一彩に報告



※出産前


妊娠発覚してから数日。燐と相談してから、まずは安定期に入るまで公式発表はしない。けど、仕事への配慮をしなければ、もしものことを考えて慎重に動くべきだから、マネージャーは知ってるにせよ、他の仕事で関わりの深い人たち、特にニューディ関連の人たちには伝えようって話になった。

あとは、身近で問題とまでは言わないけど、気になってるのはひとつだけ。



「姉さん!お邪魔するよ!」


いつものように大きな声で遊びに来てくれたひーくん。玄関で靴を脱いで、まずは洗面所に行って手を洗うまでがいつもの流れで、ドタバタと慌ただしく動いていて思わずクスリと笑みが出る。


「相変わらず元気だなァ」
「ウム!兄さんも来てたんだね!」
「今日は燐がご飯作ってくれるからね」


ひーくんの声がとても大きかったものだから、燐も反応せずにはいられなかったようでキッチンから声をかける。普段なら、あたしがキッチンにいるんだけれど、あたしはソファーに座っていて、燐がキッチンにいるという光景はやっぱりちょっと新鮮だった。燐がお酒取りに行く時とかでたまにあるんだけど、それとはまた今回は訳が違うから。



「うん?兄さんが…?」
「そう、燐が」


ひーくんはキョトンとした表情で、あたしの言葉を繰り返し呟く。多分、処理しきれてないのだろうから、あたしもまた同じ言葉を復唱すれば、キッチンからまた燐の声がした。



「ニキや優希ほどじゃねェけど、ちゃんと食えるモノは作れっからな」
「だいじょーぶ、心配してないからね」
「兄さんの手料理…!」


ひーくんは、案の定嬉しそうにソワソワし始めて、一緒にソファーで座ってるのに、何度も気になってキッチンをチラチラ見ているもんだから、可愛い過ぎて表情が緩んでしまう。










「けど、なんで兄さんが料理してるんだい?」



ひーくんは、ふと浮かんだであろう疑問を口にした。燐と言えばまだキッチンにいて、何か調理をしている音がするからまだこちらに来るのはまだ先だろう。ひーくんを呼んだのもあたしたちの方で、名目上ではご飯を一緒に食べようなのであたしたちが呼び出した真意も気づいてないはず。



「あたしが最近ちょっと料理するのが辛くてね」
「姉さんが?」
「そう、ちょっと気持ち悪くなっちゃうの」



あえて的確な言葉を伏せて伝えれば、あたしの言葉の意味をどう受け止めたのかわからないけれど、ひーくんはピシッと動きが固まってしまう。まさかこんなにもわかりやすい驚きのリアクションが来るなんて思ってもみなかったから、逆に困惑してしまい「ひーくん…?」と名前を呼べば突然無言で立ち上がる。



「兄さん大変だ!」
「ンだよ、ご飯はもう少しでできっから待ってろよなァ」
「姉さんが病気かもしれない!!!」



突然の大声に次はビクッとわかりやすく体を震わせてしまった。ドッドッとうるさいぐらい脈を打つ心臓の音を感じ取りながら、思考回路が機能してないこともあり、ひーくんの大声と燐の驚きの声を耳にするだけ。


「優希、具合わりィのか?!」
「いや、えっ、大丈夫…、今ひーくんにつわりのこと言っただけで…」
「…つわり?」



とうとう燐もキッチンから不安そうな表情で駆け寄ってきて、あたしの身を案じてくれる。ひーくんに誤解を与えてしまったことにより、燐まで心配かけてしまって申し訳なく思いながら大丈夫と伝えれば、燐はそっと胸を撫で下ろす。傍にいたひーくんはあたしたちの会話を聞いて、次はキョトンとした表情を浮かべていた。



「一彩、落ち着いて聞けよ」
「ウム、兄さんわかったよ」


燐はひーくんに絶対に静かにするんだぞ、と念を押して言い聞かせる。ひーくんだって、そんなに小さい訳じゃないんだからと思うけど、2人のこんなやりとりもまた微笑ましく顔が綻ぶ。



「優希、妊娠してるんだ」
「にん、しん」
「そうなの、燐との赤ちゃんなんだよ」


燐にそっとお腹を撫でられながら呟いた言葉をまるできちんと飲み込むために復唱して咀嚼しようとするひーくん。加えてあたしも言葉を繋げれば、意味を噛み砕いて理解した瞬間、ひーくんの瞳がわかりやすくキラキラと見開いた。


「赤ちゃん!」
「だから、ひーくんはお兄さんになるね」
「僕が兄さん!」


続け様に赤ちゃん、お兄さんというワードを興奮状態で復唱するひーくんは、完全に燐に言われていた言いつけどころじゃなくなっていて、段々と声量も大きくなっていた。けど、それ以上に喜んでくれたことが嬉しくて、お腹にいるこの子の誕生をまた1人祝福してくれてると思ったら、あぁ早く会いたいという気持ちが募る。


「それはめでたい話だ!」
「だから、優希は今体調も安定しねェからよ…、俺がいねェ時とか優希のこと頼むぞ」
「ウム!まかせてよ!」



ねえ、聞こえてる?


パパもママもみーんな、あなたのこと待ってるからね。

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