女王蜂と蜂



とある日のこと。
燐はメンバーと練習があると言って出て行った。その時の蓮といえば、まだスヤスヤと可愛らしい寝顔で夢の中。起こさないように燐は優しく撫でて出て行ったのはもう数時間前のことである。


「まっま」
「おはよう、蓮」
「あう〜」


ぱっちりと目を覚まして、辿々しく歩く蓮。今日の寝起きは良いらしく、声をかければ、小さくてぷにぷにの足をドタバタとさせながらやってくる。これがまた、可愛くてそのまま見ていたいが、転んだりぶつけたりしても怖いので、障害物に近づく前にそっと抱き上げた。


「蓮、今日はもらったお洋服着てお出かけしようか」
「んぅ」
「パパのところまでお散歩しようかな」
「ぱっぱ!」
「ふふっ、練習中のパパ見ようね〜」


ウリウリと顔を擦り寄せれば、蓮も嬉しそうに笑ってくれた。小さな手が顔に添えられて、軽くチュッとキスをすれば更に喜んでもらえたようで、ガバッと抱きついてくる。この時間もたまらなく好きだけど、決めたからには準備をしなければ遅くなっちゃう。















 
「蓮ちゃん、パパどこにいるかなぁ」
「ぱっぱ」
「パパいたかな〜?いないねー」
「ぱっぱ、」


朝、出かける前の燐に聞いたレッスン室を目指して移動中。蓮には、パパいたー?なんて、いないことを分かった上で問いかけながら通路の曲がり角だったり、共有スペースを覗いたりしながら歩く。いろんな人たちが行き交う場所もあり、蓮は抱っこしたまま。あっちだの指を差したり、いなければ、「ぶぅ…」と唸ったりする仕草がまた可愛くて笑みが溢れる。

気づけば目的地も、すぐそこで「パパいるかなー?」と扉の窓を覗いてみれば、中でダンスの練習中である燐を発見。その瞬間、蓮はバンバンと扉を叩か始める。


「ぱっぱ!ぱっぱ!!!」
「パパいたね〜」
「ぱっぱ、!」


中も練習中のため音楽が流れていることもあり、所詮子供の力、扉をいくらバンバン叩こうとも中までは聞こえておらず、いくら蓮が外から声をかけようとも気づく気配がない。



「まっま、ぱっぱ…」
「パパ気づいてくれないから、中入ろうね」



とうとう、シュン…と落ち込んでしまった蓮は、叩くことも呼ぶこともやめて胸に擦り寄ってくる。泣きはしないけれど、相当悲しかった様子が伝わってきて、胸が痛む。蓮を抱えたまま、大きな防音扉を開けて中に入れば、Crazy:Bの楽曲が室内に響いて流れている。練習の邪魔をするわけにもいかないので、とりあえず一区切りつくまで端の方で見学することを決めた。





「は〜休憩にするっす!僕、お腹減ったっすよ!」
「へーへー、わーったよ。って、優希来てたのか」


音楽が止まり、ニキくんがもう無理!って言いつつ、その場に倒れ込むように崩れ落ちた。さっきまでのキレのあるダンスをしていた雰囲気からはガラリと変わる。どうやらスタミナ切れらしく、動けない〜なんて言っていた。燐は呆れたように返事を返せば、ここでやっとあたしたちの存在に気づいて目が合う。


「蓮も来てたのか」
「やぁっ!」
「えっ…なんで」


燐は蓮に声をかけるが、蓮に伸びて来た手をパシッと払い退けて、プイッとそっぽを向いてしまう。突然のことに訳もわからず、動揺を隠せない燐にあたしは苦笑いを浮かべた。


「さっき、パパのこといっぱい呼んだのに気づいてもらえなくて拗ねちゃった」
「蓮ちゃんかわいそ〜っす」
「うっせェぞ、ニキ…。蓮…ごめんな」
「ぶぅ」


完全に不貞腐れてる蓮は、ぶぅ…と頬を膨らませて機嫌を直す様子は見られない。うーん、完全に拗らせてるようで困った。


「ほーらっ、蓮は今日可愛いお洋服着てるんだから。ぶちゃいくなお顔になってますよ〜」
「確かに、今日の蓮ちゃんはとても可愛らしい格好をしてますね」
「可愛い蓮ちゃんの服装見せてぇな」


HiMERUくんにこはくんも不貞腐れてる蓮をあやすように声をかければ、チラリと蓮が動いた。なので、そっと下ろしてあげれば、ちょこんと静かに一人で立って彼らを見上げている。


「蓮ちゃん、とてもお似合いですね」
「なっははっ、可愛いっす」


蓮は黒と黄色のストライプワンピースに黒いタイツ、頭には黒のカチューシャにぴょこんと二つ触角のようなものが生えていて先端には黄色い丸いものがついている。

「小さなハチさんやんな」
「ぶぅ、」
「コッコッコッ、ハチさんはブンブンやで」
「ぶぅぶぅ」


こはくんが蓮の目線の高さまで合わせてしゃがんでくれて、蓮は褒められたことに気分を良くしたらしく、パタパタとその場で足踏みをしてる。


「この洋服もらったんだけど、せっかくだからって思って散歩がてらお邪魔しちゃった」
「蓮ちゃんはパパにも見せたかったんですね」
「なのに、燐音くん気づかないでいたってことっすか〜蓮ちゃんかわいそうっす」



ちょっと可哀想だけど、蓮のためにちょこっとだけ便乗させてもらおう。口々に言われて燐は、ぐぅっと言葉を詰まらせる。燐は、一度ため息をつくと、蓮の前にしゃがんで「蓮、パパが悪かったから…ごめんなァ」と呟いた。蓮は、だんまりのまま燐のことをジッと見つめている。


「…ぱっぱ」
「蓮」
「ぱっぱ〜、ぱーぱ」
「良かった、パパ許してもらえたね」


さっきまでの不貞腐れていたことがウソのようにペタペタと燐の顔を叩く蓮。それにホッとしたようで、蓮を抱き抱えてあげれば、突然景色が高くなったことが楽しかったのか、キャッキャと笑い声がレッスン室に響いた。


「俺たちと同じハチさんだなァ、蓮は俺たちの女王蜂か」
「んぅ、ぱっぱ」

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