天城家といちご



時計を見ればお昼ご飯から数時間、夕飯までにも数時間まだ残されてる頃合い。お昼寝も終えた蓮は、最近お気に入りのうさぎのぬいぐるみを抱えて遊んでいる。


「蓮」
「んぅ?」
「おやつ食べよっか」
「まんま!」


名前を呼べば、キョトンとした表情で顔を上げてくれて可愛らしい。おやつを食べようと伝えれば、持っていたぬいぐるみから完全に気が逸れてしまってバンザイするもんだから、ウサちゃんがコロンと転がってしまって、ちょっぴり不憫。


「じゃあ、いい子に準備してね」
「あい!」


準備、といっても大きなことではない。蓮のための専用の小さな椅子のそばで待機すること。あとは、あたしが準備していけば、その椅子に抱っこして座らせてあげれば良いだけ。冷蔵庫に入れてあった小皿とスプーンを取り出して戻れば、ちゃっかりウサちゃんと一緒に椅子のところでソワソワしてる蓮の姿。テーブルに一旦置いて、蓮を抱っこして椅子に座らせれば、ちょこんと素直に収まってくれる。ちなみにお友達のウサちゃんは蓮を座らせてからソファに座らせておくのが定位置である。


「今日はいちごのヨーグルトだよ」
「あーい!」


いちごを潰してヨーグルトに混ぜて作ったいちごのヨーグルト。上には小さくカットしたいちごも乗せていて、最近いちごがブームな蓮はもうこれだけで凄く嬉しそうにしている。


「はい、あーん」
「あー」


スプーンに一口分、すくって可愛く開いたお口に入れてあげれば、んぅ〜としっかり口に含んでもぐもぐする。それもすぐに口の中から飲み込んでしまうのだが、最近この時の蓮はとある動きをする。


「んぅ〜!っちぃ!」


両頬に手を添えて、目をキラキラしせながら「おいしい」と言うのだ。まるで初めて食べて感動した時のようなリアクションをするのは、お菓子を食べて感動してる司くんのマネなのかな…って思ったりもしてるんだけど、あくまで予測の話だ。


「おいしい?」
「まっま!っちぃ!」


おいしいと聞けば、おいしい!と興奮気味に返してくれる言葉はまだ辿々しいけど、気持ちが伝わるからいいのだ。蓮は早くまた食べたい!と言わんばかりに口をあーんと開けて待つ。







「はい、ごちそうさまでした」
「ちった!」

最後の一口まで綺麗に平らげ、空っぽになったお皿を見せながら締めの言葉を言えば、これもまた同じように言うのはみんなのことを結構見てるんだなと実感する瞬間で。よくできましたと褒めてあげれば、嬉しそうにモジモジしていて我が子ながらの可愛さに癒された。












「ごちそーさん」
「ちった!」


夜になって、燐も帰ってきてから3人で夕飯を食べてごちそうさまをする。なので、燐にヘタを取ったあとのいちごを出してあげた。



「いちごだなァ、蓮」
「っちぃ!」


いちごを見るなり、昼間の時と同様嬉しそうにする蓮にカットされたいちごをちまちまと口に運んではもぐもぐさせる。


「今日のは甘くておいしいんだよねー」
「んぅ!」
「めっちゃ美味そうに食ってンな」


やっぱり蓮は、口にするたびに両頬に手を添えて、首を左右に振りながらおいしさを表現をして、そんな姿を見て微笑ましく笑う燐は優しいパパだ。


「ママの分は?」
「んー?あたしはさっき切ってる時に、ちょこっとつまんだから食べていいよ」


燐はいちごをひとつ、口の中に放り込んで咀嚼する。チラリと燐を見るが、すぐに蓮が口を開けてあーんしてることに気づいて目線を逸らしたまま伝えれば、あたしが蓮の口に入れてあげた後、燐の方から「あーん」なんて声がした。何事かと思って、つい見てみれば燐があたしの口元にいちごを差し出していて、一瞬だけ状況が飲み込めずに固まってしまう。


「ほら、ママもあーん」


燐は楽しそうに笑っていて、やっと現状を理解したあたしは素直にそのいちごを口にすれば「うまい?」なんて聞かれて「おいしい」と返す。


「ぱっぱ!!!」
「あンだよ、蓮のはママがくれてんだろ〜?」
「ぱっぱ!!!んっ!ぱっぱ!」


その様子を見ていた蓮は、何故かテーブルをバンバンと叩いては燐にちょうだいと言わんばかりに両手を必死に差し出す。


「蓮のは、こっちだよ。パパのは大きいから」
「やぁ!ぱっぱ!んぅ!」


こうなってしまっては、困ったものだ。蓮は聞く耳を持たず、どうしたものかと思いながら、とりあえず蓮の行動を見てて、口にするようだったら改めて目の前で小さくしてあげよう。このままじゃ喉に詰まらせたりしたら大変なのだ。そう話をつけて、燐が蓮に赤くて艶やかないちごをひとつ手渡せば、蓮は嬉しそうにいちごを両手で受け取る。



「まっま!」


キラキラと嬉しそうにいちごを見つめていたと思えば、蓮はそのいちごをあたしの前に差し出してきたのだ。


「まっま!あー!」
「…ママにくれるの?」
「んぅ!まっま!あー!っちぃ!!!」


燐と思わず目を見合わせてしまう。どうやら、蓮は燐の行動を見て自分もやりたいと思ったのだろう。必死にいちごを食べさせようとしてくれる姿が愛らしく嬉しくて、蓮の手の届く範囲に顔を近づけて「あーん」とすれば小さな両手で無造作ながらもいちごを口の中に入れてくれた。



「まっま!っちぃ…?」
「うん、蓮のくれたいちごおいしいよ」


口の中で咀嚼すれば、いちごの甘味が広がる。蓮はこれまた燐みたいに「おいしい?」なんて聞いてくるから、きちんとおいしいと伝えれば嬉しそうにキャッキャと喜ぶ。



「ぱっぱ!もっこ!」


燐にもう一個、とおねだりしていで燐がもう一個渡してあげれば、それをまた「まっま!あー!」って言いながら差し出してくれたのだが、ここで燐が声を上げる。


「蓮、パパにもちょーだい」
「やっ!まっま!」
「…蓮ちゃんよォ…」


あからさまに拒否されて、寂しそうな表情の燐。蓮に悪気がないのはわかっているけど、ちょっぴり燐がかわいそうで、でもくすりと笑ってしまう。


「ふふっ、蓮。ママはお腹いっぱいだから、パパにもあげて?」
「…ぱっぱ!あー!」


蓮はあたしといちごを見比べて、そのいちごをあたしから燐へと差し出してくれた。ここでまた拒否られたら、燐がそれこそ気の毒すぎると思っていたが、蓮は素直でいい子だからそんな不安は最初からいらなかった。


「ン〜、ママの切ってくれたいちごはおいしいな」
「いちこが甘くておいしいんです」
「まっま!っちぃ!」
「ふふっ、よかった。また食べようね」

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