって、我が子ながら切り替え早ェな。

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