感謝と愛情



※5000hitフリリク
※帰省と報告の続き

※燐音視点


職務を終えて、里の中を歩きながらぼんやりと周りを眺める。閉鎖されたここの住人たちは、今日も変わらずいつものように田畑を耕し、川に行ったりしている。

いいように言えば平和で、率直に言ってしまえば何の変化もない生活が嫌で、アイドルに憧れて出て行ったあの頃が懐かしい。


すれ違う人々からは、「燐音様」と呼ばれ挨拶をされ、ただただ適当に返していく。


「優希さま、もういっかい!」
「もっとおしえて!」


里の中心部から少し離れたところで里の子供たちが何人か集まって座り込んでいる。見れば、その中心にいるのは故郷の衣服を纏い馴染んでいる優希の姿があった。


「優希さまっ、おじょうず!」
「なんで歌なの?」
「これはね、」


優希はどうやら、里の子供たちに歌を歌っていたようで心地よくも優しい優希の声が耳に入ってくる。元々面倒見のいい優希だから、戻ってきたばかりの時は里のものたちとも昔のことのせいで距離感があったものの今では子供たちから1番の人気者だ。本当なら、自分の腕の中に収めていたいのに、せっかくアイドルとして見られない世界に戻ってきたというのに此処は此処での周りの目があって動きにくい。


それもまた仕方のないことだけれど、やはり無いものねだりになってしまうのは、人間の強欲さの表れか…と自覚させられる。



「優希さま、ほらっ燐音さま!」


子供たちの一人が俺の存在に気づいて声を上げた。それは優希も同じで、こちらを見るなり先程までとはまた違ったあどけない笑みを浮かべてくれる。そこにいる誰よりも愛おしくなるほどの表情だ。


「みんな、優希と一緒にいたのか」
「優希さま!うたをうたってくれてたの!」
「すっごくおじょうずでした!」
「ねぇ、優希さま、もっとおうたをききたい」


子供の一人が、優希を見上げながら甘えるように寄りかかる。俺は知っている、優希はこういう甘え方に弱いことを。



「そろそろ優希を休ませてやってくれ」
「燐…、あたしは大丈夫だよ」
「ダメだ。無理はさせられないからな…、ほらみんなで遊ぶんだ」



優希は困ったような表情を浮かべるが、こういう時、子供たちの方が実は聞き分けが良かったりする。案の定、子供たちは「はーい」と声を揃えて動き出す。その中の一人が、優希のところへトコトコと近づいてお腹をそっと抱きしめる。



「また遊ぼうね」
「ふふっ、ありがとう、お姉ちゃん」
「うんっ!」




















燐に手を引かれて、家までの道をゆっくりと歩く。以前より大きくなったお腹を撫でながら。本来ならば、母の跡を継いで舞を披露する催しなどのお稽古やら何やらしなければならなかったのだろうけれど、なにゆえこのお腹ではそんなことはしてられない。

まあ、元々これが理由で戻ってきたので無理なのはわかっていたけれど。

さっきまで一緒に遊んでくれていた子供たちもあたしやこの子を温かく迎え入れてくれたことが嬉しかった。もう戻って来れないと思ったこの場所で、今大好きな燐の横にいられている。


「りーん」
「ンー、どうしたァ」
「ごめんね」


本当ならもっとアイドルをしたかっただろうに、あたしのために一緒に戻ってきてくれた。一度離れた手をまた繋いでくれた。居場所をくれた大好きな人。


「何に謝ってンだよ」
「だって」
「いいンだよ、俺の幸せは今ここにあるし、この先にあンだから」
「燐…」
「それにちゃんと言っただろ?解散してねェし、ちゃーんと休止だってよォ…。アイツらだって承知の上なんだから、気にすンな」


だから、泣きそうな顔すんなって、


気づけば燐の顔が目の前にあって、そっと頬を包んでくれててその温かさがまた優しくて止めどない思いが溢れ出そうになる。


「燐…」
「ン…?」


ありがとう…見つけてくれて



ありがとう、またそばにいてくれて




ありがとう、お母さんにしてくれて




「燐、だいすき」
「あァ、知ってる」




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あとがきと独り言

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