パパの子育て



※出産後数ヶ月以内の故郷にて


連日、優希が蓮の面倒を見ていて疲れを溜めているのは知っていた。俺をできる限りのことはやっていても、優希みたいに乳をあげたりすることは流石に出来ないため、必然的に優希への負担の方が大きくなる。ましてや、自分のことよりも他人ばかりの優希だから、どんなに声をかけたって、優希はなるべく自分に抱え込もうとしていた。



職務を終えて屋敷に戻る途中、水城とすれ違う。どうやら、さっきまで優希たちのところに行っていたらしい。


「お勤めお疲れ様です、燐音様」
「ありがとう。優希のところ行ってたのか?」
「はい、あの子ったら弱音も吐かずにしっかりとやってましたよ」
「そうなんだよな…、もっと頼ってくれていいのに良い…」



俺の言葉が意外だったのか、水城は面食らった表情を浮かべる。すぐに、ハッとして「申し訳ありません」と一言謝ったのちにクスリと笑った。


「あの子は燐音様が大好きですからね」
「知ってる」
「だからこそ、頑張りたいんですよ。燐音様のためにも生まれてきた蓮のためにも」



水城の言い分はわかってる。優希から直接言われたわけじゃないけれど、今までずっと一緒に育ってきたからこそ理解してるつもりだ。それでも俺は、頼って欲しいし頼られたい。



「優希は私に似て不器用な子ですからね。燐音様…、その気持ちを、そのまま改めてまた伝えてみてあげてください」



あの子は不器用で、頑張りすぎると周りが見えなくなっちゃう子ですから、そう言って水城はその場を去った。












優希たちの元へ戻ってみるが、中はすごく静かだった。優希の名前を呼んでみるが反応はない。

部屋の隅に人影を見つけて、よく見てみればそれは優希の後ろ姿だったとすぐに気づく。丸まった背中は何やらゆらゆらと揺れていて、どうしたものかと近寄ってみる。


「あーう!うー」
「蓮、ただいま」
「うー!」


優希の腕に抱えられた蓮はご機嫌らしく、俺を見るなり両手を動かしながらお出迎えしてくれた。そっと頭を撫でてやれば、また返事をしてくれてまるで喜んでくれてるように感じて、今日の疲れもおかげで吹っ飛んだ。



「…可愛いな」


今の幸せを噛み締めながら、ふと優希に視線をずらせば、優希は目を閉じていて座ったまま眠りこけていた。ゆらゆらと船を漕いでいて、目の下には隈がくっきりとあるのが見える。小さく聞こえないように息を吐いて、どうしたものかと考える。


寝ている優希を起こすのも気が引ける、しかしこの状態で寝ているのも休まないだろう。腕の中には蓮がいるわけで、悶々と思い廻らせていれば、ぐらりと優希の体が大きく揺れた。


「あっぶなっ…」


咄嗟に出した腕で何とか倒れることは阻止できてホッとする。息をつけば、優希が「ん…」と声を漏らす。


「…り、ん…」
「優希」
「…あた、し…、」


ボーッとした様子で、まだ寝ぼけている優希はぼんやりと宙を見つめている。そんな時、「あーっ」と蓮が声を発したことにより、優希はハッと目を見開いて慌てた表情に変わる。


「っ蓮…」
「うー?」
「…ぁ…、よかった…」



その様子を見て俺は優希から蓮を抱き上げれば、優希は「あっ、」と声を漏らして不思議そうな表情で俺を見つめる。


「もう良いから」


びくりと優希の体が震えた。一瞬でも不安の色が目に宿る。



「り、」
「優希は頑張り過ぎなンだよ…」


蓮を抱えたまま、右腕で蓮が潰されないように優希を抱き寄せる。


「俺も蓮の父親なんだからさ…、優希ももっと頼ってくれよ」
「り、ん…」
「俺だって蓮のこと見させて。頼りねェかもしれないけど」


自信持って言えることではないけれど、俺だって一緒に頑張りたいんだってことを伝えたくて言葉を紡げば、蓮も腕の中で「あう〜」と声を漏らす。それがあまりにもタイミングが良くて、つい笑ってしまった。


「ほら、蓮もママ休んでって言ってンだろ…?」
「…燐…、ありがと」


お礼なんて言うことでもないのにな。そのためにここに戻ってきたわけだし。あれから、優希は「蓮が泣いたら起こしてね」と言って、布団の中に入る。水城が来ていた時も寝ていたらしいけど、多分蓮に合わせて寝ていただけだろうから睡眠は存分に取れてないだろう。


「ぁう」
「ママが寝てる間、パパと一緒にいような」
「んぅ」


あんな言い方で良かったのだろうかと思っていれば、蓮がパタパタと手足を動かす。それがまるで大丈夫と言ってくれてるようで、少しだけ気持ちが軽くなった。

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