一彩と赤ちゃん



※出産数ヶ月後
※藍良視点




「ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"」


どこからともなく聞こえてくる小さい赤ちゃんの泣き声。それは遠くの方で聞こえてくるため、どこかの子役としての赤ちゃんか誰かの赤ちゃんかなーって感じ。この場所に似つかな過ぎてちょっと違和感というか新鮮というか。

おれはこれからレッスン室に行かなきゃいけないし、声があまりにも小さく遠くの方で泣いてるように聞こえるから、わざわざ行く理由もないので、あんまり気に留めなかった。








のだけれど、





「やぁ、藍良!」
「ん"ぁ"あ"あ"あ"」
「…」
「こら、危ないよ!」
「ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"」




この光景はどういう事だろうか。
レッスン室に行くまでの間、耳に入ってきた泣き声はレッスン室の扉を開けた瞬間、耳の鼓膜へダイレクトに響届く。目の前にはいつもの笑顔のヒロくん。…なんだけど、その腕の中にはギャン泣きの赤ちゃん?えっえっ、さっきから聞こえてた泣き声なんだし、この子のなんだろうけど、この子は誰?!?!すごい泣いてるのにヒロくんあやせてないけど?!?!



「ヒロくん、その赤ちゃん…」
「ウム!可愛いだろう?蓮って言うんだ!」
「そうじゃなくて!おれが呼ばれた理由って何?!なんで赤ちゃんがいるわけぇ??!」



ヒロくんの腕の中にいるその赤ちゃんは、めちゃくちゃ喚くように泣き叫んでるし、なんならヒロくんの腕から逃げたいのか首が座ってないのかわかんないけど、めちゃくちゃ反り返ってるし、腕から逃げ落ちそうだし、ヒロくんの抱っこの仕方が危なっかしいんだけど〜!?!!!



「ほら、蓮。藍良が来てくれたよ」
「ぁ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ん"」
「え、えっと」
「藍良は、赤ちゃんの抱っこの仕方わかるかい?」
「え〜おれもそんなに上手いわけじゃないよぉ〜」
「あ"あ"あ"ぁ"あ"ぅ"」


すごい動いていて、変な抱っこの仕方になってるはずなのに、それを落とさないヒロくんもすごいと思う。この子のお母さんは?いないわけ〜?赤ちゃん1人にするとか、しかもヒロくんと一緒にさせるとか親の顔が見てみたいよぉ〜!



「ヒロくん…」
「なんだい、藍良。っと、蓮、危ないから動いちゃだめだよ」
「ヒロくん、泣いてる赤ちゃん子供は動物と一緒で言葉は通じないから…」
「動物であれば伝わる生き物だっているよ」
「…それはヒロくんが思ってるだけじゃ…」


っていうか、ヒロくんと赤ちゃんの泣き声に気を取られて気づかなかったけど、この赤ちゃん赤毛だし、どことなくヒロくんに似てない…?えっ、まさかそんなことってないよね…?おれの中に過ぎる予想は当たってたらとてもまずいもので、一気に別の不安が襲ってくる。


「…ねえ、ヒロくん…、この子って」
「…?あぁ、蓮だよ。蓮はね、僕の」
「や"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"」
「蓮っ、暴れちゃだめだよっ」
「ちょっと!落とさないでよぉ〜?!」



ヒロくんの口から肝心なところが言葉になるタイミングだというのに、また赤ちゃんが盛大に泣き声を上げて暴れ出す。さっきまでとは比べ物にならないぐらい、ヒロくんのことを容赦なく足蹴りして、小さな手で突っ張ってる。その様子が危なっかし過ぎて、見てるこっちもハラハラするし、でもどうすれは良いかわかんないよ〜!!!



「やっぱり蓮、起きちゃったね、ひーくんおまたせ」
「姉さん!」
「優希さん!」



オロオロしてたら、やってきたのはまるで女神のような救世主!優希さんだった!優希さんは、慣れた手つきで赤ちゃんを抱っこして背中をぽんぽんと叩く。



「あー、おしっこしちゃったのかな。おしめ変えようね」
「うっぐ、う"う"ぅ"…」



赤ちゃんのオムツを触って、はいはいと優しく接する優希さん。いつも優しい人だけど、今回はちょっと新鮮だった。おれたちに持っていたカバンの中から、タオルを出すように頼まれたので、言われるがままタオルを敷いてあげれば、その上に泣き続ける赤ちゃんを寝そべらせてオムツを変え始める。慣れた手つきで進めていく姿におれはただ感心しながら見ているだけ。


「んぅ…」
「はい、おしまいですよ〜、蓮、すっきりしたね〜」
「ん"ん"ん"ん"っ」


さっきまで泣いていたのは嘘のようにぴたりと止まる泣き声。優希さんはオムツを変え終えて抱っこし直せば、赤ちゃんは優希さんに甘えるように顔を擦り付けている。


「蓮、おいで!」
「ん"ん"っ」


ヒロくんが再度両手を広げるけれど、赤ちゃんはチラリとヒロくんを見るなり、プイッとそっぽを向いてしまう。


「あーあ、ヒロくん嫌われちゃったかな」
「ひーくんごめんね、寝起きで機嫌もあんま良くないかも」
「ウム、仕方ないよ」


とりあえず、赤ちゃんも泣き止んだし、オムツも変えてもらってスッキリしたようだし良かった。


「って、良くないよ?!この子、誰…?!」


完全に場の空気に流されて忘れかけてた。肝心のこの子の正体が分かってないことを思い出して声を上げれば、「ぅ"ぅ"ぅ"っ」とまた赤ちゃんがぐずりそうになる。


「あ〜ごめんね〜?!泣かないでよぉ〜」
「藍ちゃん、大丈夫だよ。はいはい、蓮ビックリしただけだもんね、ママがいるから大丈夫だよ」



赤ちゃんをぽんぽんとあやしてあげれば、ぐずっていた声もだんだん落ち着いてきてくれて、おれは胸を撫で下ろす。



「優希さん…、ママって」
「ふふっ。藍ちゃんは初めましてだもんね。ほーら、蓮。こんにちはーって、天城蓮ですって」
「ウム!蓮は僕の姪っ子だよ!兄さんと姉さんの子供なんだ!」


ぷにぷにと赤ちゃんの頬をつっつくヒロくん。赤ちゃんは嫌そうにその手を振り払ってまた逆の方向に顔を向けた。それによって視界に入る綺麗な赤毛は確かにヒロくんと同じもの。妙に納得しかけたけれど、おれはまた思わず驚きの声を上げて赤ちゃんをぐずらせるまであと数秒…。

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