帰省と報告〜後編〜



「燐音様が優希を見つけてくださっていただなんて」


もう会えないと思っていたから、夢みたい…そう言って微笑む母様は、昔と違ってすごく小さく見える。いや、あたしが大人になったからなのだろう。

あれから、何年振りかの実家に戻ってきた。母様と久々の再会が嬉しくて、心配してくれていたことが申し訳なくもあったりもして、母様は燐とお話ししながらもあたしを優しく見つめる。


「優希が出ていくことになったのは俺のせいだったからな」
「ちがっ、燐のせいじゃ」
「俺のせいで出ていくことになって、辛い思いさせた。水城とも一緒にいれなくなって、すごいたくさん嫌な思いもさせたし、申し訳ない」



びっくりした。気づけば燐は頭を下げて謝っていたから。君主として長として、その姿は堂々とすべきであり、こんな風に頭を下げてはいけないはずなのに、燐は今母様に対して頭を床につける形でしっかりと下げていた



「燐音様…、頭を上げてくださいっ」
「ダメだよ、燐、顔上げて…」
「優希のいう通りです、燐音様」


再会してからずっと繋いでいた母様との手を解いて、燐に近づいて下げてる頭にそっと触れる。頭を上げるよう促せば、燐はゆっくりと抵抗することなく上げてくれた。



「優希は昔から燐音様が大好きですからね。どんな理由であれ、優希は燐音様のため思っての行動です」
「母様…」
「それを、あなた様がそのように頭を下げてしまっては、優希の行動さえも否定することになってしまう…、私は今こうやってまた娘が戻ってきて嬉しいのです、もう十分ですから」
「水城…」


燐は母様の言葉に目を見開いて驚きの表情を浮かべる。けど、驚いたのはあたしも同じだった。母様にどう思われてるかが一番不安で、知るのが怖かったはずなのに、出てきた言葉は全然予想してもみなかった言葉で一瞬理解が追いつかなかった。


母様はすごいな…。


昔から、たくさん迷惑かけて心配かけてばっかりだったのに。込み上げる気持ちのせいで目頭が熱くなる。ぼやけそうな視界を何とか堪えて、あたしは少しだけ深く息を吸い込んだ。



「水城…じゃあもう一つ話があるんだ」
「お話しですか…」



母様は多分、何を言われるんだろうかと思いつつ、その先が予想つかないのだろう。燐の言葉を不思議そうに待っている。


「優希を正式に妻にする。そのために戻ってきたばかりだが、優希をこの天城に迎え入れさせて欲しい」



燐を見つめていた母様の目はあたしへの視線を移す。先程まで優しかった視線とは違って、真面目なものだ。



「…優希はいいの…?」

「あたしは…燐がいい」


天城とか君主の嫁になりたいわけじゃない、燐が燐だからだ。その意思は、今も昔も変わらない。それを真っ直ぐに伝えれば、母様はすぐに笑ってくれた。


「なら、あたしが否定する理由は何もないです」











「まったく、今日は驚かされてばっかりですね」

里に戻ってきて早々に母様のところに戻ってきたから、あたしたちは普段の私服のまま。母様は何処からか故郷の服を取り出してきてくれた。


「…いつか、優希が戻ってきたらと思って用意しておいたのよ」


どうやら、あたしの分の服を見繕っていてくれたらしく、これまた予想外のことに涙が出そうになる。けど、そんな気持ちと裏腹に母様は「優希、外で栄養の摂り過ぎじゃないかしら…、発育いいのは嬉しいんだけど」なんて言いながら、胸やらお腹を触る母様。



「あ、えっと」
「水城…もう一つ…」
「なんですか?」
「優希…、その孕ってるんだ…」



「俺との子を」とボソリと呟いた瞬間、数秒後に母様の驚きの大きな声が響き渡る。



里に戻って受け入れられるかすらも不安だったのに、実はもう外の世界で籍も入れて天城の姓を名乗ってることは、また別の日に伝えようと思った。

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