たまごボーロ



座る僕の横には、立ってることによって同じ目線にいる蓮ちゃん。ヨダレでテッカテカに光る手の中には、一粒のボーロ。


「にーい、あー」
「あーん」
「にーい、…っちぃ?」
「ん、美味しいっすよ〜」


それを僕の口に入れてくれて、噛み砕けばほんのりとした甘味が口に広がる。なっははと笑いながら美味しいと伝えれば蓮ちゃんは嬉しそうにその場でバタバタさせる。手に持っていたたまごボーロの袋が振動につられてガサガサと揺れた。


「はい、蓮ちゃんのっすから、食べて下さいっす!」
「んぅ、」


次は僕がアーンとしてあげれば、素直に口を開けてパクッと食べてくれる。モグモグとさせてる間はきちんと静かにしており、口の中が空になると、また自らアーンと口を開ける。


「はい、もう一個っす」
「さっきから、蓮のこと完全に餌付けしてンだろ…」
「違うっすよ、蓮ちゃんが僕にたまごボーロくれるんっす。で、僕もお返しにあげてるんっす!」
「そのたまごボーロは、さっき俺っちがあげたやつだけどなァ」


目の前でテーブルに肘を立てて、面白くなさそうに見てる蓮ちゃんのパパである燐音くん。何故か蓮ちゃんに好かれてるらしい僕。せっかく娘と一緒にいられるであろう燐音くんは、完全に相手にされておらず不貞腐れてる。



「ほんっとによォ…なーんでニキなんだかねェ」
「んなっ!どういう意味っすか…!」
「ほら、蓮〜、パパにも一個ちょーだい」
「んぅ?」


試しに蓮ちゃんに話しかけてみても、蓮ちゃんは燐音くんの言葉を聞いて不思議そうな表情をしながら、手に持っていたたまごボーロをそのまま自分の口の中に突っ込んでしまう。手を口の中に入れたまま、モグモグとさせており、燐音くんはガックリと肩を落としてしまった。蓮ちゃん、なかなかにやるっすね。

まあ、この歳でわかっててやってたらすごいっすけど、子供だし仕方ないっすよ、燐音くん。





「蓮ちゃん、美人さんだし優しいし、このまま大きくなって欲しいっすね」


袋をガサガサと手を突っ込んでまた一つ取り出そうとする蓮ちゃんの頭を撫でれば、まだ多いとは言えない細くて柔らかい赤毛が新鮮で気持ち良い。


「ほーんと誰に似たンだかなァ…」
「ママに似たんすよね〜」
「見た目はパパ似だろうが」



ふふん、と気分を良さそうにしていた燐音くんに本音をぶつけてみれば、ドスの効いた声でマジレスされたっす…、コワイ…。



「けど、ホントこんな可愛いんすから、大きくなったらモテモテっすね」
「…相手は俺っちが見定めてやるからな」
「うん。コワイっす」


あ、つい言ってしまった。だって燐音くん、蓮ちゃんがまだ理解できないことが多いことをいいことに色々言うからホントコワイんすもん〜。



「はぁ…まじ子供が女の子だといろいろ不安になっちまうわ」
「燐音くんの場合、弟さん相手でも優希ちゃん相手でもおんなじだと思うんすけどね」
「言うじゃねぇかよォ、ニキくん」



ジト目で見てくる燐音くんは、いつものような睨みはない。何故なら、僕のところに蓮ちゃんという天使がいるっすからそんなコワイ顔もできないっすよね!さっきから言葉だけは充分、コワイっすけど!!!



「ぱっぱ!」
「おっ、パパにもくれンのか〜?蓮」



ふと、蓮ちゃんが燐音くんに手に持っていたたまごボーロの袋を差し出した。燐音くんは「ありがとうな」なんて言いつつ嬉しそうにニコニコとその袋を受け取るが、その表情はすぐに固まってしまう。

その一連の流れを見て僕は思わず噴き出してしまった。




だって蓮ちゃんの渡した袋は空っぽだったから。



「やっぱ、蓮ちゃんは燐音くんの子供っすね。パパにそっくり」



相手を喜ばして落とすところとかよくわかってる〜!

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