再会3



俺はあの日、お兄ちゃんになったと自覚した。あぁ、また一つ、守りたいものが増えたと自覚した。

大切な俺の弟である一彩。

小さな手、どうすればいいかわからず、そっと伸ばした手の人差し指がそっと触れると、その小さな手のひらでぎゅっと握ってくれたことを俺は忘れない。



「りんっ、かわいいねっ」


そんな一彩の小さな手が俺を指を握る姿を見て、俺の横でえへへと幸せそうにはにかんだ優希の笑顔。
その笑顔も俺はずっと守りたいと思った、ずっとそばにいると思ってた。








「あいどる…?」

「そうなんだ、すごいキラキラしてるんだ!優希にも見せてやりたい」


こっそりと抜け出しては外の世界を見に行く事が当たり前になっていた。外の世界はすごかった、俺の知らないことばかりで。だからこそ、優希にも知ってもらいたい、そう思ったのがそもそもの間違いだった。


里のものたちは、外の世界に出ることを推奨していなかった。それに加え、立場のある人間が出ていくことは禁忌とさえされていた。

幼い頃、一彩に外の世界に行くことを止められたことでさえあった。でも、俺は外の世界にこそ、面白いことがあると実感したから。可愛い一彩と離れてでもなろうと思ったアイドル。だけど、その中でひとつだけ絶対手放したくないと思っていたもの、それが優希だった。たった一回、一回だけだったんだ。いつもなら、優希が稽古の時間を狙って抜け出して行っていた外の世界。その度に里は大騒ぎで、戻ったとしても里のみんなは俺の言うことを理解できない表情で見てくるだけ。けれど、優希だけは、いつだって俺の話を楽しそうに耳を傾けてくれる。「燐が言うなら、きっと素敵なんだろうな」なんて言いながら、擦り寄ってくる優希。



「あたしも燐と同じものが見れたらいいのに」



優希なら、理解してくれる。


優希なら、俺のそばにいてくれる。


優希なら、


そう思って、あの日俺は優希の手を引いて外の世界に出たんだ。





楽しかった、一緒に過ごす外の世界に。

初めて見る景色にキラキラした目をして興奮気味の優希の表情。

(あぁ、優希だけは理解してくれる)

そう幸せを噛み締めていた。


だからこそ忘れていた、あの時の俺は単純で愚かだった。


里のものたちが、俺をどのように思っていたのかを忘れていた。












「燐音様!!!!」

「優希、お前まで…!」

「まさか優希までっ」

「燐音様がこうなったのは、」



里に戻るなり、里のものたちに捕まった俺たちはそれぞれ別の座敷牢に入れられた。怒りや化け物を見るような目で見てくる里のものたち。座敷牢に入れられるのは決して珍しい話ではなかったけれど、まさか優希まで一緒に捕まるとは俺も浅はかだったと後悔した。出たら、優希に謝らなければ。巻き込んでしまったこと、あいつは今泣いていないだろうか?一彩の前では、「おねえちゃんだから!」なんて胸張ってお姉ちゃんをしているが、一彩がいない時、俺と2人の時はとことん甘えん坊になる優希。
物心ついた時から一緒にいたからだろう、一緒にいるのが当たり前。横にいるのが当たり前で、寄り添ってるのが当たり前。




俺が大人たちと狩りに連れて行かれた時、怪我をして帰ったら優希は、目を大きく見開いて大粒の涙をポロポロと溢したことがあった。

「り、りんっしんじゃ、」


今思い出しても、こんなんじゃ死なないだろって思うけど、優希は俺の怪我を見て驚いて泣いた事がある。優希を宥めようとしていたら、俺の帰りを知った一彩も現れて、泣いてる優希にびっくりした上にあいつの言葉を鵜呑みにして、俺の怪我を見て一緒に泣いていたのも懐かしい。実は泣き虫な優希のことだから、きっと今も不安に思ってるだろうと思って、座敷牢から出してもらえた時、俺はまず優希の姿を探した。

他の座敷牢を見て、

優希の住まいに行って、

いつもの遊び場にも行った、

みんなには秘密だよ、って言ってた秘密基地にも行ったけど、



何処にも優希の姿はなかった。


里の何処にも優希はなかったんだ。





俺のせいで優希は里からいなくなった。

そのことを知ったのは、優希を探し回っても見つけられず、里のはずれでうずくまっていた俺を見つけてくれた優希の母さんから聞いた言葉だった。


(守らなければならない存在を)
(俺が壊してしまった)

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