帰宅とママ



あれから、メンバーに愛でられて構われて疲れた蓮は気付けばウトウトしていた。なので、抱っこして背中をトントンとリズム良く軽く叩いてやればそのまま瞼を閉じて眠ってしまう。


「蓮、寝ちまったし帰るわ」


そう言って、アイツらとは次の予定を軽く確認して帰路につく。肩に荷物をかけて、腕の中には蓮を抱えて、なるべく大きな振動を与えないようにして歩く。さっきまで、バタバタと足を動かして、何にでも興味を持って手を伸ばして、物によっては口にしてしまいそうになる瞬間、慌てて止めに入ったりとしていたのも嘘のよう静かに眠る姿は、これはこれで可愛いものだとつい笑みが溢れる。


「んぅ…まっま…」
「帰ったらママいるかなァ」


腕の中で顔を擦り寄せて眠る蓮の口から出たのはママという言葉。正直、今日一日よく泣かずにいてくれたなと感心してしまう。なんだかんだで、聞き分けがいいのか察しがいいのか、興味関心は年相応だが、それでもいろいろと子育てする上で聞く手のかかる悩みというのは少ない気がする。まあ、自分たちが蓮を溺愛し過ぎてるから気づいてないのかもしれないが。




家に戻ってきてみれば、まだ部屋の中は真っ暗だった。もう帰ってきてるだろうと思っていたからこそ、まだ帰ってきてないのか、と俺でさえ肩を落とす。しかしそのままでいるわけにもいかず、電気をつけながら家の中へ足を踏み入れる。荷物を置いて、蓮を抱えながらスマホを確認しようとしていれば、蓮がモゾモゾと動き出す。


「…ぅ、んぅ…まま…」


顔を何度も擦り付け、うーんと唸る蓮の目はまだ閉じたまま。寝ぼけているのか、夢でも見ているのかと思ってそのあどけない顔を見つめていれば、うっすらと蓮の瞳が開いた。ボーッとした様子の蓮と確実に目は合っているのだが、動かない。多分、まだ寝ぼけているのだろうと思っていれば、「…まま…」と再度言葉を漏らす。


「あーママなァ…」


ママである優希はまだいない。そして腕の中には寝起きの蓮。今日一日、ほとんどママと一緒にいれていないのだ。そして寝言でも寝起きでも「ママ」と何度も呟いているため、この後の流れは何となく予想がつく。予想がついてしまうからこそ、俺としては可能な限り阻止したい。


しかし、そんなのは無理に等しかった。


蓮は、すぐにぐすぐすし始めてしまい、目には溢れんばかりの涙を溜めている。背中をポンポンしながら、あやすが蓮の耳には入っていかない。こっちの気持ちとは裏腹に、蓮の小さな手が俺の服をギュゥっと握りしめる。



「まっ、ま"っま"…ま"ま"ぁああ"ッッッ」
「あァッ、ママはもうすぐ帰ってくっからなァ」
「ま"ま"〜っっっ」


目の前で大声で泣き始めてしまった蓮。完全に我慢の糸が切れたようで今日の楽しそうだった出来事がウソのようにギャン泣きしている。ひたすら、ママを求めて泣く蓮は、ニキの言ってたようにパパである俺ではもはや無意味で泣き続けている。


「パパと待ってようなァ…」
「やぁぁあああああっっっっま"ま"ぁあああぁああっ」


さり気なく、パパを否定されて正直複雑ではあるが。ここまで泣いてしまっては手の施しようがないから困った。ママと言いつつも、しっかりと俺の服を掴み、ぐしぐしと擦りながら涙やらなんやらを俺の服に容赦なく擦り付けてくる。ヤダヤダしながらも、離れようとせず、むしろしっかり掴まってるのは可愛らしいポイントだ。しかし、泣き止まないのも困っちまうな…。





「蓮、泣いてるの?」
「優希」


マジで優希のやつ、いつ帰ってくるんだと結局見れてないスマホをどうにか確認できないかと思っていれば、ひょっこりと顔を出したのは今の今まで帰宅を待ち侘びていた優希の姿。朝、出かけた時と同じ格好のままの優希はカバンも持ったままで、今まさに帰ってきたばっかりなのがわかる。そのまま、その場に持っていたカバンを置いて、ツンツンと蓮の頬を突っつきながら、名前を呼んでみれば一瞬だけ蓮が泣き止んでキョトンとした表情で優希を見る。その瞬間に、蓮はママの存在を認識し、先ほどよりも大きな声で泣き始めた。


「ま"ま"ぁあああああっっっっ」


完全に求めるのはママである優希のことだけで、俺に抱き抱えられているというのに、俺には見向きもせず、胸元や顔を手で思いっきり押しのけながら、優希のところに行こうとする。抱えているわけだから、そんなことをしたら落としかねないため危ないというのに、そんなことをもちろん知らずにいる蓮。なんとか、押しのけられながらも優希に受け渡せば、ずっと探していたママの元に行けた安心感からだろう、段々と静かになっていく。



「ま"っま"っ…ぐすっ、うぅぅぅっ」
「はいはい、蓮ちゃんお待たせ〜寂しかったね〜」
「ぐすっ、ままっ…」


優希の胸に顔を埋めてはいるが、垣間見える目は真っ赤になっていた。一瞬だけ、目が合うが蓮はぷいっとそっぽを向いてしまう。昼間までのことがまるでウソみたいだ。



「昼間は泣かなかったのによ…」
「うん、知ってる。こはくんたちと途中で会って聞いたよ。蓮ちゃん、パパと一緒にお出かけしてみんなと一緒にご飯食べたんだよねー」
「パパといい子にしてたんだよなァ」
「ニキくんに、蓮のご飯も作ってもらったって聞いたよ…?」
「ニキの飯の方が美味ェからな」


まあ、言いたいことはわかるけど困らせちゃダメだよ、と優希は困ったように笑った。


「パパも一日お疲れ様」


優希だって疲れてるはずなのに、いつだってこうやって言葉をかけてくれる。だからこそ、たまにはガラにもなく、「俺もママに甘えてェな…」なんて言葉を口にしてしまえば、優希はクスクスと笑い出す。


「ふふっ、パパも甘えん坊さん?」
「優希だからな」


お互い見つめ合っていれば、そっとシャツを引っ張られて、見てみれば蓮がなんとも言えない表情で見上げている。


「…ぱっぱ…」
「蓮〜」


やっぱり、優希は最愛の奥さんだし、どんなにママ優先で嫌がられても蓮は可愛すぎる娘だ。

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