仲間に報告
※妊娠発覚後
「は?燐音はん、故郷に帰るん?」
「優希さんもご一緒に」
「ははーん、燐音くんもしかして、できちゃったやつっすか?」
順番にこはくちゃん、メルメル、そしてニキの順番にそれぞれ言葉を投げかけられる。3人とも、思い思いに言葉を発していたがその表情はあまり驚いた様子もなく。ただニキだけは、食い物の口にしながら冗談混じりにニヤニヤしている。
その言われた言葉は決して否定できるものでもなければ、むしろ図星に値する内容で俺はなんと返せばいいのやらで、いつものような思考回路は仕事をせず言葉も出ない。所謂、ぐうの音も出ない状態で押し黙っていれば、ニキが「えっ」と固まった。
「ちょっと、燐音くんマジっすか?!?!」
「いつかはやると思ってましたが」
「ホンマにやるなんてさすがやな」
お前ら、俺を何だと思ってるんだと言いたいところだが、相談したい内容が内容なだけに今ここでいつもの調子の言葉は出せない。ニキは驚きのあまり立ち上がって大声を出すわ、メルメルはコーヒーカップに手をつける。こはくちゃんなんて肘をついてため息をついた。
「最近優希はんもずっと眠そうやったしなぁ。みんな心配しとったわ」
「軽いつわりもあるんだけどよォ…、どっちかって言えば睡魔の方が強いらしくてな」
「妊娠って言ったら、つわりだけじゃないんすか?」
「妊娠と言えばつわりのイメージが強いですが、初期には睡魔が出ることも結構あるようですね」
メルメルはおそらく妊娠初期症状について調べているのが、スマホを見つめている。俺もニキの言う通り、妊娠と言えばつわりとよく聞くが、今回優希の妊娠発覚まで睡魔が出ることは知らなかった。
「まあ、優希さんとの関係を見ていて、あなた自身後先考えてないはずがないと思ってますが、籍はどうするつもりですか」
「あァ、入れるに決まってンだろ」
「なんや、じゃあ故郷帰ってから籍入れするっちゅうことなんか?」
「逆だ、逆」
こはくちゃんは、俺の言葉に首を傾げているので、その発言を否定した。
「籍入れてから故郷帰ンだよ」
この時、正直誰の顔も見れなかった、と言うよりは目を合わせられなかったという方が正しいだろう。テーブルを見つめて発する言葉は、未だにこれで良いのだろうかと思ってしまうこれからの事。
「故郷に戻って優希の帰る場所…と、これから生まれてくる子供の顔を見せてやりてぇんだわ…優希の母親に」
直接的に、全てを話したことはないけれど、今まで優希を紹介した時、何か事が起きるたびに、掻い摘んだ話は色々としてきた。なので、なんとなくこの言葉だけでもコイツらなら汲み取ってるれるだろう。
「できるなら、里帰り出産…させてやりてぇなって」
出会ったのは故郷であり、その故郷から居場所を追い出されとしまったきっかけは俺で、外の世界で俺たちは再会した。それでも全然今までは問題なかったけれど、これからはそうはいかない。生まれてくる命は俺と優希の大切な子供で。周りがなんと言おうとも、その子に罪もなければ、やはり生きている限り出来ることはやってあげたい。
だって、いなくなってからは、会いたくたって会えないんだから。
ずっと目を逸らしてきた優希の母、水城とも向き合うべきなんだ、と。
「優希ちゃんがそれで良いんなら、良いんじゃないっすかね?」
「そうですね。そのために天城はユニット活動を休止させたいと言うことですね」
「…は」
「おや、てっきりその相談かと思ったんですが」
突然のメルメルの言葉に次は俺が驚いた。これからきちんと言葉にして頭を下げるつもりが、さらりと言い当てられてしまって言葉を失う。
「MDMの時とは訳が違うんやし、ええんとちゃう」
こはくちゃんが言ってるのは、MDMの時俺が全てを背負って故郷に帰ろうとしたことだろう。こはくちゃんも何食わぬ顔で目の前にある湯呑に入ったお茶をズズズと啜る。
「まあ、燐音くんがいない間、僕は料理人として活動しまくるだけなので問題ないっす!」
ニキはもはやいつも通りすぎ。いつものように、なはは!と笑って口の中に食べ物を放り込む。
「めでたい事ですからね、行く時はちゃんと段取りはしてからにしてください。じゃないと、HiMERUたちが後々に大変です」
「しかし、燐音はんが父親とか想像つかんわ」
「確かに!あ、燐音くん、故郷のお土産楽しみにしてるっすからね!」
あまりにも話は勝手に進むし、トントンで流れていくものだから、逆に俺が置いていかれてる気分になってしまった。気づけば、コイツらは良き理解者になっていたことを実感させられる。それがまた嬉しくて、胸の内が熱くなるのを感じた。けど、俺はそれを素直に言葉に出せないし、まあ出す必要もないかなと思ってる。
「バァカ。まだすぐには行かねェし、ちゃんと段取りはしてくっからよォ。けど、留守は頼んだからな」
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